パトゥル・リンポチェの生涯と教え(112)
◎パトゥルがロンガ・トゥルクを受け入れる
ロンガ・トゥルクという著名なラマは、パトゥルと会いたがっていた。彼はパトゥルが暮らしていた場所にやって来て、パトゥルの住処の入口の外で礼拝を始めた。パトゥルは彼を見て、不満を漏らした。
「ここで誰かが礼拝しているようだ。一体どういうことだ?」
ラマは起き上がり、自己紹介すると、こう言った。
「わたしはロンガ・トゥルクと申します。」
ところでチベット語でロンガというと、ある特定の場所を差す言葉であるのだが、それだけではなく、水の近くで育つ葦という意味もある。
「ロンガ・トゥルク?」
パトゥルは驚いたふりをして言った。
「おいおい! なんと堕落した時代にわれわれは生まれたのだろう! 最近は”葦”に転生する者もいるのだな!」
ロンガ・トゥルクは、そこで怯むような男ではなかった。彼は、パトゥルの師匠ジグメ・ギャルワイ・ニュグの転生者はタマ・トゥルクであると言われているということを知っていた。チベット語で、”タマ”とは、ある地名を指しているが、それ以外にも”乾燥した小枝”という意味もある。
「”小枝”に転生する者もいるのですから、”葦”に転生する者がいても不思議ではありませんでしょう?」
ロンガ・トゥルクは、パトゥルに機知に富んだ言葉を返した。
「”葦”はまだ、しなやかなだけましです!」
パトゥルは何も答えなかったが、ロンガ・トゥルクの機転を利かせたユーモアを喜んでいたことは明らかであった。