☆トンジュク
☆トンジュク
トンジュクとは「街に入る」という意味である。ここでいう街とは、傷のない他者の死体のことである。
この教えは無上ヨーガ独特のものであり、複数のタントラ経典の中に出てくる。
実際にこの法を成就した例としてはマルパが有名である。マルパは動物の死体に自分の意識を移し変えるデモンストレーションを何度も行ない、反対者までもがそれを目の当たりにしてマルパに帰依したという。
マルパはこの秘法を息子のタルマドデのみに伝えたが、タルマドデは不慮の落馬事故で死んでしまった。タルマドデは死の直前に鳩の死体に意識を移し変え、そのままインドに飛んでいって、インド人の少年の死体に意識を移し変え、彼はその後成長して聖者ティプパとして有名になった。
マルパがただ一人秘法を伝えたタルマドデがインド人に意識を移し変えてしまったので、チベットではこの法は途絶えてしまった。インドでは仏教そのものが滅びてしまったので、このトンジュクの法の秘訣は、地上から途絶えてしまったといわれている。
しかしトンジュクについての表面的な教えは、今でも伝えられている。参考までに以下にそれをご紹介しよう。
【トンジュクを成就するための条件】
この教えを成就する条件は、まず基本として、以下のようなものがある。
・正しい師から、ポワおよびトンジュクに関する正しい伝授を受けること。
・サマヤと戒を正しく遵守すること。
・生起次第をよく訓練すること。
さらにまた、自分の意識を上に引き抜くこと(ポワ)と、自分の意識を他者の死体に移し変えること(トンジュク)と、他者の死体から意識を引き抜いて自分の身体に入れるという三つの技法を行なうには、以下のようなことが自在にできるようになっていなければならない。
・九つの門に文字を観想し、プラーナの動きを制止させられること。
・壺の呼吸法によって、プラーナを中央気道に入れることができること。
・チャンダーリーの火の修行によって、微細なプラーナに乗った心臓のフーム字を動かすことができること。
【なぜトンジュクを行なうのか】
たとえば以下のような条件の場合に、トンジュクを行なう。
・低い身分などの条件によって大きな利他行ができない場合、高い身分の者の死体に意識を移し変える。
・自分の身体に病気が生じ、利他行ができなくなった場合、健康なまま(ショック死などによって)死んだ者の死体に意識を移し変える。
・老齢によって利他行ができなくなった場合、若くして死んだ者の死体に意識を移し変える。
【トンジュクの方法】
1.訓練
プラーナと心の二つを自在に操れるようになり、この世で利他行を成就することを願い、衆生に対して無量の慈悲を持つ者こそが、このトンジュクを行なうべきである。
非常に静かな場所で独居にこもり、あらゆる活動の散乱を捨ててとどまる。イダムや仏陀をあらわす絵や仏像を並べ、供物を並べる。
マンダラを置き、その中央に頭蓋骨を置き、その底に石によってフーム字を描く。
自分をイダムとして明らかに観想して、七つの供養を行なう。
自分の心臓にフーム字をハッキリと観想して、右鼻から息を吸い、その吸い込んだプラーナが心臓のフーム字と合一し、左鼻から息を吐くとともに、そのフーム字が左鼻から体外に出て、頭蓋骨のフーム字に溶け込むと観想する。そして息を吐き切ったまま、できるだけ息を止める。
苦しくなったら再び同じことを繰り返す。
そのように繰り返し訓練することによって、それが成就した兆しとしては、頭蓋骨が実際に動いたり、自分の頭頂にかゆみや盛り上がりなどが生じる。
2.試験
ここまでできたら次に、傷がなく、伝染病や腫瘍などで死んだのではない、死んだばかりのきれいな人間や動物の死体を探し、きれいな水で洗い、心地よい飾りをつけて、マンダラの上に蓮華座を組んで座らせるか、または他の良い姿勢で置く。
次に自分と死体の双方の心臓にフーム字を観想し、息を吐くとともに自分の心臓のフーム字を右鼻から外に出し、死体の左鼻から入って死体の心臓のフーム字に溶け込むと観想する。
そのようにたびたび繰り返したことによって、死体に呼吸が生じたり、生き物のにおいが生じたりしてきたならば、うまくいっている証拠となる。
3.実践
実際に意識を移行させたい新しい死体を探し、マンダラの上に置く。自分をイダムとして明らかに観想し、普通の身体であるという思いを捨てる。そして万物を幻のようであると観想し、普通の分別の習気を捨てる。そしてグルと神々に供物をささげ、障害を取り除いてくださるように祈願をする。
次に自分と死体の双方の心臓にフーム字を観想する。
自分の心臓のフーム字に、自分の心とプラーナが溶け込んでいると観想し、息を吐くとともに自分の心臓のフーム字が右鼻から出て、死体の左鼻から入ると観想する。そして息を吐いたままで、できるだけ息を止める。
そのように繰り返し、実際にトンジュクが成功すると、意識はその死体の方に移り、呼吸が始まる。そうしたら助手に適切な食物などを与えてもらう。
こうして得た新しい身体を使って、衆生に広大な利益を与える。
◎終わりに:六ヨーガの目的
これらの六ヨーガの修行によって、まずは不完全な光明と幻身を獲得し、そこからさらに修行を進めて迷妄の習気を浄化していくことで、究極の法身を悟り得て、幻身は完全な双入の幻身となり、輪廻が続く限り、衆生のために、その究極の法身と完全な幻身に住することができる。
そしてそのような完全な双入の幻身から最高の変化身を無数にあらわし、衆生のためにさまざまな世界で働くことができるのである。
-
前の記事
☆上に引き抜くこと(ポワ) -
次の記事
◎ヴァジュラダラ