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「ミラレーパの生涯」第三回(15)

 「自由にして創出されざる境地(ダルマカーヤの心の状態)に心を保ったので、偽善の慣習を忘れてしまいました。」

 はい。これも同じです。ここで偽善の慣習って言ってるものが何を指してるかっていうのは、これもまた解釈がいろいろあるだろうけど、言ってみればですよ、われわれの教えの実践、これは全部偽善の慣習だよね、ある意味では。つまり、この間も言ったように、われわれは聖なる演技をしなきゃいけないんだね。例えば本当はまだ怒りっぽいんだけど、ニコニコとしなきゃいけない。これ偽善ですよね、ある意味ね。でもこれはいい偽善です。聖なる偽善だね。
 前も言ったけどさ、われわれは偽善者になっていいんですよ。ならなきゃいけない、逆にね。前のなんかの勉強会でも言ったけども、いつも言うように結局、全部偽ですから、偽。全部偽物です。われわれが、ね、自分の性格と思ってるのも全部偽物です。われわれの正体、つまり偽物じゃないものは何かっていったら、まあここの言い方でいうとダルマカーヤしかないんです。ヨーガ的にいうと真我しかないんです。この真我とかダルマカーヤとか呼ばれる完全純粋なる心の状態のみが真のわたしであって、ほかは全部偽ですから。ね、だから、「おれは実は怒りっぽくて、嫉妬深くて、人のことをいつも批判したくてたまらないんだ!」と。「でも教えがあるからニコニコして、人の幸せを願おう」と――「これは偽善だな」って思う必要はない。確かにそれは偽善だけど、その奥にあるものも偽だから。偽悪ですからね(笑)。奥にあるその悪い感情も偽悪です。ね。で、前も言ったけども、偽悪と偽善だったら偽善の方がいいでしょ? ね、絶対(笑)。だから偽善者でかまわないんです。
 ただ、悪いタイプの偽善ってあるよ。悪いタイプの偽善っていうのは、表面だけつくろって、心は全く乗っかってない場合ね。これは駄目です。だから心、心から偽善してください。心から教えどおり生きようと。ね。今はほんとは自分は怒りっぽいんだとか思わなくていい。
 これはね、よく引っかかる間違いなんです。どういう間違いかっていうと、例えばね、みんなにニコニコしながら、あるいはみんなの幸せを願ってるような感じしながら、でもほんとはわたし怒りっぽいんだよな、ほんとはわたしちょっと憎しみが強いんだよな、なんて思ってると、なかなか自分は変わりません。だからもう思い込んじゃってください。わたしはほんとに真理に出会ったことによって、教えに出会ったことによって、心が変わったんだと。わたしの心は愛で満ちてるんだと。
 もちろんさ、ケースバイケースっていうか、懺悔のときはちゃんと懺悔しなきゃいけないよ(笑)。懺悔はしなきゃいけないけど、普段は、わたしは愛で満ちてるんだと。ね。もうわたしの怒りなんかはどっかに行ってしまったと。これをやることによって、ほんとにどっかに行きます。ほんとに心が変わっていきます。だから、なんていうかな、変なそういう卑屈さとか、変な観念的な、「でもわたしはこうなんだ」っていう、その悪い意識は持たない方がいいんだね。
 人の性格なんてね、ほんとにころころ変わるから。わたしいろんな人見てきたけど、ほんところころ変わるし、それからね、なんていうかな、自分が思ってる性格って、性格とか長所とか、短所とかって、結構ね、いいかげんです。結構外れてるっていうかな(笑)。本当はそんなんじゃないのにそうすごく思っちゃってる人が結構いるからね。良くも悪くもね。
 例えば例を挙げるならば、ある人がね、周りと比べても、ね、まあほとんどっていうか、あんまりなんかこう、なんていうかな、例えば嫌悪が強くないとするよ。そんなに強くないと。ちょっとはあるけど、と。でもその人が例えばそれで悩んでる場合があるんだね。「おれは嫌悪が強い」と。ね(笑)。「おれは人を憎んでしまう心がなんかすごくあって、ほんとにこれから抜けられなくてどうしたらいいんだろう?」って悩む場合がある。これはもう完全に自己認識ができてなくてね、余計な悩みを持っちゃったがゆえに――ほんとはちょっとしかなかったんだけど、おれは嫌悪が強い、嫌悪が強いと思ってることによって、ほんとに嫌悪が増大しちゃう場合があるんだね。だからそれはちょっと間違わないようにしなきゃいけない。はい。
 だから途中段階までは、これもう偽善でかまいません。ね。っていうか、偽善をしなきゃいけないっていうか。聖者になりきる生き方をすると。しかし、最終的にはこれもダルマカーヤ、つまり無理してこういうふうにするとかじゃなくて、自然に心の本性から出る生き方ができるようになるので、そうしたらまあそういうのは全部いらなくなるっていうことですね。はい。

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