「私が見たアドブターナンダ」より抜粋(5)
◎強烈な切望
シュリー・ラーマクリシュナがカーマールプクルに行っているとき、ラトゥはよくドッキネッショルを訪ねた。
彼は、誰もいないパンチャヴァティかガンガーの岸辺で、数時間を過ごした。
あるとき、ラトゥをよく知るシュリー・ラーマクリシュナの甥のラームラルは、遠くから彼を見つけた。
彼は、静かに座り、河辺で意気消沈し、涙を流している少年を見たのだった。
彼は思った。おそらく、その少年の主人であるラーム・バーブが、彼がお務めをおろそかにしたために彼を叱り、彼はそれに傷ついて泣いているのだろう、と。
しかし、彼に近づいて泣いている理由を聞くと、ラームラルは驚いてしまった。
以下に、ラームラルが語った出来事を記そう。
「私は河辺で座って泣いている少年を見つけた。
泣いている理由を聞くと、彼は、タクルジ(ラーマクリシュナ)がいなくてとても悲しいのだ、と言っていた。
彼がシュリー・ラーマクリシュナに抱いていた発想は、非常に驚くべきものだった。
彼は、シュリー・ラーマクリシュナには不可能なものはないと思っていた。師はもし望みさえすれば何でもできるのだと思っていたのだ。
そう思って彼は、師が実際に彼の目の前に現われるように、彼に呼びかけていたのだった。
彼は、シュリー・ラーマクリシュナはドッキネッショルに永遠に存在していて、師が生まれ故郷に帰っていたとしても師はドッキネッショルにいるので、彼に会うことができるのだ、ということを誰かから聞いたらしかった。
この考えを持って、彼は正午から夕暮れまで、そこに座っていたのだった。
日が暮れて暗くなってくると、私は少年に家に帰るように言った。
あなたは、彼の返答を聞いて驚くだろう。
彼はこう言ったのだ。
『僕は、パラマハンサ・マーシャヤ(彼はよく師のことをこう呼んでいた)は絶対にここにいるって、完全に確信していますから。』
何度も何度も、私はこう言った。
『いやいや、彼は帰郷されたんだよ。』
そうしたら、彼は何度もこう言い返してきた。
『いいえ、あなたはわかっていません。パラマハンサ・マーシャヤは、絶対にここにいらっしゃるんです。』
この少年の確固たる信を見て、私は黙って、寺院の夕拝に参加するために戻っていった。
寺院に戻ってきてから、私はラトゥにプラサードをあげていないということに気づき、プラサードを持って彼のもとに戻った。
そこに戻ると私は、彼が額を大地につけて平伏しているのを見た。
私は当惑して黙っていた。
数分後に、私が目の前に立っているのに気付くと、少年は驚いて、私にこう尋ねた。
『ああ! パラマハンサ・マーシャヤはどこに行ってしまわれたのですか?』
不意を突かれて、私は何も答えられなかった。
私は彼にプラサードを渡すと、寺院に戻っていった。」
われわれは、ラトゥと親しい関係にあった多くの人々に尋ねてみた。
彼らは皆、この時期における彼の生活を、同様の描写で話していた。
「彼は食物、飲み物、仕事、娯楽、そして主人であるラームへの義務にも、全く無関心だった。
彼は眠ることができず、仕事をしてもその緊迫した感情から解放されることはなかった。
彼は、肉体の維持に必要な生理的な作用にさえも、全く衝動を感じていなかった。」
少年のこのかつてない変化は、彼の主人ラーム・バーブを悩ませた。
ラームはこの少年を心から愛していたのだ。
彼の誠実さ、簡素さ、務めへの献身、これがラームを彼に惹きつけていた。
そして、この少年のシュリー・ラーマクリシュナとの別離から生じる激しい悲痛は、ラームに感嘆の念を湧き起こさせたのだった。
彼は、この少年の、グルへの揺るぎない信に魅せられたのだ。
この理由から彼は、この少年の義務の放棄を見逃してあげていた。
彼自身バクタであったラームは、バクタのハートの悲痛をよく理解していた。
彼自身、深くシュリー・ラーマクリシュナに献身していた。――それなのに、彼がラトゥに共感をもたないということがあろうか?
この愛、この別離の悲痛は、二人に共通したものだった。
ラームがラトゥという天使を守り、同情心のない縁者や友人の厳しい批判から彼をかばったのは、ごく自然のことだったのだ。
彼は、他者が少年に家住者の義務を押し付けないように取り計らった。
彼はこの間、他の召使いを雇い、ラトゥを外的な心配から解放してあげたのだった。
この時期のあるとき、ラーム・バーブは、彼の家で腸チフスの療養中だった聖者ニティヤ・ゴーパールに、毎晩、チャイタニヤ・チャリタームリタ(シュリー・チャイタニヤの生涯)を読んで聞かせていた。
ラトゥは、それを一度も聞き逃さなかった。
この本には、主と帰依者の主従関係について多くのことが論じられており、ラーム・バーブとニティヤ・ゴーパールはよくこれについて論じ合った。
ラトゥは、それらの会話を耳をそば立てて聞いていた。
ときどきラーム・バーブは、シュリー・ラーマクリシュナのおっしゃったことや例え話を引用して、自らの解説を装飾した。
これは、非常に明快な効果があった。
われわれは、ラトゥが大事に心にしまい込み、後になってわれわれに語ってくれた一つの話を以下に綴ろう。
「ほら、村には機織りが住んでいた。
彼は敬虔な男で、人々は彼を心から愛していて、彼に大きな信頼を置いていた。
彼はよく市場で布を売っていた。
あるとき買い手がやってきて、彼に布の値段を聞いた。彼はこう答えた。
『ラーマの思し召しにより、糸の値段はこれくらいで、ラーマの思し召しにより、労働の費用はこれくらいでしたので、ラーマの思し召しにより、私の利益はこれくらいでしょう。』
そのようなことから、人々は彼を信頼し、すぐにお金を払うと、布をもっていくのだった。
ある日、夜に彼が神に祈りを捧げ、御名を唱えていると、強盗を犯した追いはぎの集団がそこを通りかかり、彼を無理やり荷物持ちにして同行させた。
彼らが機織りの頭にその荷物を載せて帰っている途中、警察と出くわしてしまった。
追いはぎは皆、頭に荷物を載せた機織りを残して逃げた。
その哀れな男は、警察の手によるさまざまな尋問に耐えなければならなかった。
しかし機織りは、『ラーマの思し召し』と言うのをやめなかった。
彼は法廷にあげられた。
そして事実を語るように求められると、彼はこう言った。
『主よ、ラーマの思し召しにより、私は神の御名を唱えていました。そうしたら、ラーマの思し召しにより、追いはぎがやってきて、私を無理やり同行させました。
そしてラーマの思し召しにより、彼らは私の頭に荷物を置きました。ラーマの思し召しにより、われわれは歩き出しました。
するとラーマの思し召しにより、警察がやってきました。ラーマの思し召しにより、追いはぎ達は逃げました。
ラーマの思し召しにより、私は捕まりました。
ラーマの思し召しにより、私は尋問を受けました。
そしてラーマの思し召しにより、あなた様方の前に連れてこられたのです。』
判事はその状況を理解し、その機織りを解放した。
法廷から帰る途中、彼は『ラーマの思し召しにより、私は解放された』と言っていた。」
神との主従関係を、ラトゥ・マハラージは晩年によく、非常に生き生きと力強く語ったので、聞き手の心に消えることのない印象を残した。
「息子よ、君は神にお仕えするためにいるんだよ。媚びへつらうためじゃない。
主は、金持ちがするようなごますりがお好きだと思うかい?
君は、金持ちがおべっか使いに囲まれているのを見たことがないか?
彼らは大げさに話す。なぜだかわかるか? それによって何かを得るためだよ。
しかし彼らは何かを得るとすぐに、その金持ちのところを去って、別の金持ちのところに行って、同じように彼にひと芝居打つ。
彼らは、二人目の金持ちを喜ばせたなら、最初の金持ちを悪用したことをちっとも悪いと思わないだろう。
こんな感じで、彼らはまた三人目、四人目と続ける――これが彼らのやり方なのさ。
君はこのようにして主にお仕えすることができるか?
彼にお仕えしたいならば、すべてのもの――財産、評判、名声、羞恥心、屈辱への恐れ――それらを全部投げ捨てなければならない。
下心をもって主にお仕えしてはならないんだ。
さらに、人は彼が恐れ多くもわれわれに与えてくださったものに対して、たとえ小さなものでも感謝の気持ちでいっぱいになるべきだ。
われわれは何と愚かなんだろう!
彼は初めからずっと、最高のもの、一番有益なものをわれわれに与えてくださっているということを、われわれは理解していない。
われわれはそれを忘れている。彼を忘れている。
われわれは彼にお仕えしていない。
われわれの苦しみはすべて、それが原因だ。
君は、自分のために良くしてもらっているということを忘れてしまう者が、向上すると思うかい?
われわれは彼を忘れているばかりに、苦しみが終わらないんだよ。」
シュリー・ラーマクリシュナは、八か月の長い期間の後に、ドッキネッショルに戻ってきた。
その戻ってきた日に、師はラームの家を訪れた。
その日は、ナヴァラートリの7日目(ドゥルガー・プージャーの日)で、ドゥルガー女神が礼拝されていた。
女神の偉大なる信者(シュリー・ラーマクリシュナ)が、女神の到来と共に現われたので、カルカッタの信者たちは歓喜と至福の恍惚の中に投げ入れられた。
そしてラーム・バーブの家の寺院は、歓喜の声が響き渡っていたのだった。
そして、ラトゥの歓喜は!
それをどうやって、言葉で言い表わすことができようか?
冬の冷気が去って、春の風が木や植物に触れたかのように、シュリー・ラーマクリシュナの帰還は、ラトゥの中に新たなを命を自然に芽生えさせたのだった。
皆が、彼が喜びに満ちた顔で機敏に動き、大きな声で話し、活発に活動していることに驚いた。
驚いたことに、ラーム・バーブは、彼の助けだけで多くの仕事をすぐに片づけることができた。
ラーム・バーブは彼に命じて、師がお帰りになったことをカルカッタ中の信者たちに知らせ、このおもてなしの用意をし、サンキールタンの一団などを招いたのだった。
この少年の人生の引き潮の流れは、ちょうど、哀れに雨の滴を切望するチャータカ鳥が、突然遠くに雷鳴が轟き渡る黒い雨雲を見つけて忘我の喜びに心躍らせるように、急展開を迎え、突如満潮になったのであった。
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