「いかに心を作り変えるか」
解説・心の訓練⑥
◎いかに心を作り変えるか
はい、今日は「心の訓練」ですね。
「心の訓練」っていうのは、非常にとらえどころのないテーマなわけですが――つまり分かりやすいね、例えば呼吸法であるとか、あるいは布施をするとか、あるいはこれこれの瞑想とか、そういうものではなくて、「人生すべてを使って、自分の心をいかに作り変えていくか」っていうのが、この「心の訓練」っていう一つのテーマなんですね。
で、お釈迦様が言ってるように、お釈迦様っていうのは「仏教とは何か」って言った場合に、「善を為せ、悪を為すな、心を浄化しなさい」と。それが仏陀の教えだってことを言ってらっしゃる。で、形ある――例えば布施をするとか、人に優しくするとか、そういう形ある善、あるいは戒律をそのまあ表面上守るという、形ある悪を為さないっていうこと。これはもちろん、淡々とやればいいわけだけど。あるいは日々のいろんな修行も、淡々とやればいいわけだけど、最も難しいのが、「いかに心を浄化するか」なんだね。
――っていうのは、心っていうのは人生すべてに行き渡ってる。で、われわれが例えばこういうヨーガとか仏教の本を読んで、「こういうふうに考えなさい」「こういうふうに思ってはいけませんよ」とかこう読んだときに、「ああ、なるほど」と。「ああ、そういうふうに私も生きたい」――こういうふうに思うのは簡単なんだけど、日常においてさまざまな条件がやって来たときにね――つまり、ものすごく、例えば人に優しくしたい気持ちになるようなときとかね、あるいはものすごく正しく生きたいと思うときは、問題がない。でも人生っていうのは、そんなときばっかりじゃない。いろんなことがやって来て、例えば人に馬鹿にされたりとか、裏切られたりとか、あるいはそこまで行かなくても、なんか今日はむしゃくしゃするとか、いろんなときがある。で、どんなときも、自分の心を教えに則って正しく保たなきゃいけない。あるいは、自分の中にちょっと悪い性質があるならば、それを改造していい性質に変えていかなきゃいけない。これがこの「心の訓練」という一つのテーマなんですね。
◎ブッダになるために不可欠な法
はい、で、まあちょっと何度も同じような話をしてるけど、もう一回その基本的なことを言うとね――これは元々は、非常に秘儀とされていた教えと言われています。秘儀――つまり一般的に、「はい、心の訓練ですよ」っていうそういう教えではなくて、本当に少数の者に伝えられていた教えだったんだね。
で、この「心の訓練の七つの要点」っていうのを書いた人っていうのは「チェカワ」っていう人がいるわけですが、このチェカワって人が偶然ね――ここでみんな知ってる人もいるでしょうが、「心を訓練する八つの詩」っていうのがあって、それを偶然目にして、「これは素晴らしい」と。「こんな偉大な教えがあるのか」ってすごく感動してね、で、それを知ってる師匠のもとに行ったわけですね。その師匠のもとに行ったんだけど、その師匠はみんなに教えを説いてるんだけど、全くこの心の訓練の教えを説かない。一般的なよくある仏教の教えしか説かない。で、チェカワは不審に思ってね、誰もいなくなったときにその師匠に個人的に尋ねに行ったわけですね。
「わたしは心の訓練っていう教えに興味があるんだけども、これはわたしの修行において必要でしょうか」
というふうに尋ねた。そしたらその師匠が言うには、
「あなたが仏陀になりたくないなら必要ないが、もしあなたが仏陀になりたいんだったら、これは不可欠である」
って言ったんだね。で、そこでチェカワは、
「もしそんな重要な教えだとしたならば、なぜあなたはそれを説かないんですか」
と。つまり一般には説かないんだね。で、それに対してその師匠は、
「いや、これは、これを本気でやろうと――つまり実践しようと思う人以外には、全く無意味な教えだ」
と。
つまり、非常にこれは具体的な教えなんだね。これを学んで、「ああそうですか、ありがたい教え聞きました」――では全く無意味なんだと。だから、本気で自分の心を変えようと思ってる人にしか、これは意味がない教えだと。だから少数の者だけに伝えられてると。
で、そこでチェカワは、「わたしはこれを一生かけて学びたい」と言って、その伝授を受けてね、で、まあおそらくチェカワがそこで師匠から受けた教えっていうのは、もうちょっとこう、まだまとまりがないものだったと思う。それを一生かけてチェカワが自分で修行して、それをこの「七つの要点」っていうのにまとめたんですね。
でもまだこれも要点です。これをまたさらに掘り下げて考えていったり、実践したりしていくのは各自でやらなきゃいけない。それがこの素晴らしい教えなんだね。
で、ただチェカワは、さっき言ったように、もともとはこれは秘密裏に教えられてたわけだけど、あるとき、ハンセン病ね、現代的にいうとハンセン病、昔でいうライ病ですね。インドとかチベットはもともとハンセン病が多い。ハンセン病って、たとえば痛みを感じなくなって、それで気づかないうちに怪我をしたりすると、そこから身体が腐っていっちゃったりする恐ろしい――現代ではもちろんその治療はできるようになってるわけだけど、その当時はもう治療法も見つからない恐ろしい、で、伝染するっていわれてたから、恐ろしい病気だったわけだね。チェカワがそのハンセン病の人達とか、あるいはその他の重病人のところを訪れたときに、あまりにも哀れでね、本当にかわいそうだと思った。でも自分には別に医者としての心得も無いし、お金もないし、何も彼らにしてあげられることがないと。わたしが知っていることといえば、心の訓練の修行ぐらいだと。ね。
で、心の訓練の修行っていうのは秘密裏に教えられてきたんだけど、あまりにも患者たちが哀れだったんで、彼らに自分の持っている唯一の財産である「心の訓練」の教えを与えたんですね。そしたらそれを実践した――特にね、そこで特に中心的に教えたのは、ここでもやっている慈悲の瞑想、つまりトンレンです。つまり、みんなの苦しみをグーッと引き受けて、自分の幸せをみんなに与えるっていうことをやりなさいと。そういうことを常にイメージしなさいと。それをその患者たちに教えたわけだね。あなたは今、重病で体中が痛くて苦しいでしょうが、その中でも周りの病人とか、あるいは世界中で苦しんでいる人々の苦しみを全部自分が引き受けるっていうふうに思いなさいと。そして逆に、あなたの中の喜びを、他の全ての魂に捧げなさいと。こういう瞑想をしなさい――と教えたわけだね。で、そうしたらそれを実践した人達が、ある者は病が治っていった。ある者は治るまで行かなくても、つまり病気ですごく精神的に悲惨だった状態が安らかになっていった。
で、それを見てチェカワは、「あ、この教えは、確かに実践しなければ意味がないので、秘密裏に教えてられてきたものではあるが、このように多くの人にこれを伝えれば、このような多くのメリットもあるじゃないか」と。つまり、まだこれを完璧には実践できなくても、多くの人がこれを知り、これを少しでも実践することによって、物理的あるいは精神的なメリットは多大にある――と思ったんだね。で、そこで、それまで実は秘密裏に伝えられてきたものを、大っぴらにというか多くの人に伝えだした。こうして伝わってきたのが、この「心の訓練の七つの要点」っていう教えですね。
で、これは、これも何度も言ってますが、これのまた別パターンで残ってる素晴らしい教えが、ここでよく推奨してるね、シャーンティデーヴァの『入菩提行論』です。これはもしまだ読んでない人とかいたら、私が解説した『菩薩の生き方』っていう本がありますので(笑)、ぜひ買って読んだらいいね。それはそれでとてもまとまっています。つまり、われわれがいかに日々心を鍛え、心を変えていくかっていうことが、非常にいろんな具体的かつ的確なたとえとかを使って説かれている。だから『入菩提行論』は『入菩提行論』で素晴らしいね。
で、この七つの要点はまたちょっと別の角度から、非常にシンプルにまとめてあるものですね。
はい、そしてこの間までは5番のとこまでいったわけですが、今日は6番から。で、この6番からは、だんだん非常に具体的な指示に入ってきます。だからこれはおそらくチェカワが自分自身、もしくは他の人を見てて、つまり現代の――現代っていうのはもちろん、数百年前のチベットだけど――現在のこの人間たちの中で、現実的に生じうるいろんな現象――つまり自分が心を正しく保てないような現象をいろいろ想定した上で、具体的にポイントを挙げてるんだと思うね。
はい、じゃあ、この六番の「心の訓練に関する18の誓約」、これをちょっと読んでいきましょうね。
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