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「アシュワッターマンの復讐」

(49)アシュワッターマンの復讐

 息子であるアシュワッターマンが死んだという嘘をパーンドゥ兄弟がついたことによって、ドローナは戦闘不能になり、宿敵ドリシュタデュムナに殺されました。
 それを聞いただけでもアシュワッターマンは怒り心頭でしたが、さらにはドゥルヨーダナがビーマに、足を攻撃されるという武士道に反するやり方で倒されたということを聞き、アシュワッターマンの怒りは頂点に達しました。そしてアシュワッターマンは誓いました。
「私は今夜中に、パーンドゥ軍を全滅させる!」

 その夜、アシュワッターマンは、寝ているクリパ師を起こすと、自分の計画を告げました。それは、パーンドゥ軍が寝ているところへこっそりと忍び込んで、全員を殺してしまうというものでした。それを聞いたクリパ師はびっくりして言いました。
「とんでもないことだ。それは文句なしに悪いことだよ。眠っている人を攻撃するなど、全く前例のないことだ。クシャトリヤの行動規範に反する空前絶後の最大の罪悪だよ。
 アシュワッターマン、君はいったい誰のために戦うのだ? ドゥルヨーダナのためにみなが集まって、この戦争になったわけだが、彼はまさに致命傷を負って、死ぬところなのだ。われわれは忠実に責務を果たしたではないか。あの強欲で低脳なドゥルヨーダナのために、全力を尽くして戦ったのだよ。だが再起できぬほど敗れてしまった。今となってはもう、戦いを続ける目的も必要もないし、そうするのは愚の骨頂だ。さあ、生き残った私とお前とクリタヴァルマンで、ドリタラーシュトラ王とガンダーリー妃のもとへ行こう。そして智慧者のヴィドラのところへも行こう。これからどうすべきかは、彼らが判断してくれるだろう。」

 クリパ師の意見を聞くと、アシュワッターマンの悲しみと怒りはますます大きくなり、こう言いました。
「パーンドゥ軍の度重なる汚い反則行為は、明らかに犯罪なのですよ? 私は、彼らの邪悪極まりない行動に対して、正当な報復をするだけです。私はもう決心しました。計画を変える気はありません。今夜彼らのテントへ行って、鎧を脱いで眠っている父の敵ドリシュタデュムナ、そしてパーンドゥ一族とパンチャーラ人たちを、殺してきます。」

 これを聞いてクリパ師はひどく悲しみ、何とか説得して思いとどまらせようとしました。
「君は偉大なる名声を得ているのだ。その名声も、すばらしい人格も、すべて台無しになってしまうぞ。真っ白い布に、血を浴びせかけるようなものだ。寝ている男を殺すなど、人間のすることではない。やめなさい。」

 アシュワッターマンは、反論しました。
「先生、何をおっしゃるのです? ドリシュテデュムナは、無抵抗の私の父を殺したのですよ? カルナだって、車を直そうとしているところを、あのごろつきどもに殺されたのです。ビーマは、武士道に反して、ドゥルヨーダナの足を攻撃して瀕死の状態にしました。
 私は彼らに復讐します。それによって私が来世、ミミズに生まれ変わろうとも、私は一向に構いません。結構ですとも!」

 そう言い終わると、アシュワッターマンはさっさと戦車に乗り込み、出発しようとしました。クリパ師とクリタヴァルマンが叫びました。
「待て、アシュワッターマン! どうあっても実行するのか? われわれはそれを承認することはできぬが、かといって君を見殺しにすることもできない。君の行く道を、われらも行こう。君と一緒に罪をかぶるよ。」

 そう言って、二人はアシュワッターマンと共に、パーンドゥ軍の寝ているテントへと向かいました。

 テントに着くと、まずアシュワッターマンは、父の敵であるドリシュタデュムナの寝ているテントへ行き、熟睡しているドリシュタデュムナを殺してしまいました。
 同様にしてすべてのパンチャーラ人たちと、パーンドゥ兄弟の子供たちが全員殺されました。
 この後、彼らはテントに火をつけ、残った兵士たちのほとんどが、焼け死んでしまいました。

 この仕事を終えると、アシュワッターマンは、死にかけているがまだ少し息のあったドゥルヨーダナのところへ向かい、報告しました。
「おお、ドゥルヨーダナ! まだ生きていてくれましたか。喜んでください! パンチャーラ人たちは全部殺してきました。パーンドゥ兄弟の息子たちも、すべて殺しました。パーンドゥ兄弟とクリシュナとサーティヤキなどはまだ生きていますが、それ以外の敵はほとんど壊滅しましたよ。彼らが眠っているところに、夜襲をかけたのです。」
 
 この報告を聞くと、ドゥルヨーダナは最後の力を振り絞って言いました。
「アシュワッターマンよ、君は、偉大なビーシュマも勇敢なカルナもできなかったことを、私のために成し遂げてくれた。私はとても嬉しい。」
 そうしてドゥルヨーダナは、息を引き取りました。

 夜襲されて味方がほとんど壊滅してしまったのを知り、ユディシュティラは悲嘆のどん底に落ちて泣き崩れました。
「勝利の瞬間に、完敗してしまった。われわれの子供たちも、全員殺されてしまった!」

 わが子を全員殺されたドラウパディーも、同様に号泣しました。

 パーンドゥ兄弟は、犯人のアシュワッターマンを捜しに行き、ついに隠れているアシュワッターマンを見つけました。パーンドゥ兄弟が近づいてくるのを見ると、アシュワッターマンは、一本の草に破壊の呪文を吹き込んで、「パーンドゥ一族の子孫が途絶えるように!」と言って、それを投げました。その呪いの草は、アルジュナの息子のアビマンニュの子供を身ごもっているウッタラー妃に突き刺さりました。
 このため、後にこの胎児は死産で生まれてきましたが、クリシュナがこの子を生きかえらせました。この子がパリークシットで、後にパーンドゥ兄弟が森に隠退したとき、ユディシュティラから王位を受け継ぐことになるのでした。

 パーンドゥ兄弟に取り囲まれたアシュワッターマンは、観念して敗北を認め、自分の宝冠を取り外してパーンドゥ兄弟に渡すと、森を目指して立ち去っていきました。

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