ラトゥの怒り
ある日、昼食の後、ラーマクリシュナは、少年ラカール(後のブラフマ―ナンダ)に、キンマ巻(インドで食後の清涼剤として噛むもの)を作って持ってくるように言いました。しかしラカールは、キンマ巻の作り方がよく分からないと答えました。ラーマクリシュナは、作り方は誰かに聞けばよいと言って行かせようとしましたが、ラカールはのろのろとしていつまでも行こうとはしませんでした。
これを見ていた少年ラトゥ(後のアドブターナンダ)は、カンカンに怒ってラカールを批判し始めました。ラトゥは少年ではありましたがダーシャ(神への召使いの態度)の見本のような者であり、非常に誠実でまっすぐな性質であり、また当時のラトゥは、間違っていると思ったものに対して真正面から強烈な糾弾を加える性質があったたため、師の指示にすぐに従わずに口答えしているラカールが許せなかったのです。
しかし、ラトゥがラカールの間違いを指摘して糾弾しても、ラカールはのらりくらりとして、「それなら君が行けばいいじゃないか」などと言ってかわしていました。ラトゥの怒りは頂点に達し、ベンガル語とヒンディー語の混じったわけのわからない言葉で喚きちらしました。
ラーマクリシュナは、面白がってこの二人の少年の口論を見ていました。そしてそこへ甥のラムラルを呼び寄せて、言いました。
「さあ、ラムラル。ラトゥとラカールのどちらが偉いバクタ(神の信者)か、言ってごらん。」
ラムラルはラーマクリシュナの意図を読み取って、言いました。
「ラカールのほうだと思います。」
これを聞いたラトゥは激情にかられ、つっかえながら叫びました。
「ああ! なんという裁決だ! ラカールは師に逆らった。なのに彼のほうが偉いバクタだとは!」
ラーマクリシュナは笑って言いました。
「お前の言うとおりだ、ラムラル。ラカールの信仰心のほうが上だ。ラカールがどんなにたやすく微笑んで話しているかをごらん。
それに引き換えラトゥのひどい怒りようといったら! 本物のバクタが主の御前で怒りを見せることができるかね? 怒りは悪魔のようだ。怒ると、愛も信仰心も羽が生えて飛んで行ってしまう。」
これを聞いて、ラトゥは恥ずかしさでいっぱいになりました。そして目に涙を浮かべつつ、師に言いました。
「私はもうあなたの前で二度と怒りません。お許しください。」