解説「王のための四十のドーハー」第一回(2)
そこでサラハは、それまでは一般的なヒンドゥー教のお坊さんだったわけだけど、初めて仏教、しかも普通の仏教じゃなくて密教っていうものに出合って、で、そこで非常に感化されて、そのシュリーキールティの弟子として、しばらくの間修行を続けるわけだね。で、そこで天才的な、まあ素質があったサラハは、そのシュリーキールティの密教の教えをものすごく吸収していく。で、かなり、まあ、なんていうかな、修行が進んだわけだけど、最終的な悟りにはまだ至れないでいた。
そんなときに、サラハはヴィジョンを見るわけです。どんなヴィジョンかというと、道端の十字路のところで、弓矢を作ってる女性のヴィジョンを見た。で、そのヴィジョンを見て、サラハは直感的に、これはとても重要なことだと感じた。で、そこに実際に行ってみたわけだね。その十字路に行ってみた。そしたらそこに、ほんとにその女性がいた。で、ほんとに矢を作っていた。
で、サラハはその彼女のことをじーっと観察してみたんだね。一見ただ矢を作ってるだけなんだけど、でもまず一つのポイントとしては、まず彼女は、完全に集中していた。もちろん、いわゆる職人なわけだけど。つまり、矢を作るという作業にもう全身全霊を込めていたんだね。つまり一切他の意識が入り込まない。つまりこれは、いわゆるカルマヨーガです。つまり一種の瞑想です。これはだから日本的発想ととても近いんだけど、座って行なう瞑想、もちろんこれはとても大事なことなんだけど、より高度なものっていうのは、何をしていても、それが意味があろうがなかろうが、例えば矢を作るという作業、あるいは例えばお茶を飲むという作業、すべてにおいて完全に集中していたならば、それは瞑想なんです。で、その集中度が、はるかに高い集中をしていたならば、すべてサマーディになるんだね。だからこれは理想です。だから矢を作るときは、もうただ矢を作るということだけに集中する。しかもそれは今の瞬間だけだよ。次のこととか考えない。あるいはその前のことも考えない。例えば作りながら、「さっき作ったのはちょっとうまくいかなかったかな」とか、そんなことも考えない。今作ってる矢だけに集中する。このあとのことも考えない。「さあ、これでもう最後だから、売りに行って儲かるぞ」とか、そんなこと考えない。もうただ目の前だけに集中する。ね。
だから、なんでもそうなんだね。もう例も挙げればきりがない。お供物の供養もそうですよ。お茶を飲んでるときはこれだけに集中する。もちろんそこで、別においしいとか思ってもかまわない。でもそれだったらただこのお茶のおいしさだけに集中する。これを飲みながら、「さて、次はバタークッキーかな」とかそんなことは一切考えない。ね。あるいは、「ああ、ちょっとさっき食べたあれはこうだったな」とか考えながらお茶を飲むんじゃない。この今やってることに完全集中するんだね。これができたならば、それは、最高の瞑想になる。ただ、もちろんそれが普通はできないので、最初はしっかり座ってやる瞑想から練習するんだね。座って瞑想して、例えば「さあ、座った状態ではわたしは、かなり雑念が消え、集中して深い意識に入れるようになった」と。意識をグーッと統一することができるようになりましたと。よって、それを日常のさまざまな動作に結び付けていけばいい。最初から瞑想を放棄しちゃ駄目だよ。「いや、先生はなんか、日常の瞑想が大事だって言ったから、じゃあ座って瞑想しなくてもいいのか」っていうことではない。座って瞑想するのはもちろん基本なんだけど、それと同じレベル、あるいは近いレベルぐらいの集中を、日常においてもやるんです。
つまり、こうして瞑想でグーッと入ってる状態と、日常動いてる状態が、できるだけ違わないようにしていくんだね。それはもう完全集中です。――日常できる修行っていろいろあるんだけど、これもだからその一つだね。もちろんマントラを唱えるのも素晴らしいよ。もしくは、そうだな、ずっといつも神々を思念し続けるとか、いろいろ日常できることはたくさんある。でもこれは一つの、なんていうかな、マハームドラー的な日々の過ごし方だね。これができたならば、その人は何やってても関係ない。例えば工場で何か単純作業してたとしても、それに一心に集中してたらサマーディに入るかもしれない。ちょっと危ないかもしれないけどね(笑)。だからそこら辺は、なんていうかな、危ないときはマントラとかにした方がいいかもしれないけど(笑)。
だからそれが理想だね。で、日本の、禅とか、あといろんなね、武術とか、あるいは精神文化っていうのは、結構そういうセンスがあるね。いつも言うけども茶道とか華道とか、あるいは日々の一挙手一投足に悟りを見いだすようなフィーリングがある。だからそれはとてもいいところだと思うね。
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