パトゥル・リンポチェの生涯と教え(59)
◎パトゥルとチョーギャル・リンパ
原生の氷河地帯の崖の斜面で、偉大なるテルトンであるチョーギャル・リンパが、「最高の至福、すべてのブッダの結合」の体系の一部であるテルマの教えを発見した。
このとき、チョーギャル・リンパはゾクチェン僧院の近くで暮らしていた。そして彼と共にヨンゲ・ミンギュル・ドルジェのトゥルクが暮らしており、訪問者を迎え、調理をし、お茶を作ったりして、チョーギャル・リンパの従者として仕え、彼のお世話をしていた。
ある日の明け方、チョーギャル・リンパが従者のヨンゲ・ミンギュルに言った。
「今日、偉大なる師パトゥル・リンポチェがここに来られる。どうか、特別なおもてなしをしておくれ。」
しばらくして、チョーギャル・リンパにお茶を出した後、ヨンゲが師の部屋から出ていくと、訪問者が来たことに気づいた。体格の大きい、鼻の高い老人であった。ゴロクの遊牧民のような格好をしており、ラマの衣は着ていなかった。老人が羽織っている簡素なコートは羊の皮でできており、脇のところの毛がはげていて、赤いフェルトの布で塞がれていた。
「チョーギャム・リンパに会いに来た。」
老人はそう言って、中に入ろうとした。
テルトン・チョーギャル・リンパは、突然の訪問者は絶対に入れさせなかった。ましてや、許可も取らずに入ろうとする者など尚更のことである。それゆえに、ヨンゲは扉を閉めて、こう言った。
「お待ちを、お待ちを! そういったことは許されておりません。まずはラマにご報告をしなくては。」
「どいてくれ!」
老人はそう言って、ヨンゲを脇に押しのけようとした。ヨンゲは老人の袖を掴んで、強くこう言った。
「突然の訪問者は入れることができないのです!」
老人は後ろに下がり、二人は取っ組み合いを始めた。
突然、ある考えがヨンゲの脳裏をよぎった。
「たぶん、このゴロクの老人は、普通の老人ではない。一旦中に入って、師にお聞きした方がよさそうだ。」
そのとき、先ほど「今日の訪問者」について師から言われていたことを思い出したが、ヨンゲは、見るからに偉大な師のような方が来られるのだろうと思い込んでいた。
ヨンゲが後ろを振り向くと、チョーギャム・リンパが部屋から出てきた。その偉大なるテルトンは全力で走ってきて、老いた遊牧民に向かって全身を投げ出して礼拝をした。老人も礼拝していた。
ヨンゲは後に、このことについて話してくれた。
「それから、お二人がお互いに礼拝をし合った後、彼らは二頭のヤクのように、頭を触れ合わせておられた。」