パトゥル・リンポチェの生涯と教え(68)
◎パトゥル、偉大なるカトク・シトゥに頼みごとをする
偉大なるカトク・シトゥはパトゥルを招いて、彼の住居で共にお茶を飲み、昼食を食べた。偉大なる師の豪華な部屋に座ったとき、パトゥルはあたりを見渡して叫んだ。
「アーディ! 贅沢すぎる! カトク僧院とそこのラマたちが裕福であることは周知のことだが、あなたはその中でも一番リッチなようだ!
ほれ、この豪華な象眼細工の箱! この金と銀の儀式用具! このきれいなシルクの錦織で出来た衣服! この高価なアンティークの中国製石焼きの茶碗!
ほれ、この虎の皮の絨毯とヒョウの皮のカーペット! なんとおぞましい光景だ!
ほれ、このあなたの広大な敷地! この莫大な数の家畜の群れ! まったく地球とは思えん。天界、いや、それ以上だ! 眼がくらんでしまうわい!」
パトゥルは身を乗り出し、打ち解けた口調でカトク・シトゥにこう囁いた。
「ところで、わたしは素焼きのティーポット以外何も持っていない。あなたはもうすぐ旅に出るらしいじゃないか! このわたしの小さな素焼きのティーポットを、あなたの所持品と一緒に詰めて、一緒に持っていってくれないかね? わたしからのお願いだ。わたしは、身軽に旅をする方が好きなのだ!」
パトゥルの言葉に暗示されていた忠告に気づいたカトク・シトゥはこう答えた。
「おっしゃるとおりです。あなたの素焼きのポットを持っていきましょう。」
パトゥルがカトクを去って間もなく、カトク・シトゥも誰にも告げずにカトクを去った。
所持品、財産、従者等、快適なものをすべて放棄し、カトク・シトゥは僧院を去って、聖地であるドカムの「白い氷河」へと行き、そこで隠遁しながら余生を過ごした。ぼろぼろの衣服をまといながら、最低限の食糧だけを蓄え、世俗的な活動をすべてやめ、石焼きの茶碗をシンプルな木のお椀に交換して、人里離れたところで質素に暮らした。後に、カトク・シトゥはパトゥルにこのように手紙を書いている。
「アブよ、あなたの助言に従い、私は山の隠遁所に来ています。ところで、わたしはまだあなたのティーポットを持っていますよ。」
この手紙を読んだパトゥルは、それに同意してこう言った。
「彼は良い耳を持っている! 彼はわたしが言ったことを本当の意味で理解していた!」
カトクを去った後、パトゥル・リンポチェは、ゲツェ・セルシュル僧院、ラブ・ティブ僧院、チュホル僧院を含む、近隣の地域の多くの僧院で、入菩提行論の広範囲にわたる教えを説いた。教えを説いている間、パトゥルは常に公平で、仏教のある一派を称賛してある別の一派を批判するということは決してせず、ある派の見解を特別扱いするということもなかった。パトゥルは、彼の時代に流行していた悪意ある横柄な宗派主義を煽るようなことは拒絶した。自分の意見から、あるいはそれぞれの宗派の伝統的な解釈から、それぞれの派の見解に則ったそれぞれの派についての教えを説いた。複雑過ぎず、簡潔過ぎず、非常に明快で非の打ちどころのない方法で教えを説き、常にエッセンス的なものを解説し、教えを実際の実践とリンクさせたのだった。