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菩提心の樹

【本文】
 他のすべての善は、芭蕉樹のように、実を与えて消滅してしまう。しかし、菩提心の樹は、常に実を結んで消滅しない。ただ豊かに実るだけである。

【解説】
 菩提心以外の善は、実を生じると消滅する。菩提心は、常に実を結んで消滅しない。これは何を意味しているのでしょうか。

 ちょっと言葉の整理をしてみましょう。
 菩提心とは、「衆生を救うために、覚醒を得るぞという勇猛な決意」。
 善とは、自分や他人を幸福にする一切の行為。
 ということは、善と呼ばれるものの中には、菩提心を含むものと、含まないものがあるといえるでしょう。

 たとえば人に優しくする。これは善です。
 この善によって、この人は逆に「人に優しくされる」という果報が生じます。
 しかし普通はこれで終わりです。
 エゴによっても、善を積むことはできます。
 菩提心なしに、カルマの法則を学び、良いカルマを積めば、良い果報が生じ、幸福になります。
 しかし幸福になると同時に、その良いカルマは消えます。
 なぜなら自分が幸福になることで、カルマ(行為)の目的は達成されたからです。

 しかし菩提心というのは、もともと目的が「自分が幸福になりたい」ではなくて、「他者を幸福にしたい」なのです。
 しかもその幸福の定義は、究極的には「他者を解脱させること」なのです。
 しかもその他者という範疇に偏りがあってはいけませんから、「すべての衆生を解脱させること」が、菩提心の目指すところとなります。
 しかし自分が煩悩と苦悩にまみれた凡夫であっては、とても他者を解脱させることなどできないので、まず自分が完全な覚醒を得ようと考えます。
 こうして菩提心を持つ者は、「他者の幸福」と、「それを達成するための自分の覚醒」のことを、常に気にかけるようになります。
 この土台の上に積まれた善は、消滅しないのです。
 なぜなら、目的が「自己の幸福」にはないので、そこで菩提心を持つことによる心の安定や、さまざまな幸福が生じたとしても、それは菩提心に付属する「当たり前のこと」であって、菩提心の究極の目的である「すべての他者が解脱すること」が達成されるまで、菩提心の善は増大し続けることはあっても、消滅はしないのです。

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