「シャクニの入れ知恵」
(19)シャクニの入れ知恵
☆主要登場人物
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。ダルマ神の子。インドラプラスタの王。 
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。 
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。 
◎シャクニ・・・ドゥルヨーダナの叔父。 
※クル兄弟・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たち。 
※パーンドゥ兄弟・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たち。実は全員、マントラの力によって授かった神の子。 
ユディシュティラが「皇帝」となるためのラージャスーヤの祭典が終わり、集っていた諸国の王子や僧侶や長老たちはそれぞれの国へ帰っていきました。
聖者ヴィヤーサもまた、ユディシュティラに別れを告げにきました。ユディシュティラは、自分の先輩でもあり恩師でもあるヴィヤーサの足に手を触れ、敬意を表してこう言いました。
「お師匠様。あなた様以外、私の不安を取り除いてくださる方はおりません。 
 昔から多くの賢者が、わが一族が破滅に至るという予言をしてまいりました。今まで起きた不運な出来事で、これらの予言はすでに成就したと見るべきでございましょうか? それとも今後、さらに不幸なことがわが一族に起きるのでございましょうか?」 
 ヴィヤーサは答えました。 
「今後13年間は、お前たちにさまざまな悲しみや苦しみが待っていることだろう。何百という王が滅び、古い秩序が失われるだろう。破滅的な大異変は、そなたの家族のパーンドゥ一族と、そなたのいとこたちであるドゥルヨーダナを中心としたクル一族の間の反目から生じてくる。そしてこの反目がやがて戦争となり、結果的にクシャトリヤ(武士)たちは壊滅するだろう。何人も宿命には逆らえぬ。性根をすえて、正義を貫き通せ。常に油断することなく、王国をしっかりと治めよ。では、さらばじゃ。」 
ヴィヤーサのこのような予言はユディシュティラを悲しませ、彼は世俗的な野望や生活にすっかり嫌気がさしてしまいました。彼はこの予言を弟たちにも伝えました。
 アルジュナは言いました。 
「兄上は王なのですから、王がそのように動揺なさるのはよろしくありません。運命に真正面から立ち向かい、われわれのなすべき義務をなしましょう。」 
 ユディシュティラは言いました。 
「弟たちよ。神が私たちをご加護くださり、私たちに良き智慧をお授けくださいますようにと祈ろうではないか。 
 私は今後十三年間、ドゥルヨーダナをはじめとした親戚の者たちに、一切荒々しい言葉を使わないことを誓う。何かにつけて争うようなことはすまい。思わずかっとなってしまうことのなきよう心がけよう。腹を立てるということが反目の元となってしまうからな。いかなる場合にも腹を立てず、敵意を抱かせる口実を作らせる事のないよう私は常に心がけよう。」 
弟たちは、ユディシュティラのこの言葉に、みな心から同意しました。
  
 このように、ユディシュティラがいかなる犠牲を払ってもドゥルヨーダナたちと争いはしまいと神経をすり減らして注意している一方、ドゥルヨーダナの方は、「皇帝」と呼ばれてよりいっそうの名誉を手にしたユディシュティラとその一族に対して、以前以上の嫉妬の炎を燃やしていました。 
 嫉妬と憎しみと悲しみに沈むドゥルヨーダナに対して、叔父のシャクラがこう言いました。 
「ドゥルヨーダナよ、ユディシュティラをはじめとしたパーンドゥ兄弟は、お前のいとこたちではないか。彼らは身内であり、彼らの繁栄をねたむのは、少し筋違いではないかな? 彼らは他人に損害を与えることなく、正しいやり方と幸運によって繁栄してきているだけのこと。それを何でお前がねたまねばならぬのか。 
 お前の兄弟や親戚一同は、みなお前を支持し、従っているではないか。それなのになぜ嘆く必要なあるのか。」 
 ドゥルヨーダナは言いました。 
「シャクニ叔父上、確かに私には指示してくれる方々がたくさんいます。ならば、戦争を起こして、パーンドゥ兄弟をインドラプラスタから追い払ってしまってはいかがでしょうか。」 
 シャクニは答えました。 
「いや、それは容易なことではあるまい。 
 しかしお前がそんなに言うならば、わしは、戦争で血を流したりしなくても、パーンドゥ兄弟を追放する方法をお前に教えてやろう。 
 ユディシュティラは、さいころ遊びが好きなくせに、まったく不器用で、うまい手口やチャンスの捉え方がまったくできぬ。われらがこのさいころ遊びに彼を招待したならば、クシャトリヤの伝統に従い、ユディシュティラは必ず応じるであろう。わしはいろいろな勝負の手口を知っているから、お前の代わりにわしがさいころを振ろう。ユディシュティラは、さいころ遊びにおいては、わしにかかっては赤子のようなものじゃ。こうして一滴の血を流すことなく、お前のために彼らの持つ王国と富を勝ち取ってやろうぞ。」 
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