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解説「ナーローの生涯」第8回(12)

◎王子を引きずり回す

【本文】
 ティローはまた一年間、黙って瞑想し続けました。ナーローはティローの周りを敬意を持って回り、教えを懇願しました。
 ティローは、「教えがほしいなら、ついて来い」と言って、歩き出しました。すると、軍隊に囲まれたある王子と遭遇しました。ティローは、「私に弟子というものがいたら、あの王子を引きずり回しただろう」と言いました。ナーローがそのとおりにすると、軍隊によって攻撃され、瀕死の重傷を負いました。
 ティローはまた神秘的な力で傷を癒すと、ナーローに、復活のヨーガの教えを伝授しました。

 またちょっと似たような話になってますけども、今度は王子様が出てきたね。で、これはサハスラーラ、つまり完全な解脱の世界の表現といってもいいかもしれない。
 つまりこれは、ヒンドゥー教でも仏教でも、われわれの純粋化された魂、真我とか、あるいは心の本性のことを、王子として表現するんだね。つまりアージュニャーまでの浄化が終わって、完全に輪廻から脱却するときの世界。これがこの王子の象徴として表わされてる。
 で、もちろん実際にはもっと深い意味があると思います。それはわれわれにはね、まだ介入できない深い意味がここにはあるんだろうと思います。
 で、これもいつも言うように、皆さんはもう分かると思うけども、これはこのティローとナーローにのみ当てはまる出来事だと考えなきゃ駄目ですよ。つまりこれは一般的な出来事じゃないんです。例えばHくんがこの段階にもしきたとしたら、また多分全然違うことが起きます。全然違うことによって、この段階をクリアしなきゃいけないんだね。それはそれぞれのカルマとか、置かれた条件によって変わってきます。
 で、ここで今度教わった復活の教えっていうのは、これはですね、ナーローの六ヨーガの本とか持ってる人はあの中で出てくるトンジュクっていうやつですね。トンジュク。このトンジュクっていうのは、自分の魂を抜け出させてね、他の死体、死んだばかりの人間とか動物とかの死体に入り込んで、で、その新しい体で自由に活動するっていうヨーガなんだね。
 で、これはね、ナーローの六ヨーガにも書いてあるけども、現代では残ってない教えなんですね。これはナーローが弟子のマルパに伝えたんだけど、インドでは仏教が滅んでしまったので、チベットにしか残らなかったんだけど、この唯一教えを教わったマルパが、自分の長男にだけ、タルマドデっていう名前の長男にだけ伝えたんですね。でもこのタルマドデが亡くなってしまったんだね。これはこの後のマルパの生涯の話でも出てきますけども、この優秀な素質を持ったタルマドデというマルパの息子が死んでしまったんです。よって、チベットにはこの教えの伝承がなくなってしまったんだね。ただ表面上には伝わってる。しかし実際にはもっと深い意味があるんだと思います。
 というのはね、この表面上に伝わってるトンジュクの教えを見ると、なんでこのトンジュクをやるのかっていうと、例えば偉大な聖者がいたとしてね、偉大な聖者が本当はもっと長生きすれば多くの人を救えると。それなのに病気になっちゃったとか。あるいは本当はもっと権力があれば多くの人を救えるけど、自分は権力がないっていう場合ね。そういう場合に自分から魂を抜け出させて、健康な人の体に入るとか、あるいは死んだばかりの偉大な王とかに入るとか、そういうことをやるんだって書いてあるんだね。しかしですよ、しかし一方で、ミラレーパの物語とかみると、ミラレーパの物語にもこのトンジュクの話が出てくるんだけど、このトンジュクの教えが、一生のうちに速やかに完全な解脱を得るための秘儀とされてるんだね。つまり――え? 魂抜け出させて誰かに体に入る――これで速やかに解脱を得られるとは考えられない。つまり何かあるんです。もう一つこの奥にね。でもそれは残念ながら伝わらなかったんだね。表面的なちょっとおもしろいところだけ伝わって。でも実はこの復活といわれる教えには、もうちょっと深い意味があるんだと思う。だからこの辺はちょっと残念というか、われわれのもう世代では分からなくなってしまったところですね。

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