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アディヤートマ・ラーマーヤナ(38)「スグリーヴァとの同盟」

キシュキンダーの巻

第一章 スグリーヴァとの同盟

◎ハヌマーンとラーマの出会い

 次にラーマとラクシュマナは、巨大なパンパ―湖の岸へと、ゆっくりと歩みを進めた。彼らはその広大で印象的な湖を見て驚嘆したのだった。
 パンパーは、約一クローサ(約三.六キロ)の広さで、泥で汚れていず、聖者の心のように透明な深い湖である。その水面には、蓮華、カルハラ、水連、青蓮華などのさまざまな種類の水生の花が咲き乱れていた。そしてハンサ、カランダヴァ、チャクラヴァカ、水鳥、コーイェシュティ、クラウンチャのようなあまたの種類の鳥が、ハミング音の交響曲を奏でながら、その湖を泳いだり、その上を飛び舞っていた。その岸は、あたり一面に芳香漂う花と果物のたわわなる木々や蔓でひしめいていたのだった。
 そしてラーマとラクシュマナは疲労を癒すために、洗浴して湖の新鮮な水を飲んだ。それから彼らはその湖の涼しい岸部に沿って歩いていったのだった。
 髪をジャータにして、木の皮の衣をまとい、手には弓矢を持って、二人の英雄たる兄弟、ラーマとラクシュマナは、山の美しさや周囲に見えるさまざまな種類の木々を眺めながら、リシャムーカ山に向かって進んでいった。
 その山の頂上から、猿の長スグリーヴァが四人の猿の友と共に、遠くからラーマとラクシュマナが山に近づいてくるのを見た。見るとすぐに、スグリーヴァは山頂の最も高いところへと逃げていった。
 恐怖でいっぱいになって、彼はハヌマーンにこう言った。

「おお、友よ! あの二人は一体何者であろうか? ブラフマチャーリンに姿に変えてあそこへ行って、奴らの素性を確かめてきてくれ。
 奴らは私を殺すためにヴァーリンからここに送られてきたのであろうか? 御身は奴らと会話を交わして、奴らの心の内を探ってくるのだ。
 奴らが悪しき意志を持ってここへ来たのであれば、手でサインを出してくれ。謙虚な態度を装い、奴らの前にひれ伏して、奴らの真意を確かめてみてくれないか。」

 ハヌマーンはそれに同意すると、ブラフマチャーリンの姿でラーマに近づき、謙虚に彼を礼拝して、こう言った。

「英雄のように偉大で、若く、あらゆる点で素晴らしいあなた方は、一体何者でありますか? あなた方の輝きは、太陽と月のように、辺り一面を照らしております。
 あなたが、世界のシステムを創造し、維持し、破壊している御方であり、今この世界のために人間の姿で化身されたのだということを、私は理解し始めました。人間の姿をとられ、あなたは戯れるように、世界からその重荷を取り除き、帰依者たちを守護するために、ここを彷徨っておられるということに私は気づきました。遊戯として、これらの世界の守護、破壊、創造を行いながら、至高なる御方であるあなたは今、クシャトリヤの姿をとられ、この世界に化身されました。
 私は、あなた方お二人は、行為者としてすべての者の胸の中に住んでおられる永遠に自在なる主ナラ・ナーラーヤナであり、今は人間の姿でこの世界を動き回っておられるのだと信じております。」

 ラーマはラクシュマナにこう仰った。

「このブラフマチャーリンをご覧! 彼は文法に精通しているようだ。彼の言葉には全く非の打ちどころがない。」

 このようにラクシュマナに話すと、叡智の権化であられるラーマはハヌマーンにこう仰った。

「私はラーマ。ダシャラタの子である。これは私の弟ラクシュマナだ。わが父君のお言葉を守るために、私は妻のシーターと共にこのダンダカの森にやって来たのだ。ここで暮らしている間に、おお、ブラフマチャーリンよ、わが妻シーターがある悪魔に連れ去られてしまった。私はここで彼女を探している。さあ、では次はあなたが何者か、誰の息子なのかを話しておくれ。」

 ブラフマチャーリンはこう答えた。

「大変知恵のある猿の王スグリーヴァが、四人の大臣と共にこの山の頂上で暮らしております。
 スグリーヴァはヴァーリンの弟であります。邪悪なヴァ―リンは国から彼を追放し、彼の妻を奪ったのです。
 このヴァ―リンに恐れをなして、スグリーヴァはこのリシャムーカ山に立て籠もりました。私はそのスグリーヴァの大臣であります。私は風神を父として持ち、母の名はアンジャニといいます。ああ、ラグ族の偉大なる末裔よ! あなたとスグリーヴァは同盟を結ぶべきであります。
 彼はあなたの奥方をさらった者を破滅させる際に、あなたにとっての大変な力となるでしょう。あなたがそれに承諾なさるならば、ただちにスグリーヴァのもとへと向かいましょう。」

 シュリ―・ラーマは答えてこう仰った。

「おお、偉大なる猿よ! 私もスグリーヴァと同盟を結ぶためにここにやって来たのだ。私もまた彼の目的を間違いなく果たし、彼の協力者となろう。」

◎ラーマ、スグリーヴァと同盟を結ぶ

 そしてハヌマーンは真の姿で彼らの前に立ち、ラーマにこう言った。

「あなた方お二人は私の肩にお乗りください。私がスグリーヴァたちが住むあの山の頂上へとお連れいたしましょう。」

 それに同意し、ラーマとラクシュマナはハヌマーンの肩に乗った。
 一瞬にして、ハヌマーンは山の頂上まで飛び跳ねると、ラーマとラクシュマナを木陰に降ろした。それから彼はスグリーヴァの元へと行き、恭しく礼拝した後、彼にこう言った。

「ああ、王よ! 一切の恐れを捨てたまえ。ラーマ様とラクシュマナ様がここにいらっしゃいました。ただちに彼らを受け入れるのです。私はラーマ様に御身と同盟を組むように懇願いたしました。即刻、火(アグニ)を証人として立て、その同盟は結ばれるべきであります。」

 こうして、スグリーヴァは大変喜びながらラーマの御前に行ったのだった。木の枝を切って、彼はラーマのための座を作った。
 ハヌマーンはラクシュマナの座をこしらえ、ラクシュマナはスグリーヴァの座を作った。そして彼らは皆、大きな喜びに包まれながら座ったのであった。
 そしてラクシュマナは、ラーマが森に来てからシーターが誘拐されるまでのすべての経緯を語った。
 ラクシュマナの言葉を聞いて、スグリーヴァはラーマにこう言った。

「おお、気高き主よ! 私はシーター様の探索の責任を負いましょう。御身の敵を滅ぼすために私ができる一切の手助けを、御身に提供いたします。では、おお、ラーマ様! 私の知るところとなったある事柄についての報告をお聞きください。
 ある日、私は大臣と共にこの山の頂上に座っておりました。するとそこから、高貴な女性が何者かに連れ去られていくのを見たのです。彼女は『ああ、ラーマ。ああ、ラーマ』と言って泣いておりました。山の上にいるわれわれを見つけるや、彼女は上着の中にご自身の装飾品を包み込み、その包みをわれわれに向かって投げたのです。彼女は悪魔に連れ去られていたゆえに泣いておりました。私は装飾品の包みを拾い上げ、洞窟の中にそれを保管しておいたのであります。御身は今すぐにでもそれらを見て、それらに見覚えがあるかどうか、お確かめください。」

 そう言うと、彼は装飾品の包みを持ってきて、ラーマの前に置いた。
 ラーマはその包みをほどき、その中身を見るや否や、何度も何度も「ああ、シーター! ああ、シーター!」と言って感情をあらわにした。それから、その装飾品を自分の胸に置き、無智な人間のように泣き始めたのだった。
 
 ラクシュマナは、こう言ってラーマを慰めた。

「この偉大なる猿のリーダーの助けを借りれば、われわれは戦でラーヴァナを殺し、シーター様を取り戻せるでありましょう。」

 そしてスグリーヴァがこう言った。

「おお、ラーマ様! 私がラーヴァナを殺し、シーター様を御身の元に連れ戻しましょう。私は御身とこの厳粛たる約束を交わします。」

 それからハヌマーンは火を点け、純潔たるラーマとスグリーヴァは火(アグニ)を証人として、同盟を結んだという印に、腕を広げて互いに抱擁し合ったのであった。そしてスグリーヴァはラーマの側に座った。
 大いなる自信に満ち溢れて、スグリーヴァはラーマに自らの物語を語った。彼はこう言った。

「おお、友よ! どうかお聞きください。ヴァ―リンがかつて昔、私に為したことを・・・・・・。
 キシュキンダーの都はかつて、マーヤーの息子のマーヤーヴィーという阿修羅によって襲撃されました。彼はけたたましい獅子のような唸り声をあげて、ヴァーリンに挑戦しました。ヴァーリンはそれにひどく腹を立てて、怒りで目を真っ赤にして現れると、拳でその阿修羅を殴りました。
 その一撃でひどく負傷し、その阿修羅は逃げて行って、洞窟に避難したのです。ヴァーリンと私は奴を追いかけて行きました。奴がその洞窟の中に入っていくのを見るや、ヴァーリンはかんかんに怒って、私にこう言いました。

『お前は外で待機しろ。俺は洞窟に入る。』

 そう言うと、彼は中に入っていき、丸々一カ月、出てきませんでした。
 一カ月の終わりに、私は洞窟から大量の血が流れてくるのを見ました。それを見るや、ヴァーリンが死んだのだと思って、私は哀しみに崩れ落ちたのです。私は洞窟の入り口を岩で塞ぎ、都へ帰って、ヴァーリンが悪魔に殺されたことと告げました。われわれの大臣たちはこれを聞いてひどく心を痛め、私の意志に全く反して、私を王として任命したのです。
 おお、敵を滅ぼし者よ! 私は数日間王国を統治しました。するとヴァーリンが都に戻ってきたのです。彼は激怒して辛辣な言葉を私に吐くと、拳で私を殴打しました。ひどい恐怖を覚え、私は都から逃げ出し、多くの地を彷徨った後、最終的にこのリシャムーカ山に避難したのであります。リシの呪いのせいで、ヴァーリンはこの山に入ることができないのです。
 あの卑猥な輩は私の妻を奪ったのです。私はそれで深く悲嘆に沈んでおります。奪い去られた妻のために、私はここで激しい悲しみのうちに日々を過ごしております。今日、私は御身の御足に触れたことで、大いなる平安を得ました。」

 そしてラーマは、友の苦悩に心を動かされ、彼にこう仰った。

「御身の妻を奪った者の人生に、私が終止符を打ってやろう。」

 ラーマはスグリーヴァ等の前でこの誓いを立てたのであった。

◎スグリーヴァがラーマの強さの試験を要求する
 
 そこで、スグリーヴァはラーマにこう言った。

「おお、偉大なる王よ! ヴァーリンは強者の中でも最強であります。彼の強さは神々であっても比較にならぬほどであります。御身は如何にして彼を倒そうというのでありますか?
 御身に、彼の強さについて申し上げましょう。どうかお聞き願います。かつて非常に強いドゥンドゥビという阿修羅が、巨大な水牛の姿でキシュキンダーを襲撃し、夜にヴァーリンに決闘を申し込みました。ヴァーリンは怒りに燃えて周りが見えなくなり、その水牛の角をつかむと、何度も何度もぐるぐる振りまわし、奴を地面に叩きつけたのです。そして片足をその阿修羅の体の上に置くと、手でその首をねじり上げて、その体からもぎ取ってしまったのです。その頭の重さを測るために、彼はそれを遠方へ投げ飛ばし、それは一ヨージャナ飛び、聖仙マタンガのアシュラムの付近に落ちたのです。
 首をもぎ取ったことから、その聖仙のアシュラムの付近に血の雨が降りました。それに激怒した聖仙マタンガは、ヴァーリンがその聖仙のアシュラムがあるリシャムーカ山に近づいたなら、彼(ヴァーリン)の頭は粉々に砕け散るであろうと宣して、彼に呪いをかけたのです。そのときからヴァーリンは、この山には一度も来ていません。この秘密を知って、私はこのリシャムーカ山に避難し、ここでヴァーリンへの恐れなしに暮らしているのであります。あそこをご覧ください、おお、ラーマ様。山のように横たわっているドゥンドゥビの頭があります。
 御身がそれを投げ飛ばすことができるならば、それは御身はヴァ―リンを殺すのに十分な力を有しているという証明となるでありましょう。」

 こう言うと、スグリーヴァは丘のように大きいその頭を見せた。
 ラーマは微笑みながらそれを見ると――ああ、何ということであろう!――それを爪先で蹴って、十ヨージャナも飛ばしてしまったのだ。
「素晴らしい! 真に素晴らしい!」とスグリーヴァとその大臣たちは賛美した。スグリーヴァはさらに、一切の帰依者を愛しておられるラーマにこう言った。

「ここに七本のパルミラ椰子の木があります。それらをご覧ください、おお、ラグ族の主よ! ヴァーリンはよくそれらの木の各々を、その葉がすべて落ちるまで揺さぶっておりました。
 もし御身が矢をそのすべての木に貫通させることができるのであれば、私は御身の御手によってヴァーリンの死が降されるということはもう決定したようなものだと、信じることができるでしょう。」

 ラーマはそれもまた承諾した。限りなき力を持つ御方は、弓を引き絞って矢を放った。その矢は七本の木すべてを貫いただけではなく、山と大地も突き抜けて、ラーマの矢筒に戻ってきたのであった。この御業に驚嘆して大喜びし、スグリーヴァはラーマにこのように言った。

◎スグリーヴァのラーマへの賛美

 スグリーヴァは言った。

「おお、偉大なる主よ! 御身は一切の世界の守護者であられる至高の真我であられます。過去の善行が私を御身に近づけてくれ、私に御身との繋がりを与えてくれました。
 聖者方は、輪廻におけるしがらみの停止を求めて御身を礼拝します。ゆえに、解脱の施与者であられる御身との繋がりを得て、何ゆえに私は輪廻におけるさらなるしがらみを借りることとなる世俗的な財産を御身に祈ることができましょうか?
 子供、富、妻、王国などは、御身の不可思議なる力、マーヤーを起因として、人を夢中にさせてしまうのです。ゆえに私はそれらを求めません。御身の恩寵以外、私は何も求めません。ゆえに、おお、一切の主の中の主よ、御身の恩寵を私にお与えください。
 稀有なる貴重な幸運の一かけらによって、世俗的な繁栄を求めていた私は、地面を掘っている者が宝の山を掘り当ててしまったかのように、至高なる神秘の至福の施与者であられる御身と出会ったのです。
 太古の無智に起因する私の束縛は、今日バラバラに切断されました。この輪廻は、供犠、慈善、苦行、福祉事業などによっては枯渇することはありません。それどころか、それは強められてしまうだけであります。しかし、御身の蓮華の御足を見ることで、解脱は疑う余地なく達成されるのです。
 一瞬でさえも揺るぎなく心を御身にとどめておく者――彼の輪廻における一切のしがらみの因である無明は、ただちに破壊されるでしょう。
 ゆえに、おお、ラーマ様、私の心が常に御身にとどまりますように。それが他の何にも逸れませんように。わずかな時間でも、御身の甘味な御名を『ラーム、ラーム』と唱えるすべての者、そのような者は、殺生や飲酒のような深刻な罪の影響から解放されるのです。私は、おお、ラーマ様、敵への勝利も、わが妻との交わりという幸福も求めません。私は、人を一切の束縛から解放してくださる御身への信仰心だけを望みます。
 おお、ラグ族の統率者よ! 私はあなたのマーヤーによって創られた束縛に従う御身ご自身の真我の塵に過ぎません。御身の御足への信仰を私に授け、この輪廻の苦悶から私をお救いください。
 かつては、心が御身のマーヤーに覆われてしまったとき、他者への態度において、敵、友、中立者の区別を私は心に抱いてしまいました。しかし今は、あなたとの聖なる親交により、そのすべての区別は、すべてをブラフマンと見ることによって否認され、消えてしまいました。この経験をした者にとっては、どこに友がいて、どこに敵がいるというのでありましょうか? プラクリティのグナによって作られる区別は、あなたのマーヤーの束縛が働くときにのみ経験されるのです。
 無智がグナの働きを手助けする以上、この多様性は確固とした現実として経験され、そして多様性が無智によって経験される限り、時は死の恐怖を作り出すのです。
 ゆえに、無智の人生に満足する者は、一切がマーヤーに根差している妻、子供、富などへの執着に存在するタマスの暗黒の中に沈んでいます。ゆえに、おお、ラグ族で最も気高き御方よ、あなたに結びついている奴隷であるこのマーヤーを破壊してください。
 私の一切の心の働きを、御身の御足への捧げものとさせてください。
 私の口を、御身の御名と御身の素晴らしさを唱えることに専心させてください。
 私の手を、御身への奉仕に従事させてください。
 そして私の身体に、御身との接触の機会を得させてください。
 私の眼が、常に御身の御姿、御身の信者、そしてグルを見ることができますように。
 私の耳が、常に御身の降誕における御身の御業の詳細を聞くことができますように。
 そして私の足が絶えず、御身の聖地への巡礼に従事しますように。
 おお、ヴィシュヌよ! ガルダに乗られし御方よ! 
 私の手足が、御身の御足によって神聖化された聖地の塵を身に着けることができますように。
 そして私の頭が、おお、ラーマ様、シヴァやブラフマーにさえも礼拝される御身の御足を常に礼拝することができますように。」

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