yoga school kailas

「カルナ」

(10)カルナ

☆主要登場人物
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長兄。パーンドゥ兄弟に憎しみを抱く。
◎カルナ・・・クンティー妃と太陽神スーリヤの子。クンティー妃が河に流し、御者に育てられた。
◎クンティー妃・・・パーンドゥ王の后。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。

 クル族とパーンドゥ族の子供たちは、はじめクリパ師から、後にドローナから、さまざまな武術を学びました。
 あるとき、彼らの武術の熟達を披露するショーが行なわれ、多くの聴衆が集まりました。特にアルジュナがその天賦の才を生かし、超人的な技を披露すると、集まった大観衆は熱狂の声を上げましたが、ドゥルヨーダナはまたしても嫉妬と憎しみの炎を燃やすのでした。

 そのショーも終わりに近づいたころ、ある雄雄しく神々しい若者が現われ、アルジュナのもとへ歩み寄ってきました。この男こそ、クンティー妃が少女のころ、太陽神スーリヤとの間に作った息子、そしてその後、河に流して御者が拾って育てた子である、カルナでした。
 つまりカルナとアルジュナは実は母を同じくする兄弟というわけだったのですが、ここで対峙した両者とも、カルナの出生の秘密は知らなかったので、お互いが兄弟ということも知りませんでした。

 カルナは、雷のような太くて低い声で、アルジュナに言いました。
「アルジュナよ。おぬしが披露した腕前以上の技を、見せてやろう。」

 そうしてカルナは、アルジュナが見せた超人的な武芸の技を、いとも簡単に真似してみせました。そこで誰よりも狂喜したのは、アルジュナに嫉妬していたドゥルヨーダナでした。彼はカルナを抱きしめ、言いました。
「勇者よ、ようこそおいでくださった。私とこのクル王国は、幸運の女神がわれらのもとへ遣わされた君を受け入れよう。」

 カルナは、自分を受け入れてくれたドゥルヨーダナに言いました。
「おお、王よ。まことにありがたき思し召しです。私はあなたに忠誠を誓います。」

 アルジュナは、いきなり現われたカルナに侮辱されたと感じ、こう言いました。
「おお、カルナとやら。呼ばれもせぬのにづかづかと入り込み、そして無駄口をたたくとは。お前は私に殺されて、地獄へ行くだろう。」

 こう言われて、カルナは軽蔑の笑いを浮かべて答えました。
「おお、アルジュナよ。この催し物はおぬしのものではなく、誰でも自由に飛び入りで参加できるはず。力こそが権威を打ち立て、法はそれに基づいて定まるもの。弱者の武器たる口先だけの戦いでは意味がない。言葉ではなく、矢でも射ってみなさい。」

 こうしてカルナとアルジュナは、それぞれ武器を手にして、相対しました。この宿命的な決戦に立ち会ってそれぞれの息子に声援を送るがごとく、インドラ神と太陽神が、同時に天空に現われました。

 いきなり現われたカルナを一目見たとき、クンティー妃は、自分が少女のころに太陽神スーリヤとの間に作り、河に流した子供だと気づき、気絶してしまいました。侍女に看護されてまもなく意識を取り戻したものの、どうしていいかわからず、苦悶のあまりに呆然とするばかりでした。

 二人が今にも戦わんとしたとき、一騎打ちの作法に詳しいクリパ師が間に入って、カルナに言いました。
「そなたが戦おうとしているこのアルジュナは、パーンドゥ王とクンティー妃との間に生まれた王子である。
 カルナとやら、そなたも自らの家系と一族の名を明らかにされよ。」

 こう言われたカルナは、何も言えずに下を向いてしまいました。
 
 そこでドゥルヨーダナは、こう言いました。
「もしカルナが高貴な家の出でないというだけで一騎打ちができないというなら、今ここでわしは、カルナをアンガ国の領主に任命する。これで文句はないであろう。」

 こうしてドゥルヨーダナはカルナにアンガ国の領主の権限を与えることで、高い地位を授けました。

 こうしていよいよ一騎打ちが始まろうとしたそのとき、一人の年老いた老人が、杖をつき、恐れおののきながら、その場に入ってきました。それはカルナの養父である、御者のアディラタでした。
 カルナは養父を見ると、頭を下げ、息子が父親になす敬礼を恭しくなしました。アディラタは震える手でカルナを抱きしめ、息子が出世したうれしさと息子への愛情で涙を流しました。

 この光景を見たビーマは、大声で笑い出して言いました。
「この男は、御者のこせがれに過ぎないというわけか! それなら、自らの家柄にふさわしく、馬車のむちを持っているが良い。お前など、アルジュナの手にかかって死ぬなどおこがましい。ましてや領主としてアンガ国を治めるなど、とんでもないことだ。」

 この暴言にカルナの唇はわなわなと震えましたが、ぐっとこらえ、沈み行く夕日を見ながら、深いため息をつきました。ドゥルヨーダナは怒りもあらわにこう言いました。
「ビーマよ。そんなことを言うとは君らしくもない。勇猛さこそがクシャトリヤの証である。卑賤な生まれなれども偉大な人物であった例は、幾百も示すことができるではないか。
 このカルナを見たまえ。この神々しいまでの姿と立ち居振る舞いを。そして超人的な武芸を。彼には何らかの出生の秘密があるに違いない。なぜなら、どうしてカモシカからトラなどが生まれようか。
 彼はアンガ国の領主の器ではないと君は言ったが、私はむしろ彼は全世界を統治するだけの器量さえ具えていると思うぞ。」

 こう言うと、ドゥルヨーダナはカルナを自分の馬車に乗せて、立ち去ってしまいました。

 日が沈み、群集は帰っていきました。人々は今日の出来事を振り返り、それぞれの好みに応じて、ある者はアルジュナを、ある者はカルナを、そしてある者はドゥルヨーダナを誉めそやしました。

 アルジュナとカルナの宿命の一騎打ちが避けられぬことを悟ったインドラ神は、自分の息子であるアルジュナに加勢するために、人間の僧に変身し、カルナのもとをたずね、彼が生まれながらに身につけていた、神の鎧と耳輪がほしいと願い出ました。
 インドラ神がこのようにしてカルナを欺くということは、彼の父である太陽神スーリヤが夢の中でカルナに告げていたのですが、もともと気前のいい性格で、誰かに求められたらなんでも差し出さずにはおられなかったカルナは、自分の大事な武器である神の鎧と耳輪を、インドラ神が変装したその僧にあげてしまったのでした。

 自分の大事な武器をカルナがあっさりと差し出したことで、インドラ神は喜び、また驚きました。インドラ神は自分の正体を明かすと、カルナの布施の心を称賛し、また自分のやましい行為に気がとがめたせいもあって、願い事があればかなえてやろうとカルナに言いました。

 そこでカルナは、
「どんな敵でも殺すことができる、あなたの武器であるシャクティをいただきたいと思います。」
と答えました。

 インドラ神は了承しましたが、ひとつ条件をつけました。
「私はこの武器をそなたに授けるが、この武器は、たった一度だけ、用いることを許そう。この武器を用いれば、どんな相手であろうとも、必ず殺すことができるだろう。しかし使えるのは一度だけで、一度使ったら、そなたの手からこの武器は消え、私のもとに戻ってくるだろう。」

 こう言うと、インドラ神は姿を消しました。

 ところで、クルの王族の一員となったカルナは、クル族とパーンドゥ族共通の武芸の師匠であったドローナからも武芸を習うようになりましたが、ドローナはアルジュナを一番弟子としてかわいがっており、ことあるごとにアルジュナに対抗しようとするカルナを良く思っていなかったので、なかなか奥義を授けてくれませんでした。
 業を煮やしたカルナは、ドローナの師匠であるパラシュラーマ師のもとをたずね、自分はブラーフマナ(祭司)階級の出であると偽って、弟子入りをしました。彼はパラシュラーマ師より、「ブラフマ・アストラ」と呼ばれる超兵器を扱うための奥義のマントラを伝授されました。
 しかしカルナが実は御者の息子であり、パラシュラーマ師を欺いていたことがばれてしまい、パラシュラーマ師は怒ってこう言いました。
「お前は師匠を欺いた罪により、お前が扱い方を習ったブラフマ・アストラは、決定的な瞬間に役立たずとなるであろう。お前に死が近づいたとき、お前はブラフマ・アストラを使うためのマントラをどうしても思い出せなくなるであろう。」

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