アディヤートマ・ラーマーヤナ(54)「自己を明け渡すヴィビーシャナ」
第三章 自己を明け渡すヴィビーシャナ
◎ヴィビーシャナ、ラーマに庇護処を求める
気高きヴィビーシャナは、四人の大臣たちと共にラーマの御許へと行き、空中にとどまりながら、ラーマの方を見ていた。
そして彼はこのように叫んだ。
「おお、主よ! 蓮華の眼をされしラーマ様よ!
私は御身の奥方をさらったラーヴァナの弟のヴィビーシャナであります。
私はわが兄上から追放され、御身の下に庇護処を求めに参りました。
気高き御方よ!
私は間違った行為しか頭にないラーヴァナに、利益ある言葉を語りました。
何度も何度も彼に、シーター様をあなたにお返しするよう助言したのであります。
にもかかわらず、『時』の影響下にさらされ、彼は私の言うことを聞きませんでした。
反対に、凶悪な悪魔たちは手に剣を持ち、私を殺そうとして近づいてきました。
ゆえに、私は四人の大臣と共にその場から去り、輪廻からの解脱を求めて、一切のときを無駄にすることなく、あなたの下に庇護処を求めているのです。」
このヴィビーシャナの言葉を聞くと、スグリーヴァはこう言った。
「おお、ラーマ様! こやつは魔術の技に長けた悪名高き悪魔でありますぞ。
その上、強靭な肉体を持ち、武装した家臣たちを持つあのラーヴァナの兄弟であります。
機会を得れば、こやつはわれわれを殺すでありましょう。
ゆえに、おお、主よ、猿の護衛たちにこやつを処刑させるよう私に御命じください。
さあ、御身が良かれと思われることを御命じください。」
このスグリーヴァの言葉を聞くと、ラーマは微笑んでこう仰った。
「おお、猿の大将よ! 私は私の意思で、刹那の半分の間にインドラと他の神々と共に全宇宙を創造し、そしてそれらを瞬く間に破壊する。
ゆえに、一切の主である私は、彼に一切の恐怖からの庇護を与えるのだ。その悪魔をすぐに私の前に連れて来なさい。
一度でも『私は汝のもの』と言って私のもとへと来た生類には誰でも庇護を与えるというのが私の誓いなのだよ。」
そこでラーマの言葉を聞いて歓喜したスグリーヴァは、ヴィビーシャナをラーマのもとへと連れてきて謁見させた。
そしてヴィビーシャナは完全なる礼拝をラーマに捧げたのだった。
強烈な信仰心で声を詰まらせ、合掌して頭を下げたヴィビーシャナは、穏やかで歓喜に満ちた表情をされ、大きな眼で、青い肌を持ち、弓矢を携え、ラクシュマナを引き連れたラーマの賛美を唱え始めたのだった。
◎ヴィビーシャナの賛美
ヴィビーシャナはこう言った。
「偉大なる大将よ、シーターの心を喜ばせる御方よ、恐ろしい弓を携えし御方よ、帰依者たちを愛し御方よ、無限なる御方よ、限りなく光り輝く御方よ、スグリーヴァの友よ、ラグ族の主よ、宇宙の創造、維持、破壊の原因よ、すべての世界の師よ、(時の始めからプラクリティの主であられる)原初の主よ、一切の世界を先導させし御方よ、汝に礼拝し奉ります!
あなたは世界の原因であられ、それを維持し、破壊されます。
あなたは何にも妨げられることなき御方。
あなたは遍在する者そして遍在される者として一切の存在の内外に存在しておられます。
あなたは宇宙の御姿で顕現されます。
あなたのマーヤーの御力に心奪われ、ジーヴァは分別の力のない無智の中に浸り、善と不善の支配下におかれ、生と死から構成される輪廻を流転します。
あなた以外に何も求めないという純粋な心と共にあなたを理解しない限り、ジーヴァは、あたかも真珠貝が錯覚によって銀に見えるように、この宇宙を真実であると知覚してしまうのです。
あなたを知らなければ、人は、おお、主よ、息子、妻、縁者に永遠に執着し、最終的には彼に苦しみをもたらす一切の感覚の対象に喜びを見出します。
あなたは真にインドラ、アグニ、ヤマ、ニルティ、ヴァルナ、ヴァーユ、クベーラ、ルドラ、至高なるプルシャであられます。
あなたは最も微細な原子よりも微細であり、最も粗大なものよりも大きいのです。
世界の創造者、そして維持者よ、あなたには始まりも中間も終わりもなく、永遠に完全であります。
あなたには失うことも破滅することもなく、手も足も、眼も耳もありません。
あなたは足なくして動き、手なくしてすべてのものを掴み、眼なくしてすべてのものを見、耳なくしてすべてのことを聞きます。
あなたは五つのコーシャ(ジーヴァの鞘)の制限を超越し、グナの制限もなく、ご自身以外に何の支えも必要としません。
あなたは修正されることなく、不変で、無形の存在であります。
あなたを牛耳る者など存在しません。
あなたにはすべてのものが経験する六つの変化がありません。
始まりがなく、プラクリティを超越し、あなたは、あなた自身の神秘的な力から人間としてお現われになりました。
グナによって制限されないあなたを知ることで、帰依者たちはあなたに対する真の信仰という梯子を通じて解脱に至り、光明の智慧の頂上に導かれるのです。
私はこの達成を求めている帰依者であります。
ラーヴァナの仇敵であり、最も慈悲深き汝に礼拝し奉ります。
どうか、輪廻の海から私を救い上げてください。」
◎ヴィビーシャナの即位
ヴィビーシャナの賛美に喜ばれ、帰依者を愛する御方ラーマはこう仰った。
「御身が吉兆なることを達成せんことを。
望みの恩寵を求めなさい。私は帰依者たちに恩寵を授ける者なのだよ。」
ヴィビーシャナはこう答えた。
「私はあなたを見神することで祝福され、私の探し求めていたものと、人生の究極の完成を獲得いたしました。
私は実に、あなたを見神したことで解脱したのです。
私はこの全世界で、私のように幸運で祝福された者は存在しないと考えております。なぜなら、私はあなたの聖なる御姿を見ることができたからです。
私のカルマの束縛を破壊するために、信仰という特質をお持ちのあなたご自身の叡智と、人をこの境地に導くあなたを瞑想する能力を私にお与えください。
私はあなたから世俗的な幸福は何も求めません。あなたの聖なる御足に対する絶えることなき愛着を与える信仰のみを私は求めています。」
ラーマは「ならば、そのようになるだろう!」とお答えになり、続けてさらに喜びながらこう仰った。
「ああ、気高き者よ! まさに真実たる秘密をお聞きなさい。
私は、常に私を信仰し、世俗的切望を持たず、常にシャーンティに確定しているヨーギーの心に、シーターと共に住まう。
ゆえに、平穏で、常に一切の罪や不純性のない御身は、私を瞑想することで、この輪廻の恐ろしい海から救われるであろう。
この御身が唱えた私の賛美を学び、あるいは書き、あるいは聞く一切の者は、私の寵愛を獲得し、サールーピャ(主の姿を得ることによる解脱)を得るであろう。」
そしてラクシュマナの方を向くと、帰依者を非常に大切にされる心をお持ちのラーマは、このように続けられた。
「今彼に、私との交わりの果報を経験させよう。
私は今、彼をランカーの王として任命する。海から戴冠式の儀式用の沐浴のために水を持ってきなさい。
太陽と月が輝く限り、地球が在り続ける限り、私の物語がこの世界に広がる限り、彼はその地を支配するであろう。」
そう言うと、彼はラクシュマナが持ってきた水を求められた。
ヴィビーシャナをランカーの王として任命し、ラーマーの配偶者であるラーマは、大臣たちとラクシュマナによって執り行われた儀式の沐浴に入られた。
すべての猿たちは大歓喜の中、拍手喝采し、スグリーヴァはヴィビーシャナを抱擁してこう言った。
「おお、ヴィビーシャナよ!
われわれは皆、至高者であられるラーマ様のしもべである。
その中でも御身は、その信仰心の強烈さによって、ラーマ様に直接に受け入れられたという名誉を得たのだ。
今、御身はラーヴァナを滅ぼすことにおいて、われわれ皆の助けとなることができる。」
ヴィビーシャナはこう言った。
「私の能力に準じており、真の信仰の精神でできる奉仕ならなんでも、私は一切の誠実をもって為しましょう。」
◎ラーヴァナのスパイ、シュカの物語
そして、ラーヴァナによってスパイとして遣わされたシュカという名の悪魔が、空高きところに立ちながら、スグリーヴァにこう言った。
「悪魔の王ラーヴァナは、彼にとって兄弟のようである御身に、こう仰っております。
『高名な一族に生まれ、猿の王である御身は、私にとって兄弟のようなものだ。私は御身に何一つ有害なことを為したことはない。
私がアヨーディヤーの王子の妻をさらったことは、御身にとって何の因果関係もあるまい。御身は猿の兵たちと共にキシュキンダーに帰還するがよい。
ランカーは、神々でさえも近寄ることができない。まして、か弱き人間や猿などはいうまでもない。』
と。」
ひとたび猿たちがこの悪魔の言葉を聞くと、跳び上がって彼を掴み、彼の頭を拳で殴った。
悪魔シュカは、ラーマにこう言った。
「おお、偉大なる王よ!
使者を殺してはなりませぬ。どうぞ、そのように猿たちにご命令ください。」
このシュカの哀れな頼みを聞くと、ラーマは猿たちに彼を攻撃するをのやめるよう命じられた。
そしてシュカは再び空へ舞い上がり、スグリーヴァを呼んでこう言った。
「おお、王よ! それでは私は立ちます。
何か悪魔の王ラーヴァナにお伝えすることはありませぬか?」
そしてスグリーヴァはそれに答えて次のような伝言を言い放った。
「おお、悪しき悪魔の輩よ!
わが兄者ヴァーリンが殺されたように、御身は息子と兵隊諸共に、ともかくも滅ぼされるであろう。
シュリ―・ラーマの奥方を盗み取っておいて、御身は如何にして逃げ得るというのか?」
その後、ラーマの命により、スグリーヴァはシュカを監禁した。
実にこの出来事の前に、サルドゥラという名のラーヴァナの使者は猿の軍隊を監視し、その現状をラーヴァナに報告していたのだった。
ラーヴァナはそれに深く考えさせられ、宮殿の中に籠って、不安から深いため息をついた。
◎海神の征服
さて、海を見て怒りで眼を真っ赤にしたラーマは、ラクシュマナにこう仰った。
「おお、ラクシュマナ! この悪意に満ちた海神を見ろ。
この者はこの領域のそばで野営をとった私に会いに来なかったではないか。
おそらくこの者は『この人間たちは猿どもの助けを借りて一体何ができるというのか?』などと考えているのであろう。
おお、英雄よ!
私は今この海を干上がらせてやろう。
猿たちは恐れなく海底を行進していくがよい。」
怒りで赤くなった眼をして、ラーマは弓に弦を張ると、矢筒から矢を取り出し、弓弦にそれをつがえた。
それは宇宙を破滅させる炎のように赤々と光っていたのだった。
弓弦を引くと、彼はこう仰った。
「一切の生類に、このラーマの矢の力を見せてあげよう。
私は今、すべての河の合流地である海を干上がらせてやる。」
ラーマがこのように言い放つと、世界が山々、森、空と共に震え上がった。その四分の一は闇に覆われた。海は恐怖から大しけとなり、海岸から一ヨージャナの範囲が乾いてしまった。その恐怖は鯨やワニや魚のような一切の水棲生物に襲いかかったのだった。
その間に、さまざまな装飾で飾られ、至る所に自らの輝きを放つ神聖なる姿で、海神が現れた。彼の中に沈殿したさまざまな種類の貴石を手に持ち、彼はそれらをラーマの御足に捧げたのだった。
彼は怒りで眼を赤くしたラーマに礼拝すると、こう言った。
「おお、三界の守護神ラーマよ! 私をお助けください。
全世界の創造者であられる汝は、心のうえで私を鈍化しました。如何にして私が、汝がお与えになった性質を捨て去ることなどできましょうか?
五つの粗雑な元素は汝によって、タマスの性質と共に創造されました。
誰も汝の命令に背くことなどできませぬ。
タマサ・アハンカーラ(タマスの『私』意識)から、すべての元素が現れます。それらの原因となる性質のタマスは、生来それら一切に固執しております。
おお、主よ、無形であり、プラクリティのグナを持たない汝が、遊戯の御心から、グナから形成される汝のマーヤーを装われるとき、それは汝のヴィラート・プルシャと呼ばれます。
グナによって特徴づけられたヴィラート・プルシャによって、サットヴァ性の元素からシャナカのような聖仙が、ラジャス性の元素によってマヌ等のような創造の王が、そしてタマスというグナからは元素の主であるルドラが生まれました。
汝が汝自身を汝のマーヤーで覆い隠し、人間としてお遊びになられているときに、生来鈍い知性と愚劣さを持つ存在である私が、グナを超越した汝をいかにして理解できるというのでしょうか?
おお、主よ!
あたかも動物に正しい道を歩かせるときに棒が必要となるように、罰のみが、愚かな存在を正しい道に入れることができるのです。
おお、帰依者たちを愛し御方よ!
私はすべての人間の庇護処に相応しき汝に帰依いたします。
おお、ラーマよ!
私に汝の守護をお与えください。
私は汝にランカーへの道をお捧げいたします。」
シュリ―・ラーマはそこで彼にこう仰った。
「この私の矢は、決して無駄にはならない。
それが解き放たれるべき対象を私に示されよ。
速やかにその対象を示したまえ。
なぜならば、この矢は必ず標的を貫くからである。」
大海の神はラーマのこの言葉を聞くと、彼の強力な矢を見て彼にこう言った。
「北の地域に、多くの罪深き生き物が生きるドゥルマクリヤという地があります。彼らは絶えず私に迷惑をかけているのでございます。
その矢を彼らの方へ向けたまえ。」
そしてラーマの矢は放たれ、そこのアビラ族をすべて滅ぼし、彼の矢筒にもとの通りに戻って来たのだった。
そしてたいへん謙虚に、海神はラーマにこう言った。
「汝のこれらの猿の従者の中に、天界の建築家ヴィシュヴァカルマの息子であるナラという者がおります。
彼に海を渡る橋を建設させるのです。ブラフマー神に与えられた恩寵の功徳により、彼にはそれを為す能力があります。
この達成のために、全世界に汝の賛美を歌わせたまえ。」
そしてラーマに礼拝した後、海神は消えていった。
そしてラーマはスグリーヴァとラクシュマナと共にナラとその他の猿たちに橋の建設を始めるように命じた。
この命令に歓喜し、ナラは山のような大きさの猿の将軍たちの助けを借りて、橋を建設し、巨石と巨木で百ヨージャナの海に橋を架けたのだった。
-
前の記事
今日のAMRITAチャンネル「実写ドラマ・ラーマーヤナ 第119話」 -
次の記事
無限の恩寵