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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(71)

◎パトゥル、トムのマハーシッダから教えを受ける

 弟子であり法友であるケンポ・ペマ・ドルジェに同行して、パトゥルはカトクを去り、チョイン・ランドル(ツォプ・ドゥプチェン・チョイン・ランドル)から教えを受けるために、東トムタルに向けて出発した。チョイン・ランドルは、タクチェン・ギャルポ山の険しい岩場の傾斜面にある隠遁所に住んでいた。高い悟りを得た修行者である彼は、トムのマハーシッダとしても知られていた。
 休み休み旅を続けながら、パトゥルとケンポは、黒湖(ツォ・ナクマ)の岸を歩き、ワシュル・トムゴにある「トムゴの城壁」と呼ばれる氷河に辿り着いた。
 そして最終的に彼らは、シャル・シンゴと、片側に獰猛な岩の女王(タツェン・ギャルモ)として知られる切り立った崖を持つ聖山が連なる雪山の山脈に到着したのだった。
 チョイン・ランドルは、広範囲にわたる正式な教育を受けておらず、カトク・ニンマの伝統に則ってカトク僧院でカマとテルマを学んだ。これらを学び終えると、全生涯を瞑想修行に捧げた。彼はシンプルに生きた。古い羊の皮のコートと質素なチュニック(臀部あるいは膝まであるゆったりとしたシャツ)を羽織って暖をとり、昼夜、瞑想の敷物の上で瞑想修行に没頭した。
 彼はロンサル・ニンポのカトク系統の宝の教えを専門に追及した。パトゥルとケンポが懇願したのは、その教えだったのである。
 チョイン・ランドルは、修行の結果として、ゾクチェンの教えの最高段階、「絶対なる本性に溶け込み、現象が枯渇する」と呼ばれるステージに達したのだった。彼の多くの弟子の中には、ティメー・シンキョン三世(ジグメ・ヨンテン・ゴンポ1837-1898)、カトク・シトゥ二世、ニャクラ・ペマ・ドゥンドゥル(後に虹の身体を得た)がいた。
 パトゥルとケンポは、チョイン・ランドルの面前にやってきて、三礼を捧げると、ロンサル・ニンポなどのカトク系統に則ったゾクチェンの教えを正式に懇願した。
 チョイン・ランドルは同意した。
 最初の日、チョイン・ランドルは前行における教えを与えることから始めた。彼は胸の所で合掌して、「心をダルマに向けるための四つの思考」に関するいくつかの詞章を唱えたあと、再びその最初の詞章をゆっくりと三度唱えた。

「ああ! 六道輪廻の中で、有暇を得ることは稀なことだ。
 人間に生まれて、ダルマに出会うことは稀なことだ。
 道を見い出すということは、貴重な宝石を見つけたようなもの。
 これらの貴重な機会を無駄にしてはならない!
 修行の真髄を一生懸命学びなさい!」

 涙が、この偉大なる師の頬を伝った。これらの言葉を聞いて、師の涙を見たパトゥルも同様に涙を流した。チョイン・ランドルはしばらくずっと黙っていた。
 これが初日に与えられた教えだった。

 二日目、チョイン・ランドルは同じように、経典に頼らず、自分の経験を直接用いて教えを説いた。
 彼は言った。

「衆生の人生は、崖から流れ落ちる滝のように、あっという間に過ぎ去る。」
 
 チョイン・ランドルは両手を合わせて少しの間動きを止め、涙を流した。それからまた続けた。

「与えられた有暇のチャンスを無駄にするな!
 人生を無駄に費やしてはならない!」

 チョイン・ランドルとパトゥルの眼から涙が溢れ出るのを見て、ケンポ・ペマは唖然とした。

「これらの教えを完全に熟知している偉大なる学者パトゥル・リンポチェ――このような偉大なヨーギーが、最も基礎的な教えを思って感動し、涙を流すとは! 今の教えは、まったくもって未成熟だ――冒頭もなければ結論もなく、体系もない――解説もまったくないではないか! ただ人間に生まれた稀有さを考えただけで、この二人の偉大なる修行者たちは深く感動して、涙を流している!」

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