パトゥル・リンポチェの生涯と教え(33)
◎パトゥル、再びダルギェー僧院の近くを通る
ミンヤクへの訪問を終えると、パトゥルは、宗派主義で有名なダルギェー僧院の近くを通った。僧院の外に立っていた数人の僧たちが、みすぼらしい放浪ラマを見つけた。その身なりや振舞いを見て、その数人の僧たちは、そのラマはニンマ派に所属しているであろうと推測した。
そのラマを罵ってやろうと考えて、一人の僧が前に出てきて、こう言った。
「どこから来たのですか? そしてどこに向かっているのですか?」
この度は、パトゥルが主導権を奪って言った。
「ああ、ゲルク派の方ですか。あなたたちは本当に素晴らしい!」
さらにパトゥルは言った。
「あなたたちゲルク派の系統の保持者の方々は、あちらこちらへ行っておられる! あなた方は遥々、中央チベット、ガンデン、セラへと赴き、一生懸命勉強される! そしてまた戻ってきて、教えるのです! あちらこちら、何度も何度もね!」
また、パトゥルは一瞬考えてこう言った。
「私のような老いぼれのニンマ派修行者たちは、とんでもない田舎っぺですよ。」
そして考えに耽りながら、首を振った。
「われわれは、毛布にくるまりながら一生で一つの場所で暮らすことしかできません。そして結局は、二度と帰ることはないのです!」
褒められたと思って、その僧たちは喜び、それ以上突っかからずにパトゥルを行かせた。
それから間もなくして、その僧たちはばったりと僧院長のゲシェーに出くわし、ちょうど先ほどやって来た放浪ラマのことを話した。
「感じの良いニンマ派の隠者でした。」
一人の僧が言った。
「そして、われわれのことを褒めてくれたんですよ!」
訝って、ゲシェーは尋ねた。
「一体、何と言ったのだ?」
僧たちはゲシェーに、放浪ラマが言ったことを話した。
ゲシェーは頭を振って、こう言った。
「いやいや、それは『褒め言葉』ではないぞ。」
僧たちは首をかしげた。ゲシェーは説明した。
「そのラマの言う『われわれがあちらこちらへ行く』というのは、われわれゲルク派は輪廻をぐるぐると流転し続けるということで、それとは反対に、ニンマ派はゾクチェンと呼ばれる瞑想によって、”輪廻にはもう二度と帰ってこない”という段階に達する、ということだ。」
ゲシェーは僧たちに、パトゥルを追いかけて捕まえて連れてくるように言ったが、パトゥルはもうずいぶん前に発ってしまっていたのだった。