パトゥル・リンポチェの生涯と教え(81)
◎パトゥルがゾクチェン僧院を去る
しばらくの間、ゾクチェン僧院のある地域で暮らしていると、パトゥルはゾクチェン僧院にいる僧たちの堕落した振る舞いに嫌気が差した。僧たちの多くは、完全に出家をしていたというのにも関わらず、酒を飲み、ひそかに妻帯していたのである。
最終的に、パトゥルは大僧院長であるゾクチェン三世ポンロプのところへ行き、僧の出家の戒を守るために、この蔓延している僧たちの破戒行為を訴えた。
しかし、放縦な僧たちの中の一人が非常に権力のある会計管理者であったため、ゾクチェン・ポンロプはパトゥルに、「そのようなことは何も行なわれていなかった」と言い、その代わりに干し柿をパトゥルにすすめた。
「結構です。」
パトゥルは答えた。
「干し柿には興味がありません!」
パトゥルは立ち上がった。
「さようなら。」
パトゥルは言った。
「お元気で。」
パトゥルはわずかな荷物を持ち上げ、そこを発った。
ケンポ・ペマ・ドルジェは、パトゥルが僧院を去ったということを聞き、悲しみで圧倒された。そして泣きながら、パトゥルに手紙を書いた。
「あなたとわたしはギャルセ・チェンペン・タイェの弟子です。もしダチュカよりも遠くに行ってしまうなら、あなたはわれわれのサマヤ戒を破ることになりますよ!」
そしてその手紙を託して使者を送り出した。
使者がようやくパトゥルに追いついたとき、パトゥルは独りで歩いて、ゾクチェン谷の尾根の小道をゆっくりと横切っていた。パトゥルはケンポの手紙を読んだ。
「おお、そうか、そうか。」
パトゥルは不機嫌にぼやいた。
「ダチュカより遠くには行かないことにする。」
パトゥルの発言から、彼はケンポ・ペマ・ドルジェの懇願を聞くまで、非常に遠くの場所――中央チベットかそれよりも遠いところまで、旅をしようとしていたようであった。