yoga school kailas

解説「ミラレーパの十万歌」第三回(1)

2009年4月4日

解説「ミラレーパの十万歌」第三回

 はい。今日はミラレーパの十万歌ですね。
 まあ、初めての人もいるので簡単に説明しますと、ミラレーパっていうのは、一番、そうですね、宗派を超えて愛されるチベットの大聖者ですね。まあチベット仏教っていうのは四つぐらいの宗派があるんですが、宗派関係なく、チベットの人たちが大好きな大聖者、これがミラレーパですね。
 で、このミラレーパっていう人は、うちで出してる『聖者の生涯』に簡単な伝記が載っていますけども、なんていうかな、例えばミラレーパの師匠であるマルパとか、あるいはそのマルパのさらに師匠であるナーローパとか、あとそうですね、ミラレーパの弟子のガンポパとか、こういった人たちっていうのは、天才タイプっていうか、秀才タイプっていうか、非常にもともと優れた存在で、まあ非常にエリート的な感じで悟っていくんだけど、ミラレーパっていうのはそうじゃなくて、マザコンで(笑)、で、お母さんにそそのかされて三十人以上、人を殺しちゃって。修行に入る前にね。で、あと魔術師だった。つまり魔術で人を殺したんだね。もちろん魔術自体も普通は修行の妨げになるから、つまりマイナスの要素ばっかりだったんだね(笑)。魔術やって、殺生いっぱいして、で、お母さんにすごい執着してて。すごくそういうマイナスの要素があったんだけど、縁のあった師匠のマルパに出会って、で、マルパは、「こいつは実は自分とすごい縁があって、素晴らしい素質を備えてる」と。「しかし今生、ちょっと悪いことをやり過ぎてけがしすぎた」と。よって、それを一気に浄化するために、徹底的な――言ってみればいじめなんだけど、徹底的に肉体的、精神的にミラレーパをいじめ抜くんだね。で、ミラレーパはそれに不屈の信仰心を持って耐え抜くんだけど。
 でもこれもなんかちょっとミラレーパらしいっていうか、マルパは幾つもの試練を与えて、それは、それを全部乗り越えたらもうそれだけでミラレーパは解脱し悟ってしまうっていうような試練だったんだね。で、ミラレーパは最後の一つ前までそれを信仰心で乗り越えて、でも最後の最後で逃げちゃうんだね(笑)。だから、なんていうかな、そこまでの――つまり九十%ぐらいの達成はそれでもう得てしまった。しかしあと十%を、最後逃げちゃったから、最後は瞑想修行でそれを補ったっていうかね。
 つまり、ちょっとわれわれの手の届かない大天才が、もうさまざまな修行を簡単に達成し、「はい、悟っちゃいました」っていう世界じゃなくて、いろんな問題を抱えて悪業をいっぱい積んでる男が、まあ師匠との縁によって、師匠に何をやられてもついていって、で、純粋に悟りを追い求めて大聖者になったっていう、そういう部分がね、すごく好まれるみたいですね。
 だからミラレーパの教えも、そういう激しい人生を送ってきてるからかは分かんないけども、ものすごく、なんていうかな、心に訴えるものが多いんだね。
 で、ミラレーパ自身、すごく高い悟りを得てるわけだけど、この当時の、ドーハーっていう伝統があってね、ドーハーっていうのは、仏教とか、ヨーガでもあるけども、心に浮かんできた悟りの境地を、あまり型にとらわれない自由なかたちで歌にするんですね。心から出てくる歌。でもこれはもちろんね、なんていうか、得意不得意がある。つまり大聖者だからドーハーが得意なわけではない(笑)。大聖者なんだけど寡黙な人もいるし(笑)。ね。それはいろいろなタイプがいるんですが、このミラレーパはすごくこのドーハーが得意だったって言われる。つまり非常に高い悟りを得ていて、しかもそれを美しく表現する力にすごく長けてたんですね。よってミラレーパはまあ、多くの悟りの歌を残して、で、それがよく「十万歌」って言われるんだね。で、それがまあチベットにいろんなかたちで伝えられて、で、ミラレーパはいろんなところで修行をしながらいろんな歌を歌ったわけですが、それに関するエピソードを集めたのが、この『ミラレーパの十万歌』と呼ばれる作品ですね。
 で、この作品は――一応今日は勉強会っていうかたちでやりますが、実際は解説するような感じのものではなくて、そうですね、このミラレーパが残した歌を読むだけでも、それだけでも素晴らしい瞑想になると言われます。つまりわれわれの、心の智慧の扉を開く鍵というか、エッセンスみたいなのが含まれた言葉なんだね。だからこれは素晴らしい作品であることは間違いない。だからまあ、ある程度、なんていうかな、ベースとなる概念はちゃんと理解しなきゃいけないけど、より深い部分に関しては、何度も何度も心をちょっと柔軟にしてね、読むことによって、われわれの瞑想や修行においてとても利益が出てくると思います。

share

  • Twitterにシェアする
  • Facebookにシェアする
  • Lineにシェアする