「パーンドゥ一家の帰還」
(16)パーンドゥ一家の帰還
☆主要登場人物
◎ドルパダ・・・パンチャーラの王。パーンドゥ兄弟の義理の叔父。
◎ドラウパディー・・・ドルパダ王の娘。パーンドゥ五兄弟共通の妻。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎ヴィドラ・・・ドリタラーシュトラ王の主席顧問。マハートマ(偉大なる魂)といわれ、人々から尊敬されていた。
◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。善人だが優柔不断で、息子に振り回される。
◎クンティー・・・パーンドゥ兄弟の母。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。ダルマ神の子。
※クル兄弟・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たち。
※パーンドゥ兄弟・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たち。実は全員、マントラの力によって授かった神の子。
パンチャーラで行なわれた婿選びの儀式の結果、アルジュナが勝利し、ドラウパディー姫を自分のものにしたという話は、ハスティナープラにまで伝えられ、ヴィドラは大いに喜びました。彼は早速ドリタラーシュトラ王のもとへ行き、こう報告しました。
「王様、ドルパダ王の娘がわれらの義理の娘となり、われら一族はいよいよ強大となりましたぞ。」
息子を溺愛していたドリタラーシュトラは、ヴィドラの報告を聞き、ドラウパディー姫をものにしたのは自分の息子のドゥルヨーダナであると勘違いして、大喜びしました。
ドリタラーシュトラの勘違いに気づいたヴィドラは、あわてて訂正して、こう言いました。
「いや、ドラウパディーを手に入れたのは、アルジュナでございます。
パーンドゥ一家はあの火事で死んではおらず、神のご加護によって生きながらえていたのです。
パーンドゥ五兄弟は、ドラウパディーと共同結婚をし、母親のクンティー妃とともに、ドルパダ王の庇護のもと、楽しく暮らしているようです。」
ドリタラーシュトラは、ドラウパディーを手に入れたのが自分の息子ではないと知って落胆しましたが、うわべは喜んだふりをして、こう言いました。
「ヴィドラよ。私はお前の報告を聞いてうれしく思うぞ。愛しいパーンドゥ一家が生きながらえていたとは。しかもドルパダ王の娘と結婚し、いっそうの強大な力を得たとは、まことに喜ばしいことだ。われわれ一族の運が開けた。」
さて、ドゥルヨーダナは、殺害したはずのパーンドゥ家がまだ生きており、そしてドルパダ王の娘と結婚してよりいっそう強大となったという話を聞いて、嫉妬と憎悪の炎に燃えました。
ドゥルヨーダナはカルナと一緒にドリタラーシュトラのもとへ行き、こう言いました。
「父上はヴィドラに、われわれの運が開けたとおっしゃったそうですね。われわれの生来の敵であるパーンドゥ家が、われわれを確実に滅ぼせるほど強大になったということは、果たして運が開けたといえるのでしょうか?
私たちは彼らの殺害計画を成功させることができませんでした。彼らがわれわれの陰謀に気づいていたとすれば、われわれの立場は非常に危険なものになっているはずです。
いまや、私どもが彼らを即座に滅ぼすか、あるいは私どもが逆に彼らに滅ぼされるかという段階に至っているのです。」
これを聞いて、ドリタラーシュトラは答えました。
「息子よ、お前の言うことはもっともじゃ。だが、ヴィドラにわれわれの胸のうちを悟らすでないぞ。さればこそ、わしはヴィドラにあのように言ったのじゃ。
ところで、われらがどうすべきか、お前の考えがあるなら聞かせておくれ。」
ドゥルヨーダナは答えました。
「パーンドゥの兄弟のうち三人はクンティー妃から生まれ、二人はマードリー妃から生まれたという異母兄弟です。ですからそこで生じる不和を、利用できるかもしれません。
あるいは、ドルパダ王を買収して、われわれの側につかせるということもできるかもしれません。何事も、金の力で成し遂げられぬことはないのですから。
カルナは、にやりとして言いました。
「しかしそんなことは無益だ。」
ドゥルヨーダナは続けました。
「それから、パーンドゥ一家がここへやってきて、私どもが現在所有している王国の返還を要求することのないように手を打たなければなりません。ドルパダの王国にうわさを広めさせ、今もしパーンドゥ家がハスティナープラに行くようなことがあれば、大変な目にあうかもしれないということを、パーンドゥ一家に信じさせるのです。」
カルナはまた口を挟みました。
「それもまた無駄なこと。そのようなことで彼らを怖がらせることはできませぬ。」
ドゥルヨーダナは続けました。
「では、彼らの共通の妻であるドラウパディーの存在を利用して、彼らの中に不和をもたらすことはできないでしょうか。色事に長けた玄人を使って、彼らの中に疑惑や嫉妬を掻き立てましょう。きっとうまくいくと思います。一人の美女をつかわして、パーンドゥ兄弟の何人かを色仕掛けでだまし、ドラウパディーが彼らを厭うように仕向けます。そして彼らの中に不和が生じれば、彼らのうちの誰かをわれわれの仲間に引き込むこともできるかもしれません。」
カルナはこの提案も冷笑すると、こう言いました。
「あなた様のご提案はいずれも役に立ちませぬ。権謀術策をもってパーンドゥ一家に打ち勝つことなどはできないでしょう。
彼らがかつてここにいて、まだ羽の生えそろわぬひな鳥のような存在であったときですら、われらは彼らを欺くことはできなかった。なのにすでに数多くの経験を積み、しかもドルパダ王の庇護のもとにある現在、彼らを欺くことは至難の業です。
今後、謀略は何の役にも立ちませぬ。彼らの間に不和の種をまくこともできませんし、賢明で恥を知るドルパダ王を買収することも無理でしょう。ドルパダ王はパーンドゥ家を決して見捨てることはないでしょう。
したがってわれわれに残された道はただひとつ――それは、彼らがさらに強大になり、他の者たちが彼らに加勢する前に、彼らを攻め滅ぼすことです。われらクシャトリヤ(武士)はクシャトリヤらしく、困難の中にあって思い切った方法をとるべきです。小手先を労したごまかしなどは、結局は何の役にも立ちません。」
ドゥルヨーダナとカルナのこのような意見を聞いても、ドリタラーシュトラ王は、どうしたらいいか決心がつかずにいました。そこでドリタラーシュトラはビーシュマとドローナを呼び、彼らの意見も聞くことにしました。
ビーシュマは、パーンドゥ一家がまだ生きており、ドルパダ王の庇護のもと元気に暮らしていると聞き、大いに喜びました。そして王にこう進言しました。
「今後とるべき正しい方針としては、彼らを快く呼び戻し、王国の半分を与えることです。国民もまたそのような解決の仕方を望んでおり、これ以外にわれら一族の威厳を保つ方法はありますまい。
例の火事については、人々はわれわれの仕業であるとうわさしあっています。しかし王が彼らに王国の半分を与えるという寛大な態度を見せれば、そのような悪いうわさもすぐに立ち消えてしまうでしょう。」
ドローナもまた全く同じ助言をし、パーンドゥ家との間に円満な和解をはかり、平和を確立するように進言しました。
しかしカルナは、この二人の進言を聞いて激怒しました。彼はドゥルヨーダナにあまりに忠実だったので、ドゥルヨーダナの天敵であるパーンドゥ家に、王国の一部ですら分け与えるような考えに、我慢がならなかったのです。カルナは、ドリタラーシュトラにこう言いました。
「王により地位や財産を賜っているドローナが、そのような進言をするとは驚きです。
王よ、よくお考えになって、正しい道をご選択ください。」
カルナのこの言葉を聴いてドローナは、老いた眼に怒りをこめて言いました。
「悪者め! お前は王に間違った道を歩むよう勧めるつもりか!
もし王が、ビーシュマやわしの進言したようになさらぬなら、クルの一族は遠からずして滅びることになってしまうぞ!」
次にドリタラーシュトラはヴィドラを呼んで、助言を求めました。ヴィドラはこう言いました。
「われらの一族の長老であるビーシュマと、われらの武術の師であるドローナによって与えられた助言は、思慮分別のある正しいものであり、軽んじてはなりません。
パーンドゥの息子たちは、あなたのかわいい甥っ子ではありませんか。
ドルパダ王も、クリシュナとヤドゥ一族も、パーンドゥ一家の味方でありますから、戦争になればわれわれに勝ち目はありません。カルナの進言は愚かです。
われわれがパーンドゥ一家を殺そうとしたといううわさも広まっていますし、何よりそのような良くない評判を取り除かなければなりません。
ドゥルヨーダナの助言に従ってはなりません。カルナも政治のことなど何も知らぬ若造ですから、助言する資格などないのです。ビーシュマやドローナの助言にお従いください。」
ついにドリタラーシュトラ王は、パーンドゥ一家に王国の半分を分け与え、和解することを決意しました。
ヴィドラはドリタラーシュトラ王の使者としてドルパダ王の国に向かい、クンティー妃に、王国の半分をパーンドゥ家に与えるので、戻ってきてほしいという旨を伝えました。
一度はパーンドゥ家をだまし、殺そうとしたドリタラーシュトラとその一族を、クンティー妃もドルパダ王も信用していませんでしたが、ヴィドラはこう言いました。
「あなた方が破滅するようなことはございません。ご子息方は王国を統治し、偉大な名声を博するでございましょう。ご心配なさらずに、ご一緒においでください。」
かつてドゥルヨーダナの悪意から何度も自分たちを救ってくれたヴィドラがこのように言うので、クンティー妃は信用し、ついにパーンドゥ家はハスティナープラに戻ることになりました。
永年の亡命と苦労の後にやっと戻ってきたパーンドゥ一家を歓迎して、ハスティナープラの道という道には水がまかれ、花が飾られました。ドリタラーシュトラは王国の半分をパーンドゥ家に譲り渡し、長男のユディシュティラが正式に王となりました。
ドリタラーシュトラ王はユディシュティラに祝福を与えると、次のように言いました。
「かつて、わしの弟のパーンドゥがこの王国を繁栄せしめたが、そなたも父親の名に恥じぬ立派な後継者となってほしい。
わしの息子どもは心が曲がっておりうぬぼれが強い。息子どもとそなたたちの間に争いや憎しみがこれ以上生じぬよう、わしはこのたびの解決をはかった。
カーンダヴァプラスタに行き、そこをそなたの都とするがよい。あそこはわれら一族の古の都だった。古都を再興し、世に名声をあげる者となっておくれ。」
パーンドゥ一家は、廃墟となっていたカーンダヴァプラスタの町を再興し、宮殿や城郭を築き、インドラプラスタと改名しました。やがてその都は豊かさと美しさを増し、人々の賛美の的となりました。ユディシュティラ王をはじめとするパーンドゥ兄弟と母のクンティー、妻のドラウパディーは、36年間に渡ってその都で楽しく暮らし、決して正しい道から外れることなく王国を統治したのでした。
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