マハームドラー・ヨーガ(1)「一般的な瞑想のシステムについての簡潔な説明」
マハームドラー・ヨーガ
――心と瞑想の真髄
※このシリーズは、マハームドラーを中心とした瞑想のテキストをもとにしていますが、翻訳にあたっては私の独断で随時アレンジを加えていますのでご了承ください。
第一部 一般的な瞑想のシステムについての簡潔な解明
第一章 一般的な寂静(シャマタ)と正観(ヴィパシャナー)の瞑想
このセクションは、七つのパートで構成される。
1.寂静と正観の因
2.寂静と正観の障害の除去
3.寂静と正観の真の性質の識別
4.寂静と正観の区別
5.寂静と正観のステージ
6.寂静と正観の合一の瞑想
7.寂静と正観の果報
1.寂静と正観の因
サンディニルモーチャナ・スートラには、こう説かれている。
「マイトレーヤは言った。
『勝者よ、寂静と正観の原因とは何ですか?』
ブッダはこうお答えになった。
『マイトレーヤよ、寂静は、純粋な戒律の遵守から生じる。
正観は、教えを学ぶことと、思索することから生じるのである。』」
ガンポパ尊者は、こうおっしゃった。
「寂静と正観は、
グルの精神的な祝福、
良い原因と条件の相互作用、
そして、徳の増大と煩悩の浄化などから生じるのである。」
また、バーヴァナークラマには、寂静の六つの原因が、次のように列挙されている。
①調和の取れた環境
②少欲
③知足
④活動を少なくすること
⑤戒律の遵守
⑥とりとめのない想いの排除
正観は、次の三つの要因から生ずる。
①聖者に親しみ近づくこと
②正しい教えの学習
③正しい思索
「調和の取れた環境」とは、全く苦労なく生活に必要なものが得られ、敵や野生動物などの害がない場所に住むことである。
また、病に侵されず、昼間に混雑せず、夜は静かで、そして同じ系統の修行の道に励み、同じ系統の真理の見解を共有する善き友のいる環境である。
スートラーランカーラには、こう説かれている。
「賢者が悟りを探求する環境は、
適切な食物が得られ、
住まいは安全で、心地よい土地であり、
友は善く、
ヨーギーが好ましい条件を見つけることができる場所である。」
「少欲」とは、食物や衣服の質や量への世俗的な執着を抱かないということである。
「知足」とは、質素な食物や衣服で満足することである。
「活動を少なくすること」とは、商業、在家の人々と出家修行者の関係性の密接化、医療活動、占星術などのような、瞑想修行に有害な行為を慎むことである。
「戒律の遵守」とは、プラーティモークシャや、菩薩の教えに述べられた教えの基礎を守ることであり、教えに反する自己統制をせず、もし過ちがあったならば懺悔をし、改善することである。
「とりとめのない想いの排除」とは、今生や来世のために有害な因果関係を自覚することである。それは、まずはすぐに離れられるものから、事物の美しさや醜さの非永続性を瞑想することを通じて、煩悩を排除するということである。
「聖者に親しみ近づくこと」とは、教えを学ぶこと、考えること、瞑想することの重要性を的確に知っており、寂静と正観を自分自身で悟っている霊的指導者に従うことである。
「正しい教えの学習」とは、欠点なき至高の意味の真理の経典の講演を聞くことであり、正しい識別智を開発することである。便宜的・限定的な真理の教えを聞くことによってだけでは、これに到達できない。
「正しい思索」とは、講演された至高の意味の真理を思索することであり、真理の完全な見解を悟るために、まずは推論を利用することである。