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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(9)

◎ミンギュル・ナムカイ・ドルジェへの五体投地

 ゾクチェン僧院の上方にあるルダムに住んでいるときに、パトゥルは、ゾクチェン・リンポチェ四世である、師ミンギュル・ナムカイ・ドルジェに十万回の五体投地を捧げるために、僧院へと降りていくことにした。ミンギュル・ナムカイ・ドルジェは素晴らしい悟りを得た御方であった。――彼の行動は型にとらわれておらず、予測不可能であり、ヨーギー・ド・キェンツェーのそれとよく似ていた。

 パトゥルがまず一回目の五体投地を捧げると、師は大声で言った。

「ヤ! アブじゃないか!」

 師は玉座から立ち上がり、パトゥルを礼拝し始めた。パトゥルが礼拝をしようとするたびに、師はすぐに跳ね起きて、パトゥルに礼拝をし始めるのであった。少し経った後、再びパトゥルは何度か五体投地をしてみたが、何度も何度も同じことが起きた。

 遂には、パトゥルはミンギュル・ナムカイ・ドルジェの玉座の後ろに、幸運にも誰の邪魔にならず、さらにラマの視界から見えない場所を見つけた。そこにしっかりと隠れながら、パトゥルは遂に十万回の五体投地を完遂したのであった。

◎ミンギュル・ナムカイ・ドルジェが千里眼を示す

 あるとき、泥棒がゾクチェン僧院の本堂に侵入し、大きな仏像の首の周りから、いくつかの宝飾を盗んだ。皆が非常に当惑した。なぜなら、寺院は錠が締まっており、宝飾は一見すると、手が届かないくらい高いところにあったからである。

 ある者がこの話をミンギュル・ナムカイ・ドルジェに話すと、彼はこう言った。

「もちろん、私はその泥棒が誰かということは知っているし、どうやってそれを盗んだかということもわかっている。泥棒はこっそりと、寺院の周りを囲むようについている非常に幅の狭いへりの、ほとんど天井近い場所の部分まで、どうにかしてよじ登っていったのだ。そしてそのへりに沿って慎重に歩き、巨大な仏像の頭近くまでやって来た。そして長い棒を伸ばしていって、仏像から宝飾を外し、それを持ち上げて、取り去ってしまったのだ。」

 僧たちが現場を調べてみると、すぐに狭いへりに沿ってついている足跡を発見し、泥棒が使った長い棒も発見された。ミンギュル・ナムカイ・ドルジェは、泥棒の正体を明かすことは拒まれた。その泥棒が捕まった暁には、こっぴどく袋叩きになることをご存知であったからである。

 その後、巡礼者たちがミンギュル・ナムカイ・ドルジェのもとにやってきて、祝福を受けた。彼らは、短時間の謁見しか賜ることができず、ゆえに多くの質問の答えを聞くことはできなかった。その代わりに、彼らはパトゥルに、彼らの代理として話してくれるように頼んだ。パトゥルは同意し、ミンギュル・ナムカイ・ドルジェのところへいって、巡礼者たち全員の質問の答えをもらい、彼らに頼まれた祈りの言葉と守護の意を伝えた。それが終わると、パトゥルは立ち上がって去っていき、まるで何やら落とし物をしたかのように、辺りを探し回り始めた。

 ミンギュル・ナムカイ・ドルジェはパトゥルに言った。

「君はブーツの紐を探してるのではないかね? それなら向こうの、ゾクチェン渓谷を流れる小さな川の近くの牧草地の端で見つかるぞ。」

 パトゥルは僧院からシンジェ洞窟への道を引き返していき、川の近くまで戻ってきた。そこでパトゥルは、ブーツから落ちた靴紐を見つけたのである。――ちょうど、千里眼を持つ師が言った所で見つかったのだった。

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