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アディヤートマ・ラーマーヤナ(32)「マーリーチャの殺害」

第七章 シーターの誘拐

◎マーリーチャの殺戮

 ラーマは、あらかじめラーヴァナの計画を予知し、ある日シーターだけを呼んで、彼女にこう仰った。

「ああ、ジャナカの娘よ! 私の言葉を聞きなさい。ラーヴァナが托鉢を求めに苦行者の姿でお前に近づいてくるだろう。ゆえに、代わりに魔法を使ってお前の分身を創って、それをアシュラムの外で待機させ、お前は中へ入り、見えない姿で炎の中に身を隠しなさい。私の要求どおりに、お前はこのようにして、一年の間隠れ続けてもらいたい。そしてラーヴァナが殺されたとき、お前は再び私と一緒になれるだろう。」

 このラーマの指示に従って、シーターは外で魔法の分身を創りだし、自分は炎の中に隠れたのだった。
 そして魔法のシーターが魔法の鹿を見つけ、その光景に驚いて笑いながらラーマに近づき、慎ましい声でこう言った。

「見て、見てください! 色とりどりの斑点の素敵な野生な鹿がおります。あちらこちらをはしゃぎ回っています。どうかあの魅力的な鹿を捕まえて下さいませ。あの子を遊び相手にしたらどんなに楽しいことでしょう。」

 ラーマはそれに同意して準備に取り掛かり、手に弓を持ってラクシュマナにこう仰った。

「私の愛しき妻シーターから目を離さないように十分気を付けてくれ。
 森には、魔術で人を騙すのに巧みな恐ろしい悪魔共が大勢いる。ゆえに、かくのごとく極めて油断なくあれ。どんな手段を使ってでも、徳高く献身的なシーターを守るのだ。」

 しかしラクシュマナは、そこでラーマにこう言った。

「ああ、気高き御方よ、これはマーリーチャが鹿に化けているだけであります。それに疑いはありませぬ。こんな鹿はどこにも存在しません。」

 ラーマはこれに返答してこう仰った。

「あれがもしマーリーチャであるならば、私は間違いなく奴を殺すだろう。そしてあれがもし本当の鹿ならば、私はシーターの遊び相手に、あの鹿を捕まえてやろう。
 とにかく私はもう行くが、鹿を捕まえてすぐに戻る。どうか、用心深くシーターを警護していておくれ。」

 このように指示を出した後、ラーマは魔法(マーヤー)の鹿を追いかけたのだった。――世界に魔法をかけて魅了し、宇宙として顕現しているマーヤーと呼ばれる無限の幻影の支えであるラーマが・・・・・・。
 純粋なる魂、自ずから完全なるもの、不変なるものであるにもかかわらず、彼はその鹿が本当はマーリーチャであると知りながらも、シーターを喜ばせるために鹿を追いかけていったのだった。彼は「至高主は常にその帰依者に対して慈悲深い」という言葉の成就ためだけにこのすべてをおやりになったのだ。(なぜならば、マーリーチャは解脱の手段として彼の御手で殺されること選んだ帰依者であり、ラーヴァナも呪いをかけられ、ラーマの御手によって殺されることを待っているジャヤとヴィジャヤという二人の帰依者の一人であったからである。)
 近くに現れては、逃げ、消える、そして再び少し距離を置いて現れてはまた消えるということを繰り返し、その鹿はなんとかラーマをかなりの遠くの距離まで引き付けた。ラーマはこのとき、あの鹿は本当に悪魔であるに違いないと確信し、矢でそれを撃った。そしてマーリーチャは血まみれになりながら本性の姿に戻って倒れたのだった。倒れながら、彼はラーマを真似た声でこう叫んだ。

「ああ! ああ! おお、力強きラクシュマナよ! 私は死にそうだ。早く来て、私を助けてくれ!」

 ラーマの御名を死のときに発するだけで、ジーヴァは彼、シュリー・ハリに到達する。ならば、彼の御手によって殺され、彼の肉体の存在を眼の内に見たこの悪魔はどんな栄光ある境地に達したというのであろう? 全く驚いたことには、この光景を目撃していたデーヴァとその他の者たちは、その悪魔の屍から光輝が現れて、ラーマの中に溶け込んでいったのを見たのだ。
 デーヴァたちはこのように話し始めた。

「あの苦行者を殺戮してきた罪深き悪魔が、どうやってあの最高の神秘性の境地に達したというのだ? ラーマの他には誰にもその説明はできないであろう。彼は今ラーマの矢によって殺されたのだ。その前に、彼はずっとラーマのことを考えていたぞ。ラーマへの恐れから、彼は家や富などを放棄し、絶えずラーマへの熟考に従事していた。このようにして一切の罪は燃え尽き、彼は面前にその自分の眼でラーマを見ながら、彼の御手で殺されたのだ。なんと幸運なことか。
 ブラーフマナであろうが悪魔であろうが、罪人であろうが善人であろうが――ラーマを思いながら死ぬならば、その者は至高なる境地に達するのである。」

 このように互いに語り合いながら、デーヴァたちは自らの住処へと帰っていった。

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