第五章 プラーナーヤーマ
1「プラーナーヤーマの規定」
今やわれはプラーナーヤーマの規定を説こう。これを修行するだけで、人間は神々と同等になることができる。
(1)[食事規定]
節食をしないでヨーガを始める者は種々の病にかかり、いかなるヨーガにも成功しないであろう。
[ヨーギーに適した食物]
米飯、大麦、小麦、各種の豆類、各種の野菜等を、ヨーギーは食すべし。
[節食]
清らかで、甘く、汁気に富む食物を好んで食し、胃の半分をあけておく。これが節食ということである。
胃の半分だけを食物をもって満たすべし。胃の三分の一は水をもって満たし、あとは気の回遊のためにあけてお
くべし。
[禁止事項と推奨事項]
初心者は、厚味の野菜、酒、椰子の実、野菜の茎、イチゴ、たまねぎなどを食してはならない。
ヨーガ修行のはじめのうちは、旅行を避け、異性を避け、火の儀式などを避けるがよい。
その他、絞りたてのミルク、砂糖、キャンディ等の菓子類、熟したバナナ、ココア、ざくろ、酸味の果汁を避け
るべし。
消化しやすいもの、甘美なもの、栄養になるもの、心を喜ばせるものを、ヨーギーはたしなむがよい。
しかしヨーギーは、消化しにくいもの、禁じられた食物、腐敗した食物、冷えすぎたもの、あまりに刺激的なも
のは避けなければならない。
ヨーギーは、日の出前の水浴、長期の断食等の体を苦しめる行を行なってはならない。
食後三時間以内に食事をしてはならない。
以上のごとくに生活を規制して、プラーナーヤーマを行ずべし。
毎日、プラーナーヤーマを始める際に、最初に少量のミルクとバターをとるべし。
食事は一日一食か二食がよい。
二食の場合は、正午と夕方に食事をすべし。
(2)[気道の清掃]
草の座、あるいはカモシカの皮、あるいはトラの皮、あるいは毛布の座、あるいは大地の上などに、正しい姿勢
で座り、東方または北方を向く。気道の清掃を完了した後にプラーナーヤーマの行を修習すべし。
気道に汚物が詰まっているうちは、風は気道を通れない。それではどうしてプラーナーヤーマの行が成就されよ
う? どうして真実の叡智がありえよう? それゆえに、まずはじめに気道の清掃をなし、そのあとでプラーナー
ヤーマの行を修習すべし。
[二種の気道清掃法]
気道清掃には、サマヌとニルマヌの二通りがある。サマヌはビージャを使ってなし、ニルマヌはダーウティ・カ
ルマによってなすべし。
ダーウティ・カルマについては、すでに説いた五つの浄化法のところで述べたごとくである。よってサマヌの仕
方において気道の掃除がいかに行なわれるべきかを教えよう。
[サマヌ清掃法]
ヨーギーは座席に着き、蓮華座を組むべし。それから、グルに教えられたとおりに、グルを初めとする方々を礼
拝し、気を清めるべく気道の清掃を行なうべし。
緑色で、エネルギーに満ちた風の種字(ヤ)を思念して、種字を十六回黙誦する間、月の気道をもって風を満た
すべし。
次にその4倍の時間の間、クンバカによって風を保持する。そして最後に、吸ったときの2倍の時間をもって、
風を太陽の気道によって吐くべし。
へその根において、火と地の元素の結合した光を思念すべし。
火の種字ハムを16回念誦する間、太陽の気道によって、風を満たすべし。
次にその4倍の時間の間、クンバカによって風を保持する。そして最後に、吸ったときの2倍の時間をもって、
風を月の気道によって吐くべし。
次に、眉間に意識を集中して、月の輝く姿を思念しつつ、種字タムを16回念誦する間、両方の気道によって風
を満たすべし。
そして種字ヴァムを64回念誦する間、クンバカによって風を保持する。その間に、アムリタ(不死の甘露)が
流れ出ることを想像し、それが全身の気道を清めていくことを思念すべし。
それから、地の種字ラムを32回念誦する間に、しっかりと風を吐くべし。
以上のごとき仕方で気道の清掃を行なって、気道を清めるべし。しかる後に正しく座って、プラーナーヤーマの
行を行なうべし。
2[クンバカの種類]
クンバカには8種ある。
①サヒタ
②スーリヤ・ベーダ
③ウジャーイー
④シータリー
⑤バストリカ
⑥ブラーマリー
⑦ムールッチャー
⑧ケーヴァリー
(1)[サヒタ]
サヒタ・クンバカには二種ある。サガルバとニルガルバである。
サガルバは種字を唱えて行なうものであり、ニルガルバは種字の誦唱を省いたものである。
[サガルバ・プラーナーヤーマ]
東方または北方に向かって座る。地のごとくに赤い色のブラフマ神を、ア字の形で念想すべし。
賢明なる行者は、左の鼻でもって、アムを16回唱える間息を吸うべし。吸息を終わり、ウッディーヤーナ・バ
ンダをしてクンバカをなすべし。
黒色のハリ神を、ウを64回唱える間、クンバカして念想すべし。
次に、白色のシヴァ神を念想しつつ、マを32回唱える間、右鼻から息を吐くべし。
そして今度は同様の念想をしつつ、息を右鼻から吸い、クンバカし、左鼻から吐くべし。
鼻を換えては、繰り返してプラーナーヤーマを行なうべし。
指は、右手の親指で右鼻を押さえ、薬指と小指で左鼻を押さえる。中指と人差し指は眉間に当てるか、何もせず
に宙に浮かせておく。
[ニルガルバ・プラーナーヤーマ]
ニルガルバ・プラーナーヤーマは、ビージャ・マントラの誦唱なしでなされる。
プラーナーヤーマの初期段階においては発汗が生じる。
中級段階においては、背骨の震えが生じる。
上級段階においては、身体が跳び上がる現象が生じる。
以上はプラーナーヤーマの成就の三種の兆候である。
プラーナーヤーマから空中飛行が生じ、プラーナーヤーマから病気平癒が生じる。また、プラーナーヤーマの結
果シャクティが覚醒し、プラーナーヤーマからマノーンマニーが生じ、歓喜状態が生じる。プラーナーヤーマを行
ずる者は幸福になることができる。
(2)[スーリヤ・ベーダ]
まず太陽の気道で外界の空気を力の限り吸うべし。
ジャーランダラとともにクンバカをして、汗がにじみ出るまで、大いにがんばって保息すべし。
[十種の風]
ヴァーユ(風)には十種ある。--プラーナ、アパーナ、サマーナ、ウダーナ、ヴィヤーナ、ナーガ、クールマ
、クリカラ、デーヴァダッタ、ダナンジャヤ。
プラーナはいつも心臓の中で働き、アパーナは会陰部で、サマーナはへその部位で働き、ウダーナは喉の中央に
ある。ヴィヤーナは体内にあまねく行き渡る。
以上は五つの主要なヴァーユである。
次に、五つの副次的なヴァーユのある場所を説こう。
ナーガ・ヴァーユの働きはおくびにあり、クールマ・ヴァーユの働きはまばたきにある。
クリカラ・ヴァーユの働きはくしゃみにあり、デーヴァダッタ・ヴァーユの働きはあくびにあり、ダナンジャヤ
・ヴァーユは全身に行き渡って存在し、いかなる場所でも、死後までは体を離れない。
ナーガ・ヴァーユは意識を生じ、クールマ・ヴァーユはまばたきを生じ、クリカラ・ヴァーユは飢渇を生じ、デ
ーヴァダッタ・ヴァーユはあくびを生じ、ダナンジャヤ・ヴァーユからは声を生じる。
上記のヴァーユのすべてを太陽の気道に集中させ、そのあとにイダー気道によって吐くべし。しっかりと、力を
緩めずに息を吐くべし。
そして再び太陽の気道をもって息を吸い、規定どおり保息し、そして息を吐く。このプラーナーヤーマを連続的
に繰り返し繰り返し行なうべし。
スーリヤ・ベーダ・クンバカは老いと死を破壊する。また、クンダリー・シャクティを目覚めさせ、体内の火を
増殖する。
(3)[ウジャーイー]
両鼻で息を吸い、ジャーランダラ・バンダをなすべし。そしてクンバカをなすべし。
喉を少し開け、ブラフマ・ランドラの下で呼吸の音を出しながら、息を吐くべし。
このウジャーイー・クンバカを修習するならば、行者は決して粘液質の病気にかからない。その他、神経性疾患
、消化不良、赤痢、肺結核、せき、脾臓肥大等の病気にもかからない。
人は老衰と死をなくするために、ウジャーイーを修習すべし。
(4)[シータリー]
舌を使って息を吸い、徐々に腹に満たすべし。ほんのしばらくクンバカをしてから、両鼻を通じて吐くべし。
この吉祥なシータリー・クンバカをなすならば、消化不良、粘液および胆汁の過多から来る病気は起こらないで
あろう。
(5)[バストリカ]
鍛冶屋のふいごのように、両鼻を通じて連続して息を出し入れすべし。
かくのごとく20回行なった後、クンバカをなすべし。クンバカが終ると、再び前記のごとく息を出し入れすべ
し。
賢者にして、このバストリカ・クンバカを行なうならば、いかなる疾患も苦痛もなく、毎日無病息災であるであ
ろう。
(6)[ブラーマリー]
夜半過ぎたころに、生き物の声がまったくしないところで、両手で両耳をふさいでプーラカ・クンバカをなすべ
し。
そうすると耳の中で、内から発する心地よい音が聞こえるであろう。はじめにコオロギの声、次にはフルートの
音、それから雷、太鼓、蜂、銅鑼、トランペットの音などが聞こえてくる。
そしてしまいには、かのアナーハタの音の響きが聞こえ、その音の中に光が存在し、その光の中に心が存在し、
そして心はその中で消えてしまう。これがヴィシュヌ神の高位の座に達した境地である。
(7)[ムールッチャー]
気楽にクンバカをして、心を眉間に置く。すべての対象を捨てたならば、心が恍惚となって、歓喜が生ずる。真
我に心が結びつくことから、必然的に歓喜が生ずるのである。
(8)[ケーヴァリー]
すべて人間の気息はハムの音を立てて出て行き、サハの音を立てて入ってくる。昼夜を通じて二万一千六百回の
呼吸がある。生き物はいつも、無意識にマントラを唱えているのである。
ハムとサハはムーラーダーラと心臓の蓮華と両鼻腔の合流点との三箇所で結合して、「ソーハム」または「ハン
サ」というマントラとなる。
呼吸回数が減るときには寿命が延びる。呼吸回数が増えるならば寿命は減ずる。
それゆえに、気が体内にとどまる間は死は来ない。肉体が気と結びついているとき、ケーヴァラ・クンバカがあ
る。
すべての生き物は無意識の内にマントラを唱えて呼吸をしているが、ヨーギーはこのマントラを意識して、数を
数えながら暗誦しなければならない。
両鼻から気を吸入して、ケーヴァラ・クンバカを行ずべし。初日には一回からはじめて、最終的には24回暗誦
するまでの間、気を保持すべし。
ケーヴァラ・クンバカを毎日八回、三時間ごとに行ずべし。
あるいは毎日、早朝、正午、夕方、夜半、夜中の五回、行ずべし。
あるいは毎日、朝、正午、夕方の三回、行ずべし。
ケーヴァリーの行が完成するまでは、マントラの長さを日ごとに増して、最終的には5倍に至るべし。
ヨーガに通じた人は、プラーナーヤーマとケーヴァリーを説く。ケーヴァリー・クンバカの修行を完成したとき
、この世において成し得ないことは何一つとしてない。
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