アディヤートマ・ラーマーヤナ(36)「カバンダの救済」
第九章 カバンダの救済
◎ラーマとカバンダの対決
これらの出来事の後、ラーマは激しい悲しみに動揺しながらも、再びラクシュマナと共に、シーターを探しに他の森へと出発した。
進むにつれて、彼らは不可思議な姿の悪魔に出くわした。それは、巨大な顔が胸に埋まっており、目などの重要な器官を持っていない怪物であった。
彼の腕は一ヨージャナまで広がっていた。あらゆる生き物を殺戮する彼はカバンダとして知られていた。
ラーマとラクシュマナがその巨大な生き物を見つけたときには、彼らはすでにその巨大な腕の中にいた。腕が彼らの四方八方を囲んでいたのだ。
ラーマは彼を見て、笑いながらラクシュマナにこう仰った。
「この悪魔を見てみろ。頭と足がない。顔が胸に埋まってしまっている。奴はこの巨大な腕の手中に入ったものを食って生きているに違いない。われわれはもうその中にいる。
おお、ラクシュマナ! どこにも逃げる術はない。どうするべきであろうか? 奴はすぐにでもわれわれを食ってしまうだろう。」
ラクシュマナはこう答えた。
「何ゆえに・・・・・・おお、主よ、あなたはこんなことに動揺しているのでありますか? 心を落ち着かせて、奴の二本の腕を切り落としましょう。一人一本ずつ切るのです。」
この提案に同意し、ラーマはその怪物の左腕を剣で切り落とし、ラクシュマナも同じようして右手を切り落としたのであった。
これにひどく驚いた悪魔はこう尋ねた。
「あなた方お二人は神でありますか? あなた方が誰であられるか、私に教えてください。なぜならば人間界にも天界にも、わしの腕を切り落とすことのできる者などいませんから。」
ラーマは笑いながらこうお答えになった。
「アヨーディヤーにダシャラタという大王がいた。私はその息子ラーマである。私に付き添っているこの知性的な男は、私の弟のラクシュマナ。わが妻シーターは世界に知れ渡るほど美しい。われわれ二人が狩りをしに住処から出掛けている間に、ある悪魔がシーターをさらっていったのだ。われわれはこの恐ろしい森にシーターを探しに来たのである。
われわれはお前の腕の中いることに気づいたゆえ、自己防衛のためにお前の腕を切断したのだ。さあ、では今度はこの化け物の姿をしたお前が誰であるかを教えてもらおうか。」
◎カバンダの素性
カバンダはこのように返答した。
「私に近づいてきた御方が真にラーマでありましたとは、私は本当に幸せです。以前の私は、ガンダルヴァのリーダーでありました。若さと美しい容姿への慢に溺れて、私は愛しい女たちを引き連れて、彼女らをあらゆる手段を尽くして喜ばせながら、世界中を回りました。そして苦行によって、おお、ラーマよ、私はブラフマーから、不滅になるという恩寵を手に入れたのです。
かつて、身体に八つの奇形を持つ聖仙アシュターヴァクラと出会い、私は彼をバカにして笑ってしまいました。するとその聖仙は怒りで興奮して、『おお、不快な輩め! お前を悪魔にしてやる』と言って私を呪ったのです。
私は彼に許しを請うと、苦行の力で光り輝く聖仙アシュターヴァクラは、私の呪いからの解放についてこのように語りました。
『トゥレータ・ユガにおいて、主ナーラーヤナがダシャラタの子として化身される。彼はお前の元に来て、一ヨージャナもあるお前の腕を切り落とすであろう。お前はそのとき呪いから解放され、元の姿を取り戻すであろう。』
私がこの悪魔の奇怪な姿になってしまったのは、あの聖仙の呪いを受けたゆえなのです。
かつて、怒りで興奮して、私は神々の王インドラに反抗してしまいました。彼は、おお、ラーマよ、彼の武器ヴァジュラで私の頭を打ったのです。その結果として、私の頭は胴体にめりこみ、同様に足も破壊されたのです。しかし、おお、ラーマよ、ブラフマーから与えられた恩寵のせいで、ヴァジュラの武器で打たれたにもかかわらず、私は死ななかったのです。
顔がない私を哀れに感じたすべてのデーヴァたちは、インドラにこのように言いました。
『彼は如何にして顔なくして生きていけるでしょうか?』
インドラは私にこう言いました。
『今後、お前の顔は胴体の中に存在するであろう。そして一ヨージャナの長さの腕を得るだろう。さあ、分かったら、直ちにここから立ち去るのだ。』
そのように命じられ、私はこの森を通る者たちを捕まえては食って、ここで暮らしているのです。そして今、あなたは私の腕を断ち切られました。
ああ、ラーマよ、私を穴に入れて、そこを燃料で満たし、火で燃やしてください。このようにあなたに燃やされることで、私は私の元の姿に戻るのです。その後、私はあなたの奥方を取り戻す方法をあなたにお教えしましょう。」
これを聞くとラーマは、ラクシュマナが掘った穴の中にその怪物を放り込み、薪に火を点けた。するとその身体から、あらゆる種類の装飾で飾られた愛の神と同様に美しい姿の者が現われた。彼はラーマの周りを回り、彼の前で合掌して完全なる礼拝を捧げると、信仰の熱情で声を詰まらせながら、こう言った。
◎カバンダの賛美
「おお、ラーマよ! 私は今、分けることができず、無限であり、心や言葉の範疇を超越しているあなたを讃嘆したく思います。
あなたはあなたの宇宙的顕現の二つの様相――ヒランニャガルバとして知られる微細なる存在とヴィラートという粗雑なる存在を超越しております。これとは異なるものは、あなたの純粋意識(主体)としての権限です。これより他のすべてのものは客体(無意識なる非我)の性質であります。ゆえに、おお、主よ! 如何にして人は客体、あるいは無意識なる非我の範疇に属する心を使って、あなたを知ることなどができましょうか?
ジーヴァと呼ばれるものは、前者が反映されるところのブッディと共に、真我の反映を同一化している状態なのです。ブッディなどの付加条件の目撃者(遍在者)である者は、ブラフマンそのものであります。彼はブッディに対する知覚の客体ではなく、究極の主体なのです。
彼は修正されることなき意識であり、すべてのものの本質です。彼の中に、無智により宇宙が重ね合わせられるのであります。ヒランニャガルバと呼ばれるものは、この宇宙的顕現の微細な様相であり、ヴィラートは粗雑な様相です。
あなたの微細な身体は、おお、ラーマよ、神秘性の大望を抱く者たちによって瞑想されるに相応しいのです。その種の瞑想は、彼らに至高なる徳をもたらし、彼らはそれによって、その中で宇宙の過去、現在、未来を認識します。
ヴィラートと呼ばれるあなたの粗雑な顕現は、マハータットヴァ、アハンカーラ、アーカーシャ、ヴァーユ、テージャス、ジャーラ、そしてプリトヴィから成る七つのヴェールを持つ宇宙的全体性であり、各々はその前のものよりも十倍も広大になりながらそれに続いて生じます。このあなたの宇宙的顕現であるヴィラート・プルシャは、以下のように為されるべき瞑想の相応しい対象なのです。
ヴィラートであるあなたは、顕現される全宇宙の結合体であり、宇宙のさまざまな地域はあなたの部分であります。あなたの御足の下部がパタラを形成し、その上部がマハータラを形成します。あなたのくるぶしはラサタラを形成し、あなたの膝はタラタラを形成するのです。あなたの二本の腿はスタラとヴィタラからなり、一方でその下部はアタラを形成します。あなたの臀部はブフー・ローカを形成し、あなたの臍はブヴァー・ローカを形成するのです。あなたの胸は光の世界(ジョーティ・ローカ)を形成し、あなたの首はマハー・ローカを形成します。あなたの顔の下部はジャナー・ローカを形成し、その上部、つまり額はタパー・ローカを形成するのです。そしてあなたの頭は一切の世界で最上であるサティヤ・ローカを形成するのです。
インドラや他の世界の守護神はあなたの腕です。方位はあなたの耳です。アシュヴィニー・デーヴァはあなたの鼻孔であります。アグニはあなたの顔であり、時はあなたの眉の動きです。そしてデーヴァの教師はあなたの知性なのです。
あなたの『私』意識はルドラであり、あなたの言葉はヴェーダのマントラ、そしてあなたの牙はヤマであり、あなたの歯列は星々、あなたの笑い声は世界を惑わすマーヤーであります。あなたの横目の一瞥は創造であり、あなたの前面はダルマ、そしてあなたの背中はアダルマであるのです。
あなたの瞬きは昼夜を生み、あなたの腹は七つの海、そしてあなたの血管は河、あなたの髪は木、あなたの精液は雨、そしてあなたの叡智の力は宇宙に顕現する偉大性なのです――そのようなものがあなたの粗雑な身体です。
このあなたの粗雑な身体への心の集中は、人が解脱を得るための容易い方法であります。この御姿はすべてのものを含んでいるのです。
ゆえに、おお、ラーマよ、私は常に、身体の手が逆立つと共に心の中に生じる強烈な信仰心の実践であるこのあなたの御姿を瞑想しています。このあなたの粗雑な御姿を瞑想することに成功したら、人はただちに解脱を得るのです。
そして私は今、私の目の前のここにいらっしゃるあなたの御姿――手に弓と矢を持ち、木の皮の衣を纏い、髪をジャータにし、若く新鮮であり、シーターの探求に従事し、ラクシュマナと共におられる青い肌の御姿を思っております。あなたのこの御姿を、おお、ラーマよ、私の絶えず行う瞑想の対象とさせてください。
全智者である主シヴァは、パールヴァティと共に、常にこのあなたの御姿を瞑想しています。カーシーにて、彼は歓喜しながら、霊的な罪の償いのために、死にゆくジーヴァにあなたの御名(タラカブラフマ【救済のマントラ】)を授けられるのです。
ゆえに、おお、ジャナカの娘の主よ! あなたはまさしく至高なる魂であります。それについての疑いはありません。
あなたのマーヤーの御力に隠されて、無智なる人間は、実のところあなたを理解できないのです。すべてのものの創造主、汝ラーマに礼拝し奉ります。ラクシュマナが仕えるアヨーディヤーの王子に礼拝し奉ります。私をお救い下さい! 私をお救い下さい! あなたのマーヤーが私の見識を覆い隠しませんように!」
そしてラーマはこう仰った。
「おお、天界のガンダルヴァよ! おお、罪なき者よ! 私はお前の信仰と賛美を大変喜ばしく思う。お前は、すべてのヨーギーたちが目指す私の永遠なる境地に達するであろう。
お前によって歌われたこの賛歌を信仰と集中を持って毎日唱えるすべての者は、アジュニャーナの産物である輪廻を乗り越え、私の持つ永遠なる智慧の境地に達するであろう。」