要約・ラーマクリシュナの生涯(21)「ラーマクリシュナの聖地巡礼と、フリドエのヴィジョン」③
◎ヴリンダーヴァンにて
しばらくカーシーに滞在した後、一行はヴリンダーヴァンに行き、ニドゥの森の近くの一軒家に滞在した。ラーマクリシュナはニドゥの森の他にラーダークンダやシャーマクンダやゴーヴァルダナを訪れ、ゴーヴァルダナでは恍惚状態で丘の頂上に登った。
バンカビハーリのクリシュナ像を見たラーマクリシュナは、狂喜に満たされて、像を抱きしめるためにかけだした。
牛を引き連れた牧童たちが牧草地からヤムナー河を渡って帰るのを目にした夕べには、そこにクリシュナの姿を見た。
ヴラジャでは、小さな一人用の藁葺き小屋に、ヴィシュヌ派の僧侶が、外の人や物が見えないように戸口に背中を向けて座り、ジャパや瞑想に没頭している光景が数多く見られた。
このヴラジャにてラーマクリシュナは、女性の聖者であるガンガーマーターと出会った。
ガンガーマーターは当時60歳であった。人々は彼女を、ラーダーの親友で、神聖な愛を教えるために地上に降りてきたラリタであるとみなしていた。ガンガーマーターは初対面で、ラーダーと同じマハーバーヴァのあらわれをラーマクリシュナの中に見た。彼女はラーマクリシュナをラーダーの化身であると見て、「ドゥラーリ(愛する友)」と呼ぶようになった。
ガンガーマーターは、ラーマクリシュナに会えたことによって、一生をかけた主への奉仕と愛が報われたと感じた。ラーマクリシュナもまた、ガンガーマーターが長年の親しい友のように思え、他のことを忘れて彼女の庵に数日間滞在した。この二人はお互いの信仰に非常に強く惹かれ合っていたので、フリドエは、このままラーマクリシュナはドッキネッショルに帰らないのではないかと心配した。ラーマクリシュナ自身も一度はここに住み着こうと考えたが、当時ドッキネッショルのナハバト(音楽堂)に暮らしていた年老いた母の事を思いだし、結局、ヴラジャを去ることを決めた。
このときのことを後にラーマクリシュナはこう語っている。
「人は聖地では確かに霊的な刺激を受ける。私はモトゥル・バブと一緒にヴリンダーヴァンに行った。フリドエと、モトゥル・バブの家の女の人達も一行の中にいた。カーリヤダマン・ガート(クリシュナが毒蛇カーリヤを退治した場所)を見るや否や、あのお方に対する気持ちが燃え上がって――私はもう正気がなくなったようになってね! フリドエがそこで、まるで小さな子供の面倒をみるようにして私を沐浴させてくれたっけ。
ヤムナーの岸辺を、日暮れに散歩に行ったものだ。ヤムナーの砂地づたいに――その時分になると、牛の群れが牧場からみんな帰ってきた。それを見ただけで、私のクリシュナに対する情熱が心に燃え上がるのだった。私は、『クリシュナはどこか。どこに私のクリシュナはいるのか』と叫びながら、キチガイみたいに走り回った。
私は駕籠に乗ってシャーマクンダとラーダークンダに行き、ゴーヴァルダナ山を訪れるために駕籠から降りたが、その山を見ただけで神聖な感動に圧倒され、頂上まで駈けのぼった。私は外界の意識を完全になくしてしまってね。そのとき、土地の人達が来て、助け降ろしてくれた。シャーマクンダとラーダークンダの途中のあの牧場、木々、鹿などを見ると、自分でもどうしようもないほど気持ちが高ぶってしまうのだよ。目からあふれる涙で、私の衣服は濡れてしまった。私は、心の中でクリシュナに訴え続けた。『みんな昔のままなのに、あなただけがいらっしゃらない』駕籠の中に座って、口をきく力もすっかり失ってしまった。フリドエが駕籠に付き添っていたが、彼は担いでいる連中に言ってきかせていた――”よく気をつけて歩いてくれ”
ヴリンダーヴァンでは、ガンガマーイー(ガンガーマーター)が私をたいそう好きになった。彼女は、ニドゥヴァン(クリシュナが子供の時にゴーピー達と遊んだ森)の近くの小屋にたった一人で住んでいた。相当な年寄りだったな。私の様子と前サマーディ状態を見ては、『彼はまさにラーダーの化身だ』と言っていた。私を『ドゥラーリ』と呼んだ。彼女と一緒にいると、私はいつも食べることも、住まいに帰ることも、みんな忘れてしまった。あるときは、フリドエが毎日、家から食物を持ってきて食べさせた。あの人もまた、自分で食物を作っては食べさせてくれた。
ガンガマーイーもよく霊的気分を経験した。そのようなときには、その様子を見に大勢の人々が集まってきた。ある日、前サマーディの状態でフリドエの背に登った。
私は彼女を残してカルカッタへ戻ろうという気持ちはなかった。あれこれみんな泊まる用意をして、私は煮た米を食べることにして――。ガンガマーイーの寝床は部屋のあっちの端に置いて、私の寝床はこっちに置くことにして。すっかり手はずを整えた。フリドエが、『あなたはそんなに胃が弱いのに、誰が面倒をみるんですか?』と言った。ガンガマーイーは、『まあ、そんなこと、この私がみますとも。私が何でもお世話しますよ』と言った。フリドエが、『よろしくお願いします』と頼み、ガンガマーイーも、『こちらこそ、よろしく』と言った。――ちょうどそのとき、母のことを思い出してしまった! ドッキネッショルのカーリー神殿のナハバトに一人で住んでいる母のことを。さあ、私は彼女から離れて暮らすことはできないと知り、ガンガマーイーに、『いや、私は行かなければなりません』と言った。
ヴリンダーヴァンは良いところだよ。新しい旅行者が来るとヴラジャの子供たちが、”ハリが言った(ハリボロ)、荷物を降ろせ(ガトリーコロ)”とはやし立てるんだよ。」
またラーマクリシュナはカーシーでバイラヴィー・ブラーフマニーと再会し、彼女も一緒にヴリンダーヴァンについてきた。ラーマクリシュナは彼女にヴリンダーヴァンに定住することを勧めた。そしてラーマクリシュナがヴリンダーヴァンを去って間もなく、彼女はそこで亡くなった。