聖者の生涯「ヴィヴェーカーナンダ」(1)
ナレーンドラ(後のヴィヴェーカーナンダ)の家系は、カルカッタの古い王族の一つでした。
ナレーンドラの祖父のドゥルガーチャランは弁護士で、莫大な遺産を相続し、妻と息子にも恵まれていましたが、あるとき、すべてを捨てて出家しました。
その後のあるとき、ドゥルガーチャランに執着していた妻は、ドゥルガーチャランを探しに、2、3歳になる息子を連れて、ヴァーラーナシーを訪れました。ヴァーラーナシーに着くと彼女は、毎日ヴィシュワナート寺院を訪ね、祈りを捧げました。ある雨の日、道路が滑って、彼女は寺院の前で転びました。するとちょうどそばを通りかかった僧がそれに気づき、駆け寄り、丁寧に起こすと、怪我がないか調べてくれました。そして二人の目が合ったとき、ドゥルガーチャランと妻は、お互いに気づいたのでした。一切を放棄したドゥルガーチャランは、直ちにその場を立ち去り、二度と振り向くことはありませんでした。
このドゥルガーチャランが残した息子であるヴィシュワナートは、成長すると、カルカッタ最高裁判所の弁護士になりました。かなりの収入があったにもかかわらず、父譲りの性格で、友人や困った人に対して大変寛大で、自分のために貯蓄や節約をすることはできませんでした。援助に値するかどうかを検討することなく、誰に対しても手を差し伸べました。
その中には、怠惰で無益な生活を送っている者や、ドラッグや酒に溺れている者もいましたが、ヴィシュワナートは誰に対しても平等に援助の手を差し伸べていました。
後にナレーンドラが成長したころ、こうした役立たずに金銭的援助をして養っている父を非難したことがありました。それに対してヴィシュワナートは答えました。
「人生に降りかかる災難が、今のお前にどうして理解できようか? 彼らの苦しみの深さを感じたら、酒に頼って一瞬でも悲しみを忘れようとする不幸な人たちに同情することだろう。」
ナレーンドラの多芸多才な能力は、子供時代から、様々な分野で発揮されました。ナレーンドラの記憶力は超人的で、たった一度聞けば、どんな本でも記憶でき、決して忘れませんでした。
そのため、彼の勉強の仕方は一風変わっていました。彼は家庭教師を雇っていましたが、家庭教師が来るとナレーンドラは、静かに座るか、または横たわりました。家庭教師はその日勉強すべき箇所について一通り講義すると、そのまま帰っていきました。それだけでナレーンドラは、家庭教師が講義したすべてを暗記し、理解したのでした。
また、ナレーンドラは日々自分の好きな本を読み、試験の直前になって、集中的に試験勉強をしました。あるときナレーンドラは、試験の2、3日前になって、幾何学についてほとんどわからないことにきづきました。そこでナレーンドラは集中して徹夜で勉強し、24時間で幾何学の本四冊を習得したのでした。
また、父親の影響で、貧者への哀れみの心は、ナレーンドラにも深く染み付いていました。小さなころから、乞食に乞われると、母親に無断で、母親の着物や家庭用品などを乞食に与えてしまうのでした。これにきづいた母親はナレーンドラを叱って、乞食から品物を買い戻しました。
これが何度も続いたので、ある日母親は彼を二階の部屋に閉じ込めました。それでも、通りで乞食が大声で施しを求めだすと、ナレーンドラは、母親の高価な着物を、窓から乞食に投げ与えたのでした。
ナレーンドラの母のブヴァネーシュワリーは、ナレーンドラの生来の美徳を発達させる役割を果たしました。ある日、彼が学校で不当に扱われていると母に語ったとき、彼女はナレーンドラに言いました。
「ねえ、かまわないじゃないの? 自分が正しいと思ったら。結果など気にしないで、いつも正しいことに従いなさい。真実を守るためには、しばしば、不正とか嫌な結果に苦しまねばならないでしょう。けれども、いかなる境遇にあっても、真実を忘れてはなりません。」
つづく
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