yoga school kailas

聖なる声を聴く

アマルナートとクシール・バヴァーニー寺院でスワミ・ヴィヴェーカーナンダが体験したこと
聖なる声を聞く
亡霊と霊魂の存在

【場所:ベルル、僧院の前身となる借り家のマト 年:一八九八年二月】

 スワミジはカシミールから帰ってきて二、三日たっても、体調があまり思わしくなかった。弟子がマトに出掛けていった折、スワミ・ブラフマーナンダは言った。

「カシミールから戻られてから、スワミジは、誰にも話しかけず、一カ所に座り続けて、黙って考え込んでいる。彼のところに行って話しかけ、少しでもいいから気持ちを現実の世界に引き戻してみてくれないか。」

 弟子が、二階のスワミジの部屋に上がっていくと、スワミジは、座って深い瞑想をしておられるようだった。顔には笑みがなく、彼の輝く目は外のものを見ず、内面を見つめているようだった。弟子を見て彼は次の言葉だけを言った。

「息子よ、来たのか。座りなさい。」

 そして沈黙が続いた。弟子は、彼の左目の奥が赤いことに気づいたので尋ねた。

「目が赤いのは、どうされたのですか?」

「なんでもない。」

 スワミジはそう答え、また黙り込んでしまった。スワミジが長い間何も話さないので、弟子は少し困惑しつつ彼の御足に触れながら言った。

「よろしければ、アマルナートであったことを話していただけませんか。」

 弟子が御足に触れたためか、張りつめた雰囲気が少し和んで、彼の意識が少し外側に向いてきたようだった。彼は言った。

「アマルナートを訪問したとき、シヴァが自分の頭に二十四時間ずっと座っていて、降りてこない感じがしたのだ。」

 弟子は、言葉を失ってじっと聞いていた。

 スワミジ「私はアマルナートとクシール・バヴァーニーの寺院で、宗教的に非常に厳格な修行をした。
 アマルナートに行く途中、とても険しい山の斜面を登った。普通の巡礼者はこの道を通らないが、この道を通らなければいけない気がしたので、そうすることにした。何とか登ったが、体は非常にきつかった。寒さが身にしみて、針が刺さるような感じがした。」

 弟子「アマルナートの像を参拝するときには、昔から皆、裸で行くと聞いたことがありますが、そうなのですか。」

 スワミジ「そうだ。腰布一つを身に付け、聖なる灰を体に塗って洞窟に入って行ったが、そのときは、寒い暑いといったことは感じなかった。けれども、その寺院から出ると、寒さで体の感覚がなくなってしまった。」

 弟子「聖なるハトをご覧になりましたか。その極寒の地では、生き物の姿を見ることはほとんどできないようで、唯一、時折目にするのは、どこからか飛んでくるハトだけだと聞いたことがあります。」

 スワミジ「その通りだ。洞窟に住んでいるのか、近くの丘陵地帯に住んでいるのか確認できなかったが、三、四羽の白いハトを見た。」

 弟子「師よ、寺院から出てくるときにハトを見るということは、シヴァ神に会う機会に恵まれた証拠であるという話を聞いたことがあります。」

 スワミジ「わたしは、ハトを見るとどんな願望でも実現するという話を聞いたことがある。」

 その後、スワミジは話しを続けた。スワミジは、巡礼者たちと同じ道を辿ってシュリーナガルへ帰り、それから数日後、こんどはクシール・バヴァーニー女神を訪れた。そこには七日間滞在して、女神を礼拝し、クシール(牛乳を煮詰めた菓子)を供えてホーマを行なった。毎日、一山のクシールをお供えして女神を礼拝していた。ある日礼拝しているときに、ある考えが浮かんだ。

「母なる神バヴァーニーは、太古の昔からこの地に お姿を現わされていた。あるとき、イスラム教徒がやって来て、この女神の寺院を壊していった。しかし、この地の人々は、一切、彼女を守ろうとはしなかった。何ということだ。私がその頃生きていたら、黙って我慢することはとても出来なかっただろう。」

 この耐え難い出来事を思い浮かべながら、悲しみと苦痛で胸を痛めていたとき、母なる神のお声をはっきり聞いた。

「イスラム教徒がこの寺院を破壊することは私自身が望んだのですよ。私は、壊された寺院で生活したいのです。もし私が望めば、今すぐにでも七階建ての黄金の寺院をここに建てることだって造作もないことです。あなたに何ができるというのですか? 私があなたを守ってあげているのですか? それともあなたが私を守ってくれているというのですか?」

 スワミジは言った。

「この神聖なお言葉を聞いてから、二度と計画のことを考えるのをやめた。マトを建てようなどといった考えはあきらめた。母なる神のご意志の通りになるだろう。」

 弟子は、言葉もないほど驚嘆しながらも考え始めた。スワミジは、いつか私に、見たり聞いたりするあらゆることは内なる真我の反映であって、自分の外にあるものではないと話していたではないか。そして恐れずに、このことを話してみた。

「師は私に、聖なる声は自分の内側の考えと感情の反映であるとよくおっしゃっていらっしゃましたよね?」

 スワミジは、厳粛に言った。

「内からの声であろうと外からの声であろうと、私が聞いたのと同じように、おまえが自分のその耳で実際に神の声を聞いたら、それを否定したり、なかったことにしたりできるだろうか。聖なる声は本当に聞こえたのだよ。今、私たちが話しているように。」

 弟子は、疑う余地なく納得した。スワミジの言葉は、いつも人を心から納得させるものだったからである。

 その後、弟子は、死者の霊に関する話を始めた。

「師よ、亡霊や死者の霊について、シャーストラの中でもしっかりと認めているようですが、事実なのですか? それとも誤りなのですか?」

 スワミジ「事実だ。見えないものは、すべて真実ではないと思うか? おまえが見ることができない遙か彼方においても、数百万の宇宙が転回しているのだ。見ることができないからと言って、存在しないということになるのか? しかし、亡霊や霊魂といったことに気をとられる必要はない。これらのことに対しては、無関心でいるような心構えでいるべきだ。おまえがすべきことは、この肉体の中の真我を知ることである。真我を悟れば、亡霊や霊魂は、すべておまえの思うままになる。」

 弟子「しかし師よ、それらを見ることができれば、死後の世界が明確になり、疑問を払拭することになると思います。」

 スワミジ「おまえたちは英雄なのだよ。そんなおまえたちまで、亡霊や霊魂を見ることで死後の生活に対する信心を強める必要があるというのか? おまえは多くの科学や宗教の文献を読み、無限の宇宙に関するたくさんの神秘を理解してきた。にもかかわらず、亡霊や霊魂を見ることで、真我の智慧を身につけなければならないとは。なんということだ。」

 弟子「それでは師よ、亡霊や霊魂を見たことがありますか?」

 スワミジは、ある人が亡くなり、亡霊として自分のところによく現れたことを話した。時々、その亡霊は、遠方の出来事についての情報を教えてくれた。しかし、確認してみると、中には誤った情報もあった。その後スワミジは、ある巡礼地で、「どうかその人が解放されるように」と心で祈った。それ以来、彼は二度と姿を見せなくなった。弟子は、亡くなった人の供養の儀式や葬儀が死者の霊魂を何らかの理由で鎮めることができるかとスワミジに質問した。
 スワミジはこう答えた。

「いつか、その題材について、詳細に説明してやろう。それらの儀式が死者の魂を鎮めることができるということを証明するための反論の余地のない論拠があるのだ。だが、今日は気分がすぐれない。だから、また日を改めてそれをおまえに説明してあげよう。」

 しかし、弟子がその解答をスワミジから得る日は、ついに来なかったのだった。

(「ヴィヴェーカーナンダとの対話」より)

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