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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(121)

◎ケンチェン・タシ・ウーセルがパトゥルに会おうと試みる

 ケンチェン・タシ・ウーセルは、ヤムドクのドルジェ・パクモのトゥルクであった若き尼僧を含む巡礼者たちの一団に付き添われながら、中央チベットからカムへと戻ってきた。一行は、ザギャル僧院の上流にある谷に位置する場所、”上流のゲツェ”に向かって旅をしていた。そのとき、ザギャル僧院には晩年のパトゥルがおり、今までと同じように、黒いヤクの毛でできている小さな遊牧民テントの中で一人で修行をしながら、六か月の月日を過ごしていた。
 皆が、パトゥルはもう誰とも会おうとしないから、実際に会うのは不可能だと言ったが、ケンチェン・タシ・ウーセルは一行を安心させて、こう言った。

「心配はいらない。われわれはパトゥル・リンポチェにお会いできるさ。」

 一行がパトゥルのテントに近づいていくと、その中から、彼らに向かってパトゥルの叫ぶ声が聞こえてきた 

「オー・ホー! 偉大なるケンポ・タシ・ウーセルが来たな! そらっ、中央チベットの高貴な生まれの若き尼僧を連れて、人目を引こうとしておるわい! ア・イー! おまえたちのせいで、わたしは死にそうだ。おまえたちは皆、わたしをそっとしておいてくれないのか!」

 彼らは、面会してくださるようにとパトゥルに懇願した。
 テントの中から答えが返ってきた。

「わたしの言いたいことがわからんのか? おまえたちはわたしの言うことを聞かないのだな!」

「あなたのおっしゃることに従います!」

 彼らは断言した。
 パトゥルは怒鳴り返した。

「おお、そうか。それなら! ザギャル僧院まで下りていって、ジグメ・ギャルワイ・ニュグのクドゥン(聖遺体)のところへ行きなさい。彼はアヴァローキテーシュワラご自身である。彼のクドゥンの前へ行くことは、ラサのジョウォ(釈迦牟尼像)の前に行くようなものだ。そこで供養をするならば、おまえたちはこの人生で障害に出くわすことはなくなるだろう。そして未来永劫に渡って、解脱に向かって前進していくだろう。彼の聖遺体の前で為される祈りはすべて叶うのだ!」

 巡礼者たちの一行は、パトゥルに助言された通りにした。彼らはザギャル僧院に行き、祈り、灯明、礼拝を捧げ、周りを回り、ガナチャクラを行なった。そのようなことを丸三日間行なった。
 その後、彼らはパトゥル・リンポチェのテントに戻ってきたが、そのときもまだ、パトゥルに直接お会いする許可がもらえるかどうか、心配していた。

「心配ないさ。」

 ケンポは他の者たちを安心させようとした。

「今回は、絶対に面会の許可をもらえるよ。」

 一行がテントの近くに来て、中に入ろうとするや否や、パトゥルは前と同じように厳しく叱りつけ、大声で叫んだ。

「おまえたちのせいで、わたしは死にそうだ!」

 ケンポは答えた。

「われわれはあなたの言うことを聞き、あなたに言われたことをすべて行ないました。われわれはザギャル僧院に行き、あなたに指示されたように、ジグメ・ギャルワイ・ニュグの聖遺体の前で祈りを捧げ、供養をしました。
 しかし、あなたはあることについて間違っておりました。あなたは聖遺体の前で為された祈りは叶うとおっしゃっていましたが、われわれの祈りは叶いませんでした!」

「なんだと?」

 パトゥルは叫んだ。

「どの祈りが叶わなかったというのだ?」

「われわれは、パトゥル・リンポチェと直接面会できるようにと祈りました!」

 しばらく、沈黙の時間が流れた。
 自分の発した言葉ゆえに パトゥルは折れざるを得なくなり、ぶっきらぼうにこう言った。

「おお……わかった、わかった。入りなさい!」

 パトゥルはテントの幕を開けて、彼らを中に入れ、懇願された通りに教えを与えたのだった。

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