パトゥル・リンポチェの生涯と教え(32)
◎トルマの色塗り
パトゥルは、ド・キェンツェー・イェーシェー・ドルジェがミンヤクにやって来たという知らせを聞いて、彼に会いに行くことにした。数週間歩き、彼はド・キェンツェーの野営地に到着した。
パトゥルは、台所のテントを見つけて中に入ると、腰を下ろした。
その中にいた一人の僧が、円錐の形のトルマ(ツァンパにバターや水を混ぜて練り合わせて作るお供物)を作っていた。それらのトルマは、赤と白に色付けされて、ヴァジュラヤーナの儀式の期間に祭壇に捧げるために用意されているものだった。
「おい、そこの老人ラマのあんた!」
その僧はパトゥルに向かって大声で言った。
「このトルマを仕上げなくちゃいけないんだ。手を貸してくれ!」
そして、その僧を手伝って、パトゥルはトルマを作り始めた。しかし、そこにはトルマを赤くするための染料しかなく、トルマを白くするために使われれるバターがなかった。だから、パトゥルはトルマを全部赤く塗ることにした。
そのうちに、僧がパトゥルのところへ戻ってきて、パトゥルが作ったトルマに気づいた。僧は大声でパトゥルを怒鳴りつけた。
「何をやっているのだ! トルマを全部赤く塗ってしまったのか!」
パトゥルは、赤い染料しかなくて、バターが置いていなかったのだと答えた。
「お前は私の仕事を台無しにした!」
僧は怒鳴り散らした。
「トルマを全部赤く塗りやがって! 白いトルマまで赤く塗りやがったな! お前はここに、ド・キェンツェーに会いに来たそうだが、白トルマと赤トルマの違いさえ分からないお前が、一体どんな馬鹿な質問を師に尋ねるというのだ?」
トルマ作り係の僧は、怒り狂い過ぎて、今にもパトゥルを袋叩きにせんばかりであった。
パトゥルは純粋無垢な表情で、こう尋ねた。
「おお、ところで、トルマを白く塗ったり赤く塗ったりする意味を、あなたはご存知ですか?」
トルマの色付けの意味を知らなかったその僧は、より一層憤慨し、大声で叫び始めた。
「この老いぼれを見てくれ! トルマをちゃんと色付けすることさえできないのだ! それに加えて、変な質問までしてきやがる!」
最終的に、誰かがド・キェンツェーに、みすぼらしい放浪ラマが彼に会いに来たという報告を持っていった。
「そいつはどんな身なりだ?」
その偉大な師は尋ねた。
「ええと、下に赤い縁取りのついた羊の皮のコートを着ております。」
これを聞いて、ド・キェンツェーは大声で叫んだ。
「何だと! もしや、パトゥルか? そいつをここに連れてこい!」
パトゥルはすぐに、ド・キェンツェーのもとへ案内され、五体投地を捧げた。
大喜びで、ド・キェンツェーは優しく愛情深く、パトゥルを出迎えてこう言った。
「おお! 来たか!」
二人はしばらくの間会話を交わした。それから、ド・キェンツェーはこう尋ねた。
「この地域の人々を益するために、入菩提行論を説いてくれないか?」
パトゥルは同意した。
パトゥルは翌日、あのトルマ作り係の僧を含めた大勢の聴衆に向かって、教えを説き始め、四つの重要な章――第一章「菩提心の讃嘆」、第二章「罪悪の懺悔」、第三章「菩提心を受け保つこと」、第十章「回向」――を解説した。
慈愛と慈悲のくだりにくると、パトゥルは一度話すのをやめ、「特別な」解説をし始めた。
「もちろん中には、ある単純な質問をしただけで、人をぶん殴ろうとするような者もいる。」
パトゥルは楽し気に笑って言った。
「自分自身が、あるトルマは赤く塗って、あるトルマは白く塗らなければいけない理由を知らないというのにな!」