パトゥル・リンポチェの生涯と教え(116)
◎ドゥドゥプチェン三世の初転法輪
八歳のジグメ・テンパイ・ニマがパトゥルから教えを受けるためにダチュカにやって来ると、パトゥルは非常に優しく、その小さいドゥドゥプチェンの面倒をみた。毎日、教えを説くときには、パトゥルはドゥドゥプチェンを自分の枕の上に座らせた。その枕はパトゥルが寝るときによく使っていたものだった。つまりそれは、並外れた敬意を表わす行為だったのである。
ドゥドゥプチェンはパトゥルが暮らしている部屋に住んでいて、二人の間には一つのついたてのようなものしかなかった。毎日、この小さなトゥルクは、パトゥルが日々の日課として唱える、ロンチェン・ニンティクの修行の一つ、「グル・リンポチェへの祈り」を低い声で唱えているのを聞いた。
おお、尊敬すべき主、尊師よ!
あなたは、すべてのブッダ方の慈悲と祝福の輝かしき権化。
あなたは一切衆生の唯一の守護者。
わたしの身体、ハート、心、所有物のすべてを
躊躇うことなく、あなたに捧げます。
今から、悟りを得るまで
私が幸福であっても苦しくても、善い状態でも悪い状態でも、高くても低くても
おお、パドマサンバヴァ大師よ、どうか私を見守っていてください。
ある早朝、パトゥルは若きドゥドゥプチェンの泣き声を聞いた。のちにパトゥルは、ドゥドゥプチェンが朝の修行中に眠ってしまい、彼の個人教師にピシャリと打たれたということを知った。パトゥルはそのドゥドゥプチェンの個人教師のことをよく思っておらず、彼のやり方は、素晴らしい魂である若きドゥドゥプチェンに対して手荒すぎると思っていた。
パトゥルはその個人教師がドゥドゥプチェンに対してしたことに立腹して、ドゥドゥプチェンにこう言った。
「もし死んでも、サンドパリ(パドマサンバヴァの浄土)には行くな! もしそうしたら、グル・リンポチェがおまえをここへ送り返すぞ! 彼はいつもチベット人のことを心配してくださっているからな。おまえはアミターバの浄土スカーヴァティーへ行くのだ! そしてこの邪悪な者たちのところへは戻ってくるな!」
ドゥドゥプチェンに入菩提行論の教えを与え終えると、パトゥルは使いの者を送って、ザチュカの谷中に、八歳の少年が大衆に入菩提行論の教えを説くということを告知した。
ダギャル僧院の大勢の僧や在家信者たちが集まってくる前に、パトゥルは自ら、儀式の曼陀羅を捧げて、その少年に教えを説いてくれるよう懇願した。
ドゥドゥプチェンが解説を始めると、皆は彼の智慧とその満ち溢れた自信に驚かされた。最初、ドゥドゥプチェンのささやかな声は、遠くに座っている聴衆に届かなかったのだが、徐々に彼の声は大きさを増していき、全員が彼の声を聞き取れるようになった。
パトゥルはキェンツェー・ワンポに、喜びと共に伝言を送った。
「わたしは、ダルマの太陽が沈もうとしていると思っていたが、聖典の智慧のダルマに関しては、ドゥドゥプチェンの八歳のトゥルクが、入菩提行論の第四章の解説の教えを説いたから大丈夫だ!
悟りのダルマに関しては、ニャラ・ペマ・ドゥンドゥが最近、虹の身体を得たようだ! ブッダの教えの光は、まだ消えていなかった!」