至高者の祝福(6)「クリシュナのリーラー」
第二章
第1話 クリシュナのリーラー
聖シュカは言いました。
「繁栄する家を捨てて出家したヴィドラが、聖マイトレーヤに質問したことも、今あなたがなされた質問と同じでした。」
パリークシット王は言いました。
「敬虔なる聖マイトレーヤとヴィドラの会見は、どのようなものだったのでしょうか? どうかそれについて教えてください。
純粋な心を持つヴィドラが、気高き聖マイトレーヤに尋ねた質問は、尋常ならざる境地のその聖者が答えたからには、些細なことであるはずがありません。」
パリークシット王にこう懇願されると、聖シュカは大いに喜んで、言いました。
「王よ、さあ、聞いてください。
クルクシェートラの大戦争が終わった後、各地を旅していたヴィドラは、ヤムナー川のほとりで、クリシュナの偉大な献身者であるウッダヴァに、偶然会ったのでした。
聖仙ブリハスパティのかつての弟子であり、完全な心の平安を得たこの名高きクリシュナの従者を、ヴィドラは愛を込めて抱きしめました。そしてクリシュナとその親族であるヤーダヴァ族が、今どうしているかと尋ねました。
偉大な主の献身者であるウッダヴァは、愛するクリシュナについて聞かれると、クリシュナのことを思い出して感動に圧倒されてしまい、ひとことも返事ができませんでした。
子供のころから主を崇拝し、白髪となるまで主に仕え続け、今も主の御足を思い出し続ける彼は、クリシュナの名を聞いただけで、クリシュナの御足から滴る甘露に没入して、バクティの歓喜に満たされ、一時間近くも黙ったままでした。彼の身体の毛はすべて逆立ち、閉じた眼からは涙が流れ落ちました。
ウッダヴァが主への愛の思いに圧倒されているのを見たヴィドラは、彼がもはや人生の目的を達成したことを知りました。
歓喜の世界から通常意識にゆっくりと戻ると、ウッダヴァは両手で涙をぬぐい、感嘆の思いを込めて、ヴィドラにこう答えたのです。
『輝きを放っていた私たちの家は、クリシュナという太陽が沈んでしまった今、「時」という大蛇に飲み込まれてしまったのです。それゆえ私たちが元気かなどと聞いても、もはや何の意味もないでしょう。
水に住む魚が月を認められぬように、ヤドゥの一族とこの全世界は、主であるクリシュナと暮らしながらも、その主を認めることができなかったのです。
ヤーダヴァ族は優れた知性の持ち主であり、主と同じ場所で暮らして、ともに楽しく遊んだものでした。けれども彼らは、全生類の住処である主を、ただヤーダヴァ族の最高者と呼んだだけだったのです。
主は苦行をなさぬ者にさえ神聖なお姿を見せてくださり、人々がまだ見飽きぬにも関わらず、今やその姿を隠してしまわれ、彼らから視力を奪われたのです。
主が取られたお姿は、外観は全く普通の人のようであり、リーラー(神の遊戯)をなすためにはまことに相応しきものでした。優雅さの極致であったそのお姿は驚嘆すべきもので、その魅力は身の飾りさえより美しくするのでした。
愛に満ちた主の微笑み、そして主の語られた冗談、戯れるようなまなざし、それらを光栄に思ったヴラジャの乙女たちは、家の仕事すべてを放り出して、眼や心で主の後を追いかけ、銅像のように立ち尽くしたのでした。
物質界とプラクリティの主宰者である主は、主の激しい現われに苦しめられる、主の穏やかな現われに哀れみを抱かれて、自らは不生不滅なるものの、この物質界に降誕されたのです。
眉を少し動かすだけで、主は地球の重荷をすべて除かれたのでした。そのことを思い出すなら、主の御足の塵を味わったものならば、どうしてその香りを忘れることができるでしょう?
主は三界すべてに君臨されて、誰とも比較などできず、また誰にも凌駕されません。そして至福に満ちたご自身の本質によって、すべてを満たされているのです。
主は、この地球に安心をもたらすため、ヴァスデーヴァとデーヴァキーのもとに降誕されました。
その後、カンサを恐れた父ヴァスデーヴァの手により、主はナンダの住むヴラジャへと連れ出され、その地でバララーマとともに、十一年もの間、自らの栄光を隠しながら暮らされたのです。
ヤムナーの岸辺に広がる、鳥たちが歌う森の中で、牛飼いの子らとともに牛を放牧させながら、主は楽しく遊んですごされたのでした。
あるときは泣きまねをして、あるときは笑い、またあるときは無邪気に見つめながら、主は子供としての自分の姿を見せて、ヴラジャの人々を喜ばせたのでした。
少し大きくなられると主は、光輝の体現である白い雄牛や乳牛を放牧するようになられました。そして美しく横笛を吹きながら、牛飼いの子らを楽しませたのです。
そしてその間にも、カンサが送ってよこした悪魔たちを、まるでおもちゃを壊す子供のように、ただ遊戯のようにして始末されたのです。
夕暮れを秋の月光で明るく輝かせながら、主はまことに美しき声で歌われ、ともにすごして慈悲を示しながら、若い乙女たちの間で楽しまれたのでした。
主はその後、兄バララーマとともに、生まれ故郷のマトゥラーに戻られました。そしてカンサを殺害し、その死体を大地に引き回されたのです。
また主はヴェーダとその補助学を、サンディーパニ師からただ一度教えられただけで習得され、そのお礼に、亡くなった彼の息子を、悪魔パンチャジャナの腹を裂いて取り戻し、師のもとに返されたのでした。
ラクシュミーのように美しきルクミニーに心ひかれた主は、彼女が自分との結婚を望んでいるのを知られると、他の王子たちをやすやすと踏みつけて、彼女を奪い去られたのです。
王女サティヤーの夫選びに集まった求婚者の前では、主は鼻に綱を通されぬ七頭の雄牛を同時に飼いならすことで、彼女と結婚されました。他の王子たちは自尊心を踏みにじられ、武器を手に戦わんとしましたが、主はかすり傷一つ追うことなく、神の武器によって彼らを始末されたのです。
大地の女神の息子である悪魔ナラカは、その巨大な身体で空をも呑まんとするほどでした。けれどもそんな彼を、主は円盤スダルシャナにて殺されたのです。しかし彼の死後、主はその国を彼の息子に与えられました。それを見た大地の女神は、主の慈悲に感謝して、王宮に入られた主に祈りをささげたのでした。
ナラカが誘拐して捕らえていた一万六千人あまりの王女たちは、苦しむ者の味方・クリシュナを一目見るや、直ちに立ち上がって、喜びと恥じらいと愛を表現し、主を夫として受け入れたのです。
主はすばらしきヨーガの力を用いて、これら王女と同じ数の分身を出し、それぞれが暮らす王宮にて、全く同時に、彼女たちの手を取られたのです。
またリーラー(神の遊戯)を広げんがため、主は彼女たちとの間に、それぞれ十人ずつの息子を作られました。
またクルクシェートラの戦いではパーンドゥの息子たちに味方して、軍隊で大地を揺らせ、すべての王を、主はこの世から滅ぼされたのでした。
主はその後、ユディシュティラを王座に座らせて、親しき者たちにはダルマの道を示して、彼らに喜びを与えられたのです。そしてユディシュティラ王は心からクリシュナに帰依して、弟たちの協力の下、地球を保護し、幸福な日々を送ったのでした。』
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