要約・ラーマクリシュナの生涯（２１）「ラーマクリシュナの聖地巡礼と、フリドエのヴィジョン」⑤

◎フリドエの懇願とヴィジョン

　一行が巡礼からドッキネッショルに帰って間もなく、フリドエの妻が亡くなった。フリドエは叔父であるラーマクリシュナを敬愛し、尽くしていたが、瞑想的な性格ではなく、もう少し現世を楽しんでから神の道に入ろうと考えていた。しかしこの妻の死によって、ついにフリドエも、人生の見方と生き方を変える時期がやってきたと考えた。彼はラーマクリシュナの真似をして、服や聖糸を脱ぎ捨てて瞑想したりした。また、ラーマクリシュナと同じような瞑想経験を自分も得られるように助けてくれとラーマクリシュナに懇願したりもした。しかしラーマクリシュナはこのように言って聞かせた。

「お前はそのようなことをする必要はないのだよ。お前はただ、師に奉仕していさえすれば、一切のものが得られるのだ。もしお前と私の両方ともが昼夜、神意識に満たされて、食べることや眠ることのような肉体に関わる一切のことを忘れてしまったら、誰が二人の面倒をみるのか。」

　しかしフリドエは、このようなラーマクリシュナの言葉には耳を貸さずに懇願し続けた。そこでラーマクリシュナはこう言った。

「母の思し召しに任せよう。何一つ、私の意志で起こるわけではないのだから。私の心を世間からそむけてこのような状態にし、様々な不思議な経験を持つようになさったのも母だったのだ。」

　このような会話が為された数日後、フリドエは礼拝中に、いくつかの不思議なヴィジョンと、半ば没我的な境地の中で味わう法悦状態を経験し始めた。ある日、モトゥルがこのような状態にあるフリドエを目撃して、ラーマクリシュナに、「父よ、フリドエのこのありさまはいったいなんですか？」と言った。ラーマクリシュナは経緯を説明し、こう言った。

「彼は<母>にしつこくヴィジョンをねだった。それだから得ているのだ。彼にその味わいをわからせたら、<母>が元の状態にお戻しになるだろう。」

　モトゥルは言った。

「父よ、これは全部あなたのお遊びです。あなたがこの状態をおつくりになったのですよ。どうぞ、もう一度落ち着かせてやって下さい。私たち二人は、ナンディーとブリンギ（シヴァ神のお供）のように、あなたのおそばでお仕えしなければならないのです。私たちが、こんな異常な状態などになってよいものですか。」

　この数日後のある夜、フリドエは、ラーマクリシュナがパンチャヴァティーの方へ歩いて行くのを見た。水差しとタオルがいるかもしれないと思い、フリドエはそれらを持って後についていった。
　そこでフリドエは、驚くべきヴィジョンを見た。ラーマクリシュナが人間ではないことを、彼が血と肉からできているのでないことを、彼の身体から発する光輝にパンチャヴァティーが照らされているのを。そして彼が歩くときに、光輝くその足は地に着いていず、宙に浮いているのを。
　これは目の錯覚だろうかと思ったフリドエは、周囲のものがいつもと変わらないことを確認しつつ、何度もラーマクリシュナを見てみたが、同じだった。
　そしてフリドエが自分自身のことを見てみると、何と自分自身も光り輝いていることに気づいた。そして彼は、自分の人生に隠された神秘に気づいた。自分は永遠に神に奉仕している神の侍者であり、霊的光輝の結晶である彼の神聖な体の重要部分であって、今はただ<彼>に奉仕するというたった一つの目的のために<彼>と別個の存在となっているのだ。この真実に気づいたとき、フリドエの心は強い至福の流れであふれた。彼は自分を忘れ、世間を忘れ、世の人々が自分の事を何というかなどと考えることも忘れた。そして気が狂った人のように繰り返し叫んだ。

「おお、ラーマクリシュナ！　我々は人間ではありません。なぜここにいるのですか？　さあ、国々を回って、人々を束縛から解放しましょう！　私もあなたと同じものです。」

　ラーマクリシュナはフリドエに落ち着くように言ったが、フリドエの興奮は静まらなかった。そこでラーマクリシュナはフリドエの心臓に手を当てて、「母よ、もう一度こいつを間抜けにしてやってください」と言った。

　ラーマクリシュナがそう言うやいなや、フリドエの至福とヴィジョンは跡形もなく消え、彼はまたもとの鈍い男に戻ってしまった。フリドエはがっかりして、このように言いながらすすり泣いた。

「おじさん、なぜこんなことをしたのですか？　なぜ、鈍感になれなどと言ったのですか？　私は二度と、あのような至福に満ちたヴィジョンを見ることはできないでしょう。」

　ラーマクリシュナは答えた。

「私は、とにかく落ち着けと言ったのだよ。お前はあんなささやかなヴィジョンで、何と大きく騒ぎ立てたことか！　だから私もあのように言わざるを得なかったのだよ。
　どんなに豊かなヴィジョンや経験を、私は四六時中得ていることか！　それでも私が、ちょっとでも騒いでいるかね？　お前にはまだ、そのようなヴィジョンを得る時期が来ていないのだ。今はまあ落ち着きなさい。時が来れば、様々なヴィジョンや経験を得ることだろう。」

　ラーマクリシュナにそう言われても、フリドエはそれを素直に聞けなかった。心はエゴイズムに支配されてしまい、師の言葉に反して、何とかしてもう一度あのようなヴィジョンを得るように努力しようと思った。
　そうしてある夜、フリドエは一人でパンチャヴァティーに行き、かつてラーマクリシュナが修行した座で瞑想しようと思い、そこに座った。するとその瞬間、フリドエは、誰かに炭火を投げつけられたように感じ、焼けるような痛みに襲われ、叫んだ。

「助けてください、おじさん！　私は焼き殺される！」

　ちょうどそこへラーマクリシュナがやってきた。ラーマクリシュナがフリドエの身体に触れると、たちまち痛みは消え去った。ラーマクリシュナは言った。

「お前はなぜこんな事をするのだ？　お前は私に仕えていさえすれば、あらゆる願いは成就すると、私は何度も言ったではないか。」

　このときからフリドエはもう二度と、パンチャヴァティーに瞑想しには行かなかった。そして、どんなことでも師の言葉に背いてはいけないのだという確信をいっそう強くした。

　こうしてフリドエはとりあえず落ち着いたが、それでも何か満たされないものを感じていた彼は、自分の実家でドゥルガー・プージャーをおこないたいと考えた。ラーマクリシュナもこれに同意し、モトゥルが金銭的援助をした。フリドエはラーマクリシュナもその期間、一緒に実家に来て欲しいと願ったが、モトゥルがそれを許さなかった。落胆しているフリドエを見て、ラーマクリシュナはこう言った。

「なぜそんなに心を痛めているのだ？　私は微細身で毎日お前の祭祀を見に行こう。」

　こうしてフリドエは実家に帰り、ラーマクリシュナの助言に従って、様々な祭祀をおこなった。そしてフリドエは、毎日の締めくくりの儀式であるアーラティのときに、そして特別重要な祭祀のときに、ラーマクリシュナの光輝く姿が神像の傍らに立っているのを見た。

　すべての祭祀が終わると間もなくフリドエはドッキネッショルに帰ってきて、一切をラーマクリシュナに報告した。ラーマクリシュナはこう言った。

「アーラティの時刻と、他の特別重要な祭祀の時刻になると、いつも私はお前の礼拝が見たくなって、恍惚状態に入った。そこで<光の道>を通り、光輝く姿でお前の礼拝室に入ったのだ。」

　そしてこの祭祀の後、フリドエは再婚し、以前と同じように、師への奉仕とドッキネッショル寺院の祭祀に専念するようになった。