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第一章 浄化法


「ハタヨーガ・スートラ」

 さて、今まで、大乗仏教の経典「入菩提行論」や、ヨーガの聖典「バガヴァッド・ギーター」、そしてミラレーパの詩などをもとに、私なりに現代的にまとめなおしたり解説したりしてきましたが、今度はハタ・ヨーガの経典を題材にしてみましょう。
 現在ヨーガとして世界で知られているもののほとんどは、ハタ・ヨーガの亜流です。言い換えれば、ヨーガにはさまざまあり、その中で身体を基礎として入っていくヨーガをもともとハタ・ヨーガと呼ぶのです。ですからこういったハタ・ヨーガの原点的な内容を知ることは、現代的なヨーガをやる人にも少なからず利益はあるのではないかと思います。

 今回、基にさせていただくのは、ゲーランダ師という聖者が説いたとされる「ゲーランダ・サンヒター」です。しかしこれも現代にはストレートには合わない内容等も多いので、あくまでもこの内容は、ゲーランダ・サンヒターのストレートな翻訳ではなく、ゲーランダ・サンヒターを土台に、いろいろ私自身の見解も加えて組み立てたものであるとお断りしておきます。

 一応、原典とは違うので、「ハタヨーガ・スートラ」という別の仮題をつけておきましょう。

「ハタヨーガ・スートラ」

第一章 浄化法

 世にマーヤーに等しい絆はなく、ヨーガよりも優れた力はない。
 また、智慧に勝る味方はなく、エゴよりも強い敵はない。

 修習によってこそ、アルファベットを初めとする種々の学問を会得することができるように、ヨーガに熟達してこそ、完全なる真理の智慧が得られるのである。

 善いカルマと悪いカルマの結果として、衆生の身体は生じる。そして身体によってまた新たにカルマを積む。あたかも井戸のつるべ桶がこもごも上下するがごとくである。

 井戸のつるべ桶が牛の力でかわるがわる上下するように、魂はカルマの力で生と死を流転していく。

 水につかっている、焼いていない土器のように、身体は絶えず老化していく。ヨーガの火で焼くことによって、身体の浄化を行なうべし。

[七つの行法]
 ハタ・ヨーガの行法には七つある。
(1)浄化法、(2)強壮法、(3)堅忍法、(4)安定法、(5)軽快法、(6)直観法、(7)離染法。

(1)浄化は六つの行法によって得られる。
(2)強壮はアーサナによって得られる。
(3)堅忍性はムドラーによって得られる。
(4)精神の安定はプラティヤーハーラによって得られる。
(5)軽快さはプラーナーヤーマによって生じる。
(6)真我に対する直観はディヤーナから生じる。
(7)離染状態すなわち解脱は、サマーディによって現われる。

[浄化法]
 浄化のためには次の五つの行法を修習すべし。
(1)ダーウティ
(2)ネーティ
(3)ラーウリキ
(4)トラータカ
(5)カパーラバーティ

Ⅰ ダーウティ

 ダーウティには四つの仕方がある。
 これらを修習して、身体を汚れのないものとなすべし。
 それは、
(1)内臓の清掃
(2)歯の清掃
(3)胸の清掃
(4)肛門洗浄
の四つである。

(1)[内臓の清掃]
 身体の汚れを取り去るために、二種の清掃法を修習すべし。

[アグニサーラ・クリヤ]
 腹部を背骨の方へ百回引っ込めるべし。
 これがアグニサーラ・クリヤであって、ヨーギーたちにヨーガの成功をもたらす。
 この行法を修習すれば、腹部の疾患を治し、消化の火を増大する。
 この清掃法は至上の秘法であって、神々さえも手に入れがたいものなのである。
 この清掃法の修習によって、行者は確実に神々しい身体を作り上げることになる。

[ガジャ・カラニー]
 賢い行者は、空腹時に、塩を入れたぬるま湯をのどまでいっぱいにつまるほど飲むべし。
 それから飲んだ水を吐き出すべし。
 その後、塩を入れないぬるま湯で、同様のことを行なうべし。
 これを常習すると、粘液と胆汁の異和が取り除かれる。

(2)[歯の清掃]
 歯の清掃には、四つがある。

[歯根の清掃]
 カーディラの汁か清らかな泥をもって、歯の汚れが取れるまで、歯根を磨くべし。
 ヨーガに通じた人は、歯の保護のために、毎朝欠かさずにこの清掃を行なうべし。

[舌の清掃]
 次に舌の清掃の仕方を明らかにしよう。
 人差し指と中指と薬指の三指をそろえて、のどの奥に差し入れ、舌の根を摩擦すべし。
 摩擦して流れ出る粘液を吐き出すべし。
 それから新鮮なバターを塗りつけて、繰り返し摩擦すべし。

[耳の清掃]
 人差し指と薬指とを使って、左右の耳の穴を摩擦すべし。
 これを不断に繰り返していると、しまいには体内の音が聞こえるようになる。

[眉間のくぼみの清掃]
 右手の親指で、眉間のくぼみを摩擦すべし。
 この作法を続けていくならば、粘液の不調を治すことができる。
 そのほか、気道が清められ、天眼通が生じてくる。この行法は毎日、起床時、食後、夕方の三回行なうべし。

(3)[胸の清掃]
 幅約七センチの薄い布を徐々に飲み込む。三・五メートル飲み込んだら、ラーウリキを行ない、そして引き出すべし。
 この行法を継続することで、腸満、熱病、脾臓肥大、ハンセン病、喘息、気管支の病などが改善され、痰と胆の異和が消え去り、日ごとに無病、強健、四肢の軽快等の状態が現われてくる。

(4)[肛門の洗浄]
 中指でもって、丁寧に、水を使って、繰り返し繰り返し、肛門を洗浄すべし。
 この作法は便秘と消化不良を治し、美と体力を増し、消化力を強くする。

Ⅱ ネーティ

 約三十センチほどの長さの紐を鼻腔に押し入れ、そして口から出すべし。紐の両端を持って、何度もしごくべし。これがネーティと呼ばれているものである。
 ネーティの修習によって、ケーチャリ・ムドラーに成功することができる。この浄化法によって粘液質の病症がなくなり、天眼通が生じる。

Ⅲ ラーウリキ

 腹直筋を出し(ナウリ)、それを激しく左右に回転させるべし。この行法はすべての病気をなくし、体内の火を増大する。

Ⅳ トラータカ

 まばたきをせずに、ある小さな的を、涙が出るまで凝視すべし。これが賢者たちによってトラータカと呼ばれるものである。
 これを修習すると、必ずシャーンバヴィー・ムドラーに成功する。
 目の病気は消え、天眼通が現われる。

Ⅴ カパーラバーティ

 カパーラヴァーティは、
(1)ヴァータ・クラマ
(2)ヴュト・クラマ
(3)シート・クラマ
の三種の方式で行なうべし。
 この行法によって、粘液性の疾患を取り除くことができる。

[ヴァータ・クラマ方式]
 左の鼻で息を吸い、すぐに右の鼻で息を吐く。
 次に右の鼻で息を吸い、すぐに左の鼻で息を吐く。
 これを修習すると、粘液性の病気を治すことができる。

[ヴュト・クラマ方式]
 両鼻腔から水を吸い込んで、口から吐くべし。これを修習すると、粘液性の疾患を治す。

[シート・クラマ方式]
 シーッという音を立てて、口から水を吸い、それを鼻から吐くべし。
 これを修習すると、恋の神様に劣らぬほど美しくなることができる。
 その人は老衰せず、熱病におかされることもない。身体は軽快になり、粘液性の疾患はなくなる。

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