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「ドリタラーシュトラ王の不安」

(23)ドリタラーシュトラ王の不安

☆主要登場人物

◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎ナクラ・・・パーンドゥ兄弟の四男。マードリー妃とアシュヴィン双神の子。非常に美しい。剣術の達人。
◎サハデーヴァ・・・パーンドゥ兄弟の五男。マードリー妃とアシュヴィン双神の子。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。善人だが優柔不断で、息子に振り回される。
◎ドラウパディー・・・パーンドゥ五兄弟の共通の妻。
◎ヴィドラ・・・ドリタラーシュトラ王の主席顧問。マハートマ(偉大なる魂)といわれ、人々から尊敬されていた。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎ドルパダ・・・パンチャーラの王。ドラウパディーの父。
◎クリシュナ・・・至高者の化身。パーンドゥ兄弟のいとこ。

※クル兄弟・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たち。
※パーンドゥ兄弟・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たち。実は全員、マントラの力によって授かった神の子。

 パーンドゥ兄弟とドラウパディーは、約束どおり国を追放されて森に放浪に向かいました。彼らを愛する多くの国民が嘆き悲しみました。

 盲目のドリタラーシュトラ王は、ヴィドラを呼び寄せ、パーンドゥ兄弟が流浪の旅に出かける様子を話して聞かせるように言いました。ヴィドラは答えて言いました。

「ユディシュティラは顔を布で覆って先頭を進み、その後ろをビーマがうなだれて歩いていました。アルジュナは足元に砂をまきながら進み、ナクラとサハデーヴァは身体を埃まみれにしたまま歩いていました。
 ドラウパディーはユディシュティラの横を歩いていましたが、髪は乱れ、涙を流していました。」

 これらの様子を聞いたとき、ドリタラーシュトラ王は、かつてなかったほどの恐怖と不安に襲われました。王はさらにヴィドラに尋ねました。
「市民は何と言っているか?」

 ヴィドラは答えました。
「おお、大王様。あらゆる階層の市民が言っている言葉を、そのままお伝えしましょう。
『われわれの指導者はわれわれを見捨てて行ってしまった。こんな事態にさせてしまったクル族の長老たちは、いったい何というだらしなさだ! 貪欲なドリタラーシュトラとその息子たちがパーンドゥ兄弟を森に追放してしまったというのに!』
と、このように市民は話しています。
 また、天は雲もないのに稲妻を走らせて怒りを表わし、大地も悲しみに身を震わせ、そのほかにもさまざまな不吉な予兆が現われております。」

 ドリタラーシュトラ王とヴィドラがこのような会話を交わしているとき、突如、聖者ナーラダが姿をあらわし、
「ドゥルヨーダナの犯した罪により、今から14年後、クル一族は絶滅するであろう。」
と言うと、また瞬間的に姿を消してしまいました。

 これを聞いて、ドゥルヨーダナとその仲間たちはすっかり恐ろしくなってしまい、ドローナのところへ行くと、今後どんなことがあっても自分たちを見捨てないでほしいと、ドローナに懇願しました。

 ドローナは、いかめしい顔でこう言いました。
「賢者たちと同様にわしも、パーンドゥ兄弟が神の申し子であり、決しておぬしたちが勝てる相手ではないとわかっておる。
 だが、わしの義務としては、主人であるドリタラーシュトラ王とその息子であるお前たちのために、戦わねばならぬ。そのときはわしは全身全霊をかけてお前たちのために尽くそうと思うが、運命はいかんともしがたい。
 お前たちは、今のうちに善行を積んでおくことだ。悪をなさず、貧しき者に施しをなすがいい。
 できるならばユディシュティラたちと和睦せよ――というのが、お前に対するわしの助言だ。もちろん、それを受け入れるかどうかはお前の自由だが。」

 ドゥルヨーダナは、ドローナのこの言葉が気に入りませんでした。

 
 一方、ヴィドラは、ドリタラーシュトラ王に対して、熱心に次のように忠告していました。
「あなた様の息子、ドゥルヨーダナは、大変悪いことをしでかしました。ユディシュティラは完全に罠にはめられたのです。あなた様の息子たちを正しい道に導き、悪の道から引き離すのは、あなた様の義務であると思います。まだ決して遅くはありません。
 王国をまたパーンドゥ一家に返されてはいかがでしょうか? 森から彼らを呼び戻し、和解なさるのです。ドゥルヨーダナがもし道理を聞き分けないようでしたら、力づくでも彼を抑えるべきかと思います。」

 息子を溺愛しているドリタラーシュトラ王にとって、ヴィドラのこの言葉は悲しく苦しく聞こえました。しかしヴィドラの言う事は正しく、自分たちのためを思って言っているのだとわかっていたので、あえて反論はしませんでした。
 しかしあまりにヴィドラが何度も同じことを繰り返すので、ある日、とうとう我慢しきれなくなり、ドリタラーシュトラは大声でヴィドラを怒鳴りつけ、次のように言いました。

「ヴィドラよ! お前はいつもパーンドゥ兄弟の肩を持ち、わしの息子たちの悪口を言って、われわれの良き面を見ようともせぬ。ドゥルヨーダナはわしの息子じゃ。なんで彼を見捨てられようか。 
 わしはお前への信頼を失ったから、もうお前に用はない。もしお前は望むなら、パーンドゥ兄弟のもとでも、どこへでも行くがよい。」

 このように言うと、ドリタラーシュトラ王はヴィドラに背を向け、奥へと入ってしまいました。

 ヴィドラは、これでもうクル一族の滅亡は避けられぬものになったことを悟って悲しくなり、ドリタラーシュトラ王の言うままに、馬に乗って宮殿を出て、パーンドゥ兄弟のいる森へと向かったのでした。

 ヴィドラが去って行った後、ドリタラーシュトラは反省し、自責の念に駆られました。そこでドリタラーシュトラは御者のサンジャヤを呼び寄せ、ヴィドラに自分が後悔していることを知らせ、不用意に口にしてしまった言葉を許し、また戻ってくるように懇願してくれと頼みました。

 サンジャヤは急いでパーンドゥ兄弟が住む森へ行きました。するとそこでパーンドゥ兄弟たちは、鹿の皮を身につけ、聖者たちに取り囲まれて座っていました。その輪の中にヴィドラを見つけたので、サンジャヤは彼にドリタラーシュトラ王の言葉を伝えるとともに、もしヴィドラが帰らなかったら、ドリタラーシュトラ王は死んでしまうかもしれない、と付け加えました。

 心優しきヴィドラは、その言葉を聴いて感動し、ハスティナープラへと戻っていきました。
 ドリタラーシュトラ王はヴィドラを抱きしめ、二人の間のわだかまりは、互いを思い合って流す涙によって、すっかり消え去ってしまったのでした。

 さて、またある日のこと、聖者マイトレーヤがドリタラーシュトラ王の宮殿を訪れました。ドリタラーシュトラ王は、聖者マイトレーヤにこう尋ねました。
「聖者様。あなた様はきっとクルの密林の中で、パーンドゥ兄弟にお会いになったことと思います。彼らは元気でございましょうか。」

 それに対して聖者マイトレーヤは答えました。
「私はカーミャカの森で偶然ユディシュティラに会った。私はハスティナープラで起こった出来事を聞いたが、ビーシュマやあなたのような人がおりながら、そんなことを起こしてしまったことに、驚いてしまったのだよ。」

 また聖者マイトレーヤは、宮殿の中でドゥルヨーダナを見かけたので、ドゥルヨーダナにこう忠告しました。
「パーンドゥ兄弟は、彼ら自身が非常に強いというだけではなく、クリシュナやドルパダ王にも縁故がある。お前自身のためにも、早く彼らと和解してはどうかな?」

 強情で愚かなドゥルヨーダナは、この聖者の忠告を聞いてもただニヤリと笑い、あざけったように自分の腿をぴしゃりと叩きました。そして足で地面をほじくりながら、一言も答えずに顔を横に向けてしまったのでした。

 このような傲慢な態度をとったドゥルヨーダナに対し、聖者マイトレーヤはこう言いました。
「お前は、お前のためを思って忠告している者をあざけって、腿などを叩いているが、それほどまでに傲慢な男だとは思わなかった。お前の腿はビーマの槍で打ち砕かれ、お前は戦場で死んでしまうであろう。」

 これを聞いたとたん、ドリタラーシュトラ王は跳びあがって驚き、聖者マイトレーヤの前にひれ伏して、許しを乞いました。しかし聖者マイトレーヤは、
「私のこの予言は、ドゥルヨーダナがもしパーンドゥ兄弟と和解するなら実現せぬが、和解をしない場合は必ず実現するだろう。」
と言うと、宮殿から立ち去っていったのでした。

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