プラヘーヴァジュラ
プラヘーヴァジュラは、人間の姿をとって地上に現われた、最初のゾクチェンの師です。
プラヘーヴァジュラは、ウッディヤーナという地の王女の息子でした。それは一部の学者の説によると、現代のパキスタンのスワット谷の辺りであるとも言われています。
ウッディヤーナは、高度な仏教の教えやタントラの教えの、最も重要な源でした。そしてそこはエネルギーに満ちたダーキニーの地であり、また宝石と森と野生動物に満ちた場所でした。そこには、6108の小さな寺院に囲まれた、「喜びの塚」と呼ばれるすばらしい寺院もありました。すべては大きな繁栄の中にありました。
そこからほど近いところにある砂に覆われた島で、ウッディヤーナのウパラージャ王とアーローカバースヴァティ王妃の娘であるスダルマーという名の尼僧は、スカサーラヴァティという名の従者の女性とともに、粗末な草の小屋で、瞑想修行に没頭していました。
ある晩、彼女は不思議な夢を見ました。
夢の中で、白い顔をしたけがれのない男がやってきて、五つの仏陀の種字で飾られた水晶の壷を、彼女の頭に三度置きました。その壷は光のビームを発散し、彼女ははっきりと三つの言葉を見ました。
そしてその夢を見た十ヶ月後、多くの吉兆の印で飾られた息子が、彼女から生まれたのでした。
この子供は、ゾクチェンを伝達するために色界に現われたヴァジュラサットヴァの化身であるアディチッタの生まれ変わりでした。
子供が生まれたとき、スダルマーはおびえ、また恥じていました。
「父親がいないのに生まれてきたこの子は、悪魔以外の何物でもない!」
彼女はこう叫ぶと、その子を灰の中に投げ捨てました。
しかし賢い従者であるスカサーラヴァティは、この子は解脱した魂の化身であると、スダルマーに忠告しました。
するとその瞬間、不思議な音が聞こえ、光線が現われました。
三日後、スダルマーが灰の中から息子を抱き上げると、三日間灰の中に放置されていたにも関わらず、その子は元気で、傷一つありませんでした。彼女は、スカサーラヴァティが言ったように、この子は解脱者の化身であると理解し、その子を家に連れて帰りました。そして彼の体を白いシルクの布で包み、また沐浴させました。
そのとき、ダーキニーたちと聖者たちは、その赤ちゃんに、供物と賛嘆を雨のように降らせました。
そして神々が、空からこのように宣言しました。
おお、守護者よ、師よ、祝福された者よ、
世界の主よ、真理の本質を明らかにする者よ、
われわれの強力な守護者であってください。
空のヴァジュラよ、われわれはあなたに祈りをささげます。
その子が七歳になったころには、すでに智慧のエネルギーで満たされていました。彼は母に、学者たちと教義の議論をすることを許すようにと言いました。母から許可を得ると、彼はウパラージャ王のもとへ行き、学者と会うことを願い出ました。
こうして彼は500人の学者と議論をしましたが、誰もその少年に勝つことはできませんでした。
学者たちは彼を解脱者の化身と認め、最高の敬意の表現として、頭を彼の足につけて礼拝しました。そして彼にプラジュニャーバヴァ(智慧の本性)という名前を与えました。
また、王は大変喜び、プラヘーヴァジュラ(至高なる喜びのヴァジュラ)という名前を与えました。
また彼は、一度灰の中に捨てられた後、無傷でまた拾われたので、ヴェーターラスカ(ゾンビの至福)とも呼ばれていました。
その後、プラヘーヴァジュラは、北方のスーリヤプラカーシャ山の絶壁の上に作られた草の小屋で、32歳になるまで、瞑想に没頭しました。そしてヴァジュラサットヴァからイニシエーションと教えを授けられ、またゾクチェンのタントラをゆだねられました。
こうしてプラヘーヴァジュラは、もはやどんな修行の必要もないブッダフッドの境地に達したのでした。そのとき地面は七回振動し、空からはさまざまな音が聞こえ、そして花の雨が降りました。
それらの勝利の音が響き渡ったとき、ある外道の王は、プラヘーヴァジュラを抹殺するために暗殺者を送りました。
しかしプラヘーヴァジュラの身体は太陽光線のように実体がなかったので、暗殺者たちは彼を傷つけることはできませんでした。そしてプラヘーヴァジュラは空中に浮かび上がりました。
それを見てその外道の王は信を生じさせ、仏教徒になりました。
32歳になると、プラヘーヴァジュラはマラヤ山に行きました。彼はその山に三年間とどまり、ヴァジュラダートゥとアナンタグナーのダーキニーたちの助けを借りて、過去の仏陀たちの教えと、640万の詩からなるゾクチェンの教えを書き記しました。そして聖典を供養する儀式のために、ダーキニー・サムデンを召還しました。
次にプラヘーヴァジュラは、偉大なストゥーパがあるシータヴァナの火葬場に行き、そこでダーキニー・スーリヤキラナーを含む多くの弟子たちに教えました。
またこの期間に、マンジュシュリー菩薩の予言的なアドヴァイスに従ってマンジュシュリーミトラがやってきて、75年かけて、ニンティクの教えをプラヘーヴァジュラから受け取りました。
またシュリーシンハもやってきて、プラヘーヴァジュラからカンドゥ・ニンティクと他の教えを受け取りました。
そしてシュリーシンハはその後、その教えをパドマサンバヴァとヴァイローチャナに伝えました。
最期にプラヘーヴァジュラは、ダナティカ川の源で、けがれなき空の中へと身体を溶け込ませました。
そのとき大地は振動し、きわめて多くの虹の光、さまざまな音など、多くの不思議な印が現われました。
マンジュシュリーミトラが悲しみの歌を歌うと、空に多くの光が現われ、その中からプラへーヴァジュラがあらわれました。そして指の爪ほどの小ささの黄金色の小箱が、マンジュシュリーミトラの手の中に降りてきました。
その小箱の中にはプラへーヴァジュラの遺言が入っており、それは「精髄を突き通す三つの言葉」として知られています。以下はその内容の一部です。
自己覚醒の確信の解脱に敬意を表する!
明智は、存在から自由である。
そして自己の外側の様々なあらわれは、絶え間ない。
すべての驚くべきあらわれは、ダルマカーヤの純粋な国から生起する。
そしてすべてのあらわれは、それ自身の本性の中で自由である。
本性そのものの顔を見よ。
本性そのものを維持するという一つの点において確固とせよ。
原初の本性への解放を確信せよ。
この遺言を読み終わった瞬間、マンジュシュリーミトラは、プラへーヴァジュラと同等の解脱の境地に達したのでした。