マルパの生涯(8)
 マルパはマイトリーパ師に対して強い信を抱いており、そのために常に「私は何としてでも彼から教えを授からなければならない」と考えていました。特に、クックリーパ師によって催される予定の送別のガナチャクラの前夜、マルパはマイトリーパ師を何度も思い出し、彼に対する崇高な信が生まれました。マルパは心の中で曼荼羅を供養し、七つの供養をおこない、そしてマイトリーパに懇願しました。 
 その夜の夢で、手に壺を持った美しい女性が現れて、自分はマイトリーパの使いであると告げました。彼女は壺をマルパの頭の上に載せました。目が覚めたとき、彼は計り知れない喜びを感じました。 
 次の日、ジェツン・マルパが出発の用意をしていると、栄光あるシャーンティバドラが彼のために送別のガナチャクラをおこない、また彼に授けた教えの経典を与えました。彼はマルパの頭に手を置いて、こう言いました。 
「この地へ至る道を旅するのは困難なことだ。ここに来ることで、君は大いなる利益を得た。君がそれに値する人物だと知っていたから、ナーローパは君をここへよこしたのだ。そして今度はマイトリーパのところへ行くのだ。 
 ナーローパは君を慈愛によって受け入れた。ナーローパはあらゆる口頭の教えを君に与えた後に、雪の国において弟子を調御する、彼の王権の継承者として君にアビシェーカを与えるだろう。私は君が来ることを前もって知っていたから、君を護衛するために、二人の守護者を人間の姿に変身させて送った。君は彼らを人間ではなく鳥の姿として見た。さて、口頭の教えも経典も授けたから、幸運のアビシェーカを君に授けよう。喜びなさい。」 
このように言い、クックリーパは大変満足しました。
これらはすべて、主マルパの夢と一致していました。彼はクックリーパ師への翻ることのない信と、計り知れない大いなる喜びを経験しました。お別れの贈り物として、マルパは、クックリーパとダルマの兄弟姉妹たちに、悟りの歌を供養しました。
 ここに住むジェツンたち、 
 心の友たち、兄弟姉妹よ、どうかお聞きください。 
 私、頑固な翻訳者マルパは、 
 縁が再び目覚めさせられたとき、南へ向かってネパールへ行きました。 
 シッディを持つネパール人と、 
 ジュニャーナガルバとシャーンティバドラから、 
 私は、チャトゥピータ、グヒャサマージャ、そしてチャクラサンヴァラを授かりました。 
 タントラと口頭の教えの宝箱は開かれました。 
 今、師の御前で、 
 私は口頭の教えを請い、与えられ、 
 また同時に、縁起の良い予言も授かりました。 
 この前の夜、 
 私は心で曼荼羅を作り、 
 マイトリーパに懇願し、そして眠りに落ちました。 
 入り乱れた習慣的な夢のパターンの中に、 
 マイトリーパ師の使い、 
 輝くように美しい女性が、 
 手に壺を持って現れました。 
 そして彼女がそれで私の頭に触れるのを夢で見ました。 
 私は思いました。「これは、マイトリーパの慈愛の祝福に違いない。 
 これは、以前為した発願と縁がもたらしたものだ。」 
 それゆえ、強烈な渇仰と信をもって、 
 私は、誉ある父の御前に行くでしょう。 
 ここに住む、あなた方ジェツンに 
 やむことなき献身がわき起こる。 
 我々が離されることがないように、私は帰依をします。 
 低い領域が存在から解放されるように、あなたの祝福を与えたまえ。 
 すべてのヴァジュラの兄弟姉妹たちよ、 
 この生でも次の生でも友である者たちよ、 
 サンサーラの欺きに満ちた誘惑を断ち切ろう。 
 聖なる口頭の教えを修行しよう。 
 サマヤを偽善から守ろう。 
 絶えず頭上にグルを瞑想し、 
 10の徳を楽しもう。 
 毒のような10の悪を捨てよう。 
 休むことなく修行しよう。 
このようにマルパは歌を供養しました。
シャーンティバドラ師は、マルパの頭の上に手を載せ、マルパに障害が起こらないように祝福を与えました。
 今やマルパはマハーマーヤーの様々な相を知りました。彼は三日でプッラハリへと戻りました。偉大なる主ナーローパは、シュラーマネーラのプラジュニャーシンハに、個人的な口頭の教えを与えているところでした。ナーローパはマルパに、近づかないようにと合図をしました。マルパは待ち、それが終わるまでずっと五体投地をし続けました。教えの伝授が終わったとき、マルパはナーローパのもとへ行き、祝福を請いました。 
 ナーローパは聞きました。 
「教えを受けたか?」
「はい。受けました。」
「あいつは私をバカにしなかったか?」
「多少の冗談はありました。」
「何と言っていた?」
クックリーパが言ったことをマルパが繰り返すと、ナーローパは言いました。
「これが彼という人間だ。あいつは徳がないから、ひと気のない毒の湖の中の島に住むのだ。人間の体に猿の顔がついているから、あいつは人間のコンソートを得ることができず、雌犬に頼らなければならない。クックリーパ以外の誰に、こんなことができるか?」
笑いながら、ナーローパは続けました。
「冗談だ。だからこそ彼は偉大なのだ。彼のような者は他にいない。彼は私からへーヴァジュラの伝授を受けた。そして彼はマハーマーヤーの成就者なので、私は彼からマハーマーヤーを受けたのだ。」
 それからナーローパはマルパに、一回のセッションでマハーマーヤーを伝授しました。その内容の意味はクックリーパのものと異なるところはありませんでしたが、ナーローパの言葉のほうが幾分詳しかったのでした。 
 マルパはナーローパに聞きました。 
「なぜグルは、ご自身でこの教えをよくご存じでありながら、私を危険な毒の湖の島へ行かせたのですか?」
「なぜなら、クックリーパが母タントラの師であり、口頭の教えを確実に修めた者だからだ。彼がマハーマーヤーの純粋な源泉だから、お前を彼のもとへ送ったのだ。」
その後マルパは、カサルパナの像が奇跡的に出現したベンガルの寺院を見るために、東へと行きました。そのとき彼は、マハーマーヤーについてニュと論じ合おうと思い立ち、ニュがグル・バリンタパから教えを受けているナーランダーへと赴きました。マルパは市場で大量の食物と酒を買い、ニュに会いました。食事をしながら、彼らは彼らはマハーマーヤーについての理解を比較し合い、主マルパが勝利者となりました。
 ニュは彼に聞きました。 
「何という師が、君に母タントラを教えたのか?」 
マルパはクックリーパのことを秘密にして、こう答えました。
「師は、三つのヨーガを持っている。 
 彼の姿は劣っているが、彼のマントラは深遠だ。 
 彼は、解放への道を指し示す者として知られる、 
 究極のダルマのヨーギンである。 
 今、彼はカピラヴァストゥの町にいる。」 
 ニュはカピラヴァストゥに行き、「解放への道を指し示す者として知られるグルはどこにいますか?」と尋ねながら、その師を探しました。 
 人々は、「グルは皆、解放への道を指し示す。どのグルを探しているのか?」と聞きました。 
 ニュは、それはまさにその通りであり、その師のことは彼には秘密にされのだということを悟りました。それでもニュはクックリーパを探しましたが、最初は見つけることはできませんでした。後に彼はクックリーパを探し当てましたが、毒の湖を渡ることができず、シュリー・クックリーパに会うことはできなかったといわれています。 
主マルパはシュリー・ナーローパのもとへ帰り、言いました。
「私は友人に会いました。我々は母タントラの理解を比べあい、私が勝利者となりました。彼はどの師に母タントラを習ったのかと聞いてきましたが、私は教えませんでした。」
ナーローパは言いました。
「クックリーパの名前を秘密にしておく必要はなかった。彼は金はたくさん持っているかもしれないが、それだけでは十分ではない。人に必要なのは、功徳と縁だ。」
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