『鳥のダルマの素晴らしき花輪』より(1)
『鳥のダルマの素晴らしき花輪』より抜粋
その昔、観音菩薩は、羽根を生やした生き物の仲間たちに正しいダルマを説こうと思い立ち、カッコウに姿を変えて、大きな白檀の木の根元に座って、何年もの間、「昼も夜も身じろぎもしない」という深い瞑想に入りました。カッコウは鳥たちの王と呼ばれることもあるくらい、とても高貴な鳥だと考えられていました。
ある日のこと、瞑想をしていたカッコウの前に、鸚鵡の先生がやってきて、こう語りかけました。
「エウー、鳥の仲間のなかでもとりわけ高貴なカッコウさん。
あなたは一年もの間、この場で動くこともなく、
白檀の木の涼しい木陰で、静かに、物音も立てず、
ひと言も発することなく、座り続けていました。
どんな怒りも、あなたの心を乱せなかったことでしょう。
高貴な鳥よ、瞑想から覚めたそのときには、
どうぞ、栄養たっぷりなこの果物をおめしあがりください。」
偉大な鳥は、それに答えてこう言いました。
「言葉の枝に巧みな鸚鵡よ、よくお聞きなさい。
わたしは、この輪廻の大海をくまなく調べたうえで、
そこには本質を持つものなどひとつもないことを理解しました。
わたしは見たのです、この鳥の体が生まれた果てに死ぬ様子を、
そして、食べ物を必要としてたがいに殺し合っているさまを。
なんとあわれではありませんか。
わたしは見たのです、せっかく作りあげた巣の壁がしまいに崩れ去っていく様子を、
そして、土と石でできた住まいは消えていってしまいました。
なんとあわれではありませんか。
努力して集めた宝物も、ほかの鳥が奪っていってしまいました。
せっせと集めて上手に隠しておいたつもりなのに、なんとあわれではありませんか。
仲良くなれた鳥たちも、群れをなしたその後には、たがいに別れ別れになっていきました、せっかく好きになれたのに、なんとあわれではありませんか。
子供たちはどうかといえば、懸命に育て上げたあげくには、敵の仲間になっていきました。我が身から生まれた者よと慈しんで育てたのに、なんとあわれなことではありませんか。
絆で結ばれた家族も親しい友たちも、
育てた子供も、蓄えた宝物も、
すべては幻のように無常です。
そこに本質を持ったものなど、ひとつもありません。
それを知ったわたしは、いっさいの活動をやめ、
立てた誓いを守り抜くために、
この白檀の木の涼しい木陰で、
孤独に沈み、口を開くこともなくゆったりと座し、
心を乱すことのないサマーディの瞑想にふけったのでした。
さあ、鸚鵡先生、
今すぐ、気高い心を持つ鳥たちのもとに出かけて行って、
今わたしが語ったことを、今度はあなたがみんなに語って聞かせるのです。」
そこで、仲間から「先生」と呼ばれていた、言葉の巧みな鸚鵡は、大きな鳥と小さな鳥たちに、不思議なやり方で合図を送りました。すると孔雀に率いられたインドの鳥たち、禿鷹率いるチベットの鳥たち、雁に引率された水鳥たち、鸚鵡に連れられた樹上の鳥たち、ライチョウの引き連れる吉兆の鳥たち、赤い胸の雄鷄に率いられた家禽たちが、あらゆる方角から集まってきました。鳥たちは、正しいダルマの教えを求めて、偉大なカッコウのもとに集まってきたのです。インドの鳥たちの長である孔雀は、自分の引き連れてきた鳥たちを右側に整列させ、チベットの鳥たちの長である禿鷹は、自分の仲間たちを左側にきちんと整列させました。
言葉の技に巧みな鸚鵡は、集まりの中から立ち上がり、竹で編んだ垣根のように体を斜め左右に揺すって、三度会釈したあと、こう語り出しました。
「エウー、けだかいけだかいカッコウさん。
あなたはすっかり輪廻に倦み疲れているご様子だけれど、わたしたちに少しだけでいいですから教えてほしいのです。
わたしたちは無智に心を曇らされた生き物ですので、
過去から積み重ねてきた悪い行ないの結果として、
苦しみにみちた生存条件に縛りつけられ、自由に身動きもできないでいます。
苦しみからわたしたちを解き放つ、正しいダルマを教えてください。
無智を吹き払う灯明を与えてください。
汚れを清める薬のありかを教えてください。
ここに集まってきた鳥たちに、正しいダルマを教えていただけるならば、
わたしたちは教えていただいたことを、一生懸命に考えぬいてみると誓いましょう。」
そこで、偉大な鳥と呼ばれるカッコウの姿をした観音菩薩は、羽根を三度羽ばたかせてから、こう語りました。
「カッコー!
この場にお集まりの鳥さんたち、心を静かに落ち着かせて聞いてください。
世界は無常であることを、よくお考えなさい。
死はいつやってくるかわからないことを、よくお考えなさい。
心を汚すおこないから遠ざかることの大切さを、よくお考えなさい。
善につながる良い心を、心の中いっぱいに広げるのです。
今生でも来世でも、いつも三宝が守りの場所になってくれます。
帰依のおおもとは、深く信じる熱い心です。
いつも心の中にあこがれをもって願い続けなさい。
この生で体験する喜びも幸福も、しょせんは夢にすぎません。
自分の心の外にあるものに執着してはなりません。
この生でなしとげなければならないことを、まっすぐに見つめなさい。
そこをめざすときだけ、ほんものの喜びと幸福が得られます。
あなた方の心を引きつけているこの世の行為には、真実の意味がありません。
心の奥では、なんの行為にも引きつけられてはなりません。
これこそが、世界に打ち勝った者であるブッダのお考えにほかなりません。
これから七日間、あなた方は、いまわたしが語った教えの内容を、深く考えぬいていらっしゃい、
そしてそれがすんだら、わたしのところにいらっしゃい、カッコー!」