「シャヴァリ」
シャヴァリは、ヴィクラマという山に住む狩人でした。毎日動物を殺してその肉を食べて生きていました。
あるとき、アヴァローキテーシュヴァラ(観自在菩薩)は、シャヴァリのような狩人に姿を変え、シャヴァリのもとへやってきました。
しかし彼は弓矢を一本しか持っていなかったので、シャヴァリが聞きました。
「お前は矢を一本しか持っていないが、たった一本の矢で、何頭の鹿を射ることができるというんだ?」
それに対してアヴァローキテーシュヴァラの化身は、
「私はこれで三百頭の鹿が殺せる」
と言いました。シャヴァリは、
「実際に見てみたいものだな!」
と叫びました。
あくる日、化身は、シャヴァリをある大平原へと連れて行きました。そこには500頭の鹿の群れがいました。シャヴァリが、「この中の何頭を殺すつもりだ?」と聞くと、化身は、「500頭全て殺すつもりだ」と答えました。それを聞いてシャヴァリは、「400頭は助けてやれ。100頭殺せば十分だ」と、皮肉を込めて言いました。
そこで化身が矢を放つと、本当に一本の矢で100頭の鹿が射られてしまいました。化身はシャヴァリに、射られた鹿を一頭運んできてくれと言いましたが、なぜか重くて、運ぶことができませんでした。ここにおいてシャヴァリのプライドは完全につぶされ、シャヴァリは化身に、「あのようにして鹿を射る方法を教えてくれませんか」と頼みました。すると化身は、「この教えを得るためには、まず一ヶ月間、肉を食べるのをやめなければならない。」と言いました。
シャヴァリは妻とともに、生き物を殺すのをやめ、果物を食べてすごしました。七日後に化身が再びやってきて、「全ての衆生への慈悲を瞑想しなさい」と指示しました。
いわれたとおりにシャヴァリが慈悲を瞑想し続けて一ヶ月たった頃、再び化身がやってきました。シャヴァリは化身に言いました。
「あなたは私に、(鹿を捕まえる方法ではなく、)鹿を逃がす方法を教えたというわけだな。」
化身はマンダラを作り出し、シャヴァリとその妻に、中を覗き込むように言いました。二人がマンダラをのぞくと、八つの熱地獄の中で、シャヴァリと妻が焼かれ苦しんでいる姿が見えました。二人は、恐怖のあまり口もきけなくなりました。
化身は言いました。
「お前達はそこへ生まれるのが怖くはないのか?」
シャヴァリは答えました。
「本当に怖いです。このような運命から我々が助かる道はあるのでしょうか?」
そこでアヴァローキテーシュヴァラの化身は、シャヴァリとその妻に教えを説きました。
シャヴァリは、12年の間、概念化を超えた大いなる慈悲について瞑想し、マハームドラーの優れた成就を得ました。そしてシャヴァリは死に、アヴァローキテーシュヴァラのもとへ行きました。
アヴァローキテーシュヴァラは、シャヴァリに言いました。
「個人的なニルヴァーナは、最高のものではない。お前は衆生のために輪廻にとどまり、想像もつかないほど多くの魂に利益をもたらしなさい。」
こうしてシャヴァリは人間界に戻り、多くの人々に教えを説きました。彼はシュリー・シャヴァリと呼ばれ、また孔雀の翼を着ていたので、「孔雀の翼を着る者」とも呼ばれ、またいつも山にいたので、「山に住む隠者」とも呼ばれました。
シャヴァリは未来仏マイトレーヤ(弥勒菩薩)がやってくるまで、この人間界で教えを説き続けるといわれています。