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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(63)

◎銀塊の供養

 あるとき、ラサのプロン家出身の一人の貴族がパトゥルに会いにやってきた。パトゥルが改まった面会を好んでおらず、他者から供養を受けることは決してないということを知ると、貴族の彼はダチュカ出身の老僧に助けを求めた。
 老僧は、パトゥルが日々の修行の一環として「けがれなき懺悔」というタントラの詞章を唱えているということを知っていた。パトゥルがある場所にやって来て、祈祷文を唱えながら五体投地を始めたそのときに、老僧は大声でこう告げた。

「ラサのプロン家出身の貴族が、あなたにお会いしたいと言っております!」

 五体投地している最中だったパトゥルは、そのまま地面に体を投げ出した。そして顔を伏せたその状態で、老僧にこう言った。

「その方を中に入れてください。」

 貴族は急いで入ってきて、礼拝し、パトゥルの御足に額をつけ、地面に身を投げ出しているパトゥルの足のすぐ後ろに、大きな銀塊を置いた。そのようにして首尾よく布施をすると、貴族は、パトゥルが起き上がる間もなく、嬉しそうに走り去ったのだった。

◎銀塊の供養その2

 有名なテルトン、チョギュル・リンパの三人の子供――息子のワンチョク・ドルジェとツェワン・ノルブ、娘のコアチョク・パルデン――がパトゥルの弟子になった。とりわけ、パトゥルからロンチェン・ニンティクのアビシェーカを受けた後に、彼らはパトゥルを根本グルと見なすようになった。

 パトゥルが谷にある隠遁所にいたときのことだった。チョギュル・リンパの息子ツェワン・ノルブが、教えを受けるために、数人の学識あるケンポたちと共に牧草地にやって来た。聴衆たちがパトゥルの周りに集っていた。彼ら全員が隠遁地で過ごしていた。ある者は大きな木の麓で暮らし、ある者は突き出た岩の下で暮らし、またある者は小さな洞窟の中で暮らしていたが、誰も小屋などを建てて暮らしている者はいなかった。その地には、建物というものが一つとしてなかったのだ。
 ある日、一人の老人が馬に乗ってやって来た。彼は馬から降りて、ラマの前で三度、五体投地をした。
 パトゥルに「わたしを悪趣への転生からお救いください!」と言いながら、彼はパトゥルが供養を受けないということをよく知っていたにもかかわらず、パトゥルの足元に銀塊を置いた。そして彼は馬の上に飛び乗り、パトゥルに銀塊を返す隙を与えることなく逃げ出した。
 ツェワン・ノルブは、地面に輝く銀塊を見て、「ああ、きっとパトゥルはこの捧げ物を善い行ないなどに使われるのだろう」と考えた。
 しかしパトゥルは、輝く銀塊を拾うことなく、完全に無視しており、説法が終わると立ち上がって、銀塊の供物をそこに放置したまま、住処に戻っていったのだった。
 それから弟子たちは一人一人立ち上がって、修行場に向かって行った。誰もその貴金属に見向きもしなかった。銀塊は牧草地の中に残され、満月のように輝いていた。

 ある程度の距離を歩いた後、ツェワン・ノルブは再び後ろを振り返ったが。銀塊はまだそこにあった――緑の牧草地の中に点が一つ光り輝いていた。丘を降りながら思索していると、世俗に対する強烈なもどかしい感情、輪廻に対する嫌悪感、そして真の放棄がツェワン・ノルブの心に生じた。ツェワン・ノルブは信仰と感嘆の念に満たされながら、こう思った。

「わがグルと、この束の間の人生を放棄した法友たちのことを思うと、ブッダとその弟子たちの行動が思い起こされる。」

 彼の頭に以下の物語が浮かんだ。

・・・

 かつて、ブッダとその弟子たち――アーナンダ、マハーカッサパなどのアルハットたち――が歩いていると、地面に大きな金塊が落ちていた。彼らはそれを素通りし、次々と「毒だ!」と叫んでいったのだった。
 近くで薪を拾っていた少女がそれを聞いていた。彼らが去った後、彼女はその金塊をその目で見たが、それが正確にどういうものであるか分らなかった。彼女は思った。

「なんと奇妙なことでしょう! ここに光り輝く美しい黄色の石があります。アルハットたちは皆、それに触れないように、『毒だ!』と叫びながら、脇によけて歩いていかれた。きっとこれはわたしも触れてはいけないものに違いないわ。」

 彼女は家に帰り、母親に「今日、珍しい毒を見たの!」と言い、その日起こった出来事を全部話した。母親は自分もそれを見てみたいと思い、すぐにそこへ向かった。彼女は即座に、その「石」と言われていたものが金塊であることを知った。彼女はそれを使って宗教的な奉仕を行なうために家に持ち帰った。そして、ブッダとその直弟子たちが金塊を敬遠して、それを置き去りにし、「毒だ!」と叫んだという噂が広まったのだった。

・・・

 このことを思い出したツェワン・ノルブは心を動かされ、パトゥルの行動が、如何に自然と勝者とその弟子たちの歩んだ軌跡を辿っているかということを目の当たりにしたと感じたのだった。

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