パトゥル・リンポチェの生涯と教え（３７）

◎パトゥル、少女とお茶を飲む

　あるときパトゥルは、パルゲ・マニ壁の近くのマモスという平原で、黒ヤクの毛の小さなテントを張って野営していた。ある早朝に、みすぼらしい薄いマーモットの毛皮の上着を着た小さな少女が、パトゥルのテントの前で足を止め、中に入ってきた。パトゥルは、「こんな早朝に、外で何をしているのかね？」と尋ねた。体が芯まで冷え切っていたその貧しい小さな少女は、ドリ（雌ヤク）を探しているうちに、家族とはぐれて迷子になってしまったのだと言った。

「こっちにおいで。」

　パトゥルは少女に言った。

「お茶とツァンパを食べるといい。」

　お茶を出そうとしたとき、パトゥルはふと、この少女は茶碗を持っていないということに気づいた（ほとんどのチベット人は、服の中に自分用の木製の茶碗を持ち歩いている）。
　パトゥルは、目の前のテーブルにおいてある自分の茶碗を手に取り、それにお茶とツァンパを入れて、少女に渡した。それを見ていた人々は、ショックを受けた。少女は、それを受け取るのを非常に躊躇していた。チベットの伝統では、一般の人は絶対にラマのお椀で何かを飲むということはないのだ。なぜなら、師の個人的な持ち物は、大変な敬意を払って扱われるからである。

　しかし、その貧しい小さな少女は、パトゥルの指示に逆らうことができず、最終的に茶碗を受け取った。そしてそれを使って、幸せそうにツァンパとお茶で体を温めた。食べ終わると彼女は、茶碗はきれいにしてから返すのが礼儀だと思い、パトゥルの茶碗を丹念に拭いてきれいにした。しかしそれは、彼女が着ていたひどくみすぼらしい上着の汚いマーモットの毛皮を使って拭いたのだった。
　それから恭しく、小さな少女は、パトゥルの茶碗をパトゥルに返した。

「うーむ、私の茶碗はお前さんのせいで、えらくよごれてしまった。そうではないかね？」

　パトゥルはからかって言った。

「どうして、そんなに頑張って茶碗をきれいにしてくれたのだい？」

　そしてパトゥルはその茶碗を洗わずに、そのまま自分用のお茶を入れたのだった。