「解説・マルパの生涯」(4)
【本文】
この最初のインドへの旅において、マルパにはニュという名前のライバルがいました。彼は別の師のもとにつき、いろいろな教えを学んでいましたが、その知識においても、成就においても、マルパの方が優れていました。そこで嫉妬したニュは、チベットへの帰りの旅中において、事故に見せかけて、マルパがインドから集めてきた大事な経典を、すべて河に投げ捨ててしまったのです。
マルパは、苦労して集めた経典が消えてしまって、一瞬悲しくなりましたが、しかしそれら経典に書かれている秘儀はすべてマルパ自身がすでに会得していたので、そう思うと悲しみは消えました。このエピソードは、マルパが単にインドから経典をチベットに持ってきて翻訳しただけの学者というわけではなく、成就者だったことを示しています。
はい。これはまあ、ある意味すごいエピソードだけどね(笑)。まあ十数年間ね、一生懸命学んで、もう徹底的に、インドの教えをね、学び、まあ学ぶだけじゃなくて自分も修行してそれを体得して、で、やっと帰国の途に立ったと。まあちょうど同じ時期に、行きで一緒だったニュが、一緒にね――まあおそらくこれも縁があるんだろうけどね――一緒に帰ることになったわけだけど。まあ当然お互いにね、「おい、どんな教えを学んできたんだ」って感じでお互いこう、言い合いするわけですね。その中でニュは、「完全にもう負けた」と思ったわけです。このマルパっていう男は、学問においても、あるいは修行の達成においても、全くおれ以上の境地に達してしまったと。で、ニュっていうのはちょっとこう、なんていうかな、現世的な、ちょっと世俗的な気持ちで教えを学びに行った人だったんで――つまり最先端の教えを学んでね、偉い仏教の先生になろうっていう気持ちがあったから。で、マルパがこのまま帰ってしまうと、自分以上にすごい崇められてしまうので、ちょっと嫉妬してしまったんだね。そこで船で川を渡るときにね、船頭にお金を渡して、事故に見せかけて、全部マルパの経典を川に落としたっていうんだね(笑)。そこまでするかって感じだけど(笑)。ライバルが持ってた、ねえ、せっかくの遺産であるそのインドからの経典を川に落とさせたと。
で、普通はまあそこで怒ったり、落胆するんだろうけど、マルパは、まあ一瞬は悲しくなったわけだけど、しかしそれらに書いてあることは全部会得していたから悲しくなかったと。これはだからマルパのすごさを表わしているね。普通だったら――教えはあくまでも学問と考えたら、やっぱりその本がなくなったことは悲しむわけだけど。でもよーく考えたら、「ああ、全部おれ、体得しているわ」と。ね(笑)。だからまあ、ある意味本は必要ないというかたちで、悲しみは消えたっていうんだね。だからこのエピソードはマルパが成就者だった――つまり教えを学問として持ち帰った人ではなくて、自分のね、経験として、悟りとして達成した人だったっていうのを表わすエピソードだっていうことですね。
はい。じゃあ次いきましょう。
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