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要約・ラーマクリシュナの生涯(18)「ヴェーダーンタの修行」④


◎母なる神を悟る
 
 トータープリーはインドの西北地方出身で、その地方の人の多くがそうであるように、体格が良く、頑強な体を持っていた。彼は、病気や消化不良や、その他の身体の不調とは全く無縁であった。食べた物は何でも消化し、どこでも熟睡した。
 しかし予定に反して数ヶ月以上をドッキネッショルで過ごすうちに、ベンガルの水と、熱く湿度が高い気候のせいで、トータープリーは体調を崩し始めた。彼は、これ以上ここにいると病気になってしまうことを気づいていたが、ラーマクリシュナとの素晴らしい交わりへの愛着が、彼にこの地を去らせないでいた。

 しかしついに彼は、重い赤痢にかかった。昼夜続く激しい腹痛によって、常に寂静のサマーディにあった彼の心も、ブラフマンから離れて肉体意識に降りてきた。
 苦痛が徐々に増すに連れて、トータープリーは、いよいよドッキネッショルを去ろうと考えた。しかしラーマクリシュナに挨拶をせずに黙って行くのはよくないと考え、いとまを告げる挨拶に行った。しかしラーマクリシュナと会うと、トータープリーは神の話にすっかり夢中になってしまい、ドッキネッショルを去ることを告げるのをすっかり忘れてしまった。そして同じ事が何度も繰り返された。
 あるときは、神の話をしながらも、ドッキネッショルを去る話を告げなければいけないことを覚えているときもあったが、そのようなときは今度は、内なる何者かが、自分の口をつぐませているのを感じた。そこでトータープリーは、「今日はやめておこう。話すのは明日にしよう」と思うのだった。

 こうして時が過ぎていった。トータープリーの病はいっそう重くなり、身体は衰弱していった。ラーマクリシュナはモトゥルなどを通じて、特別の食事、薬、その他の療法等のできる限りの世話をしたが、病は重くなる一方だった。

 とはいえトータープリーは、肉体に激しい苦痛を感じていても、強靱な意志の力によって心をサマーディに没入させることによって、肉体意識を忘れ、心の平安を保つことはできていた。
 しかしある夜、今までにないほどの激しい腹痛が彼を襲った。あまりの痛みのために、トータープリーは横になっていることもできなかった。そこで意識を肉体から話し、サマーディに没入させようとするのだが、なかなか成功しなかった。一瞬はサマーディに至るのだが、あまりに激しい痛みのためにすぐにまた肉体に意識が戻ってきてしまうのだった。
 そこでトータープリーは、自分の意識をあの素晴らしいブラフマンの叡智から執拗に引きずり下ろそうとするこの肉体に対して、強い嫌悪の念を感じ、こう思った。

「この『骨と肉でできた檻』である肉体のために、今夜は私の心すらも私の支配の下にない。こんなやっかいな肉体などは捨ててしまおう! 私はたしかに、私は肉体ではないということを知っている。それならなぜ、いつまでもこんな腐った肉体の中にいて痛みに苦しまなければならないのか? これ以上、この肉体を大切にしていて何の役に立つのか? もうこの肉体をガンガーに沈めて、一切の苦しみを終わらせてしまおう。」

 こうしてトータープリーは自殺を思い立った。悟りに到達した者の自殺は罪ではない。彼は心を強くブラフマンに集中すると、ガンガーに足を踏み入れ、徐々に深みへと進んで行った。
 ドッキネッショルのカーリー寺院のそばを流れるガンガーは、少し進むと大変に深くなっている。しかしこの日は、トータープリーがどれだけ進んでも、なかなか深くならず、彼は不思議に感じながらもどんどんと河の中を歩いて行った。そしてなんと、ついに向こう岸の木々や家々が、闇の中に見えてきたのである! ほとんど向こう岸に着きそうになっているのに、ガンガーの流れは一向に深くならない! トータープリーは驚いて考えた。

「これは何という不思議な、神のマーヤーだろう! 今夜はこの河の中に、自殺に足るだけの水さえもないなんて! 何という、前代未聞の神のお遊びなのだろう!」

 するとその瞬間、たちまち誰かが、トータープリーの智性を覆っていたヴェールを切って落とした。トーターの心は目もくらむような光輝に圧倒され、彼はそこに、今まで無智や迷信の産物、あるいは低い教えだと否定してきたはずの、母なる神のお姿を実際に見た。

 マーよ、マーよ、マーよ、マーよ、宇宙の根源よ! 不可思議の力なるマーよ! 大地の中の母、そして水の中の母よ! 肉体はマーである。そして心はマーである。病はマーである。そして健康はマーである。叡智はマーであり、無智はマーである。生はマーであり、死はマーである。私が見、聞き、思い、想像する一切はマーである。彼女は肯定を否定に、否定を肯定になさるのだ!
 人が肉体にいる間は、彼は彼女の支配を免れる力は持っていない。そうだ、彼女が思し召すまでは、死ぬこともできないのだ!

 トーターがブラフマンとして悟ったあの唯一者こそがまさにこの宇宙の母だったのである。シヴァとシャクティは一つであり、分けられないものなのである。

 来たときと同じように、水に沈むことなく、トーターはもといた岸に戻り始めた。彼の心はもはや以前とはすっかり変わり、バクティの信仰心に満ちていた。彼は天のあらゆる方向に「マーよ! マーよ!」という叫びがこだましているように感じた。彼はついに宇宙の母の神秘を、人知を越えた、一切に遍在する姿で直接的に悟ったのである。彼は母の御足に、自分自身を完全に捧げ物として捧げた。肉体にはまだ苦痛はあったが、心はかつて経験したことのないほどの至福に包まれ、我を忘れていた。
 トータープリーはそのままパンチャヴァティの自分の座に戻ると、夜が明けるまで、母なる神の御名を唱えたり瞑想したりして過ごした。

 朝が来て、ラーマクリシュナがトータープリーに挨拶にやってきたとき、ラーマクリシュナは、トータープリーが全くの別人になっているのを見た。その顔は至福に輝き、唇は微笑にほころび、肉体は病から完全に解放されていた。
 トーターはラーマクリシュナに昨夜の出来事をすべて話し、さらにこう言った。

「この病気は、私の友となってくれました。私は昨夜、宇宙の母のヴィジョンを見、彼女の恩寵によって病から解放されました。ああ、実に長い間、私はなんと無智だったことか! 
 この真理を教えるために、何とかかんとかして私をここにとどまらせておいたのが<彼女>だったのだということが今はわかります。それ以外には考えられません。なぜなら、私はずっと前からここを去ろうと思って、何度もあなたの所にいとまを乞いに行きました。ところが、いわば何者かが私の心を他の話題に向けてそらせ、いつも私がそのことを口にするのを妨げたのです。」

 ラーマクリシュナはほほえんでこう言った。

「そう、あなたは前にはマーを認めず、『シャクティは非実在だ』と言って、私に反対なさったのですよ! しかし今は自ら<彼女>をごらんになった。直接経験があなたの哲学に勝ったわけです。」

 ナハヴァトから朝の音楽が聞こえてきたとき、シヴァとラーマのようにお互いがお互いの師であり弟子であるという関係で結ばれているこの二人の偉大な魂はともに立ち上がり、母なる神の聖堂に行って、彼女の聖なる神像の前にひれ伏した。
 
 そしてその数日後、この場所へ来た目的をついに達成したトータープリーは、ドッキネッショルを去り、再び遍歴の放浪生活へと戻ったのだった。

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