ハリダース・タクル(終)
◎死去
ハリダースは高齢になりましたが、それでも一日30万回、ハリの御名を唱えていました。
ある日、ゴーヴィンダ(チャイタニヤ)がジャガンナートのプラサードを持ってハリダースのところにやって来ると、彼は横たわって、いつものようにハリの御名をゆっくりと小さな声で唱えていました。
ゴーヴィンダは言いました。
「ハリダースよ! 起きて、プラサードを食べるのです。」
ハリダースは起き上がって、こう言いました。
「今日は断食をします。ナーマ・ジャパが終わりませんでしたので。」
そしてプラサードに敬意を払うために、米を一粒だけ口に入れると、また横になってしまいました。
次の日、マハープラブ(チャイタニヤ)が来て、こう尋ねました。
「ハリダースよ! 調子はどうだ?」
彼は答えました。
「主よ! 肉体は健康ですが、心が健康ではございません。
高齢のせいで、わたしはジャパの回数を終えることができないのです。」
マハープラブはこれを聞いてお喜びになり、彼のハートはとろけてしまいました。
しかし、バーヴァ状態を必死に隠して、こう言いました。
「ハリダースよ! お前はシッダ・マハープルシャ(成就した偉大なる魂)だ。
お前は世界の幸福のために生まれた。
お前は人々に模範を示すために、一日30万回のナーマ・ジャパを行なってきたのだ。
しかし、今や高齢になったのだから、ジャパの数を少なくしてもいいのだよ。」
ハリダースはこの称賛を聞いて、心底非常に傷つきました。
声をあげて泣き、彼はマハープラブの足元に倒れて、こう言いました。
「主よ! そんなことを仰らないでください!
わたしは大変卑しく、価値のない者です。
あなたはバガヴァーンであり、すべてがあなたのご意思です。
あなたはすべての者を、あなたのご意思によって踊らせています。
わたしもまた、あなたのご意思によって踊っているのです。
ならばどうしてあなたは、わたしを賛美して、わたしを傷つけるのですか?」
マハープラブは、ハリダースが非常に謙虚に言ったこの言葉を聞いて、悲しくなりました。
マハープラブは眼に涙を浮かべて、ハリダースの物悲しそうな顔を見続けました。
それからハリダースは感情で喉を詰まらせて、こう言いました。
「主よ! わたしは一つ懇願いたします。
わたしは、あなたがもうじき、このリーラーから身をひくことを知っております。
どうか、わたしがその日を見ることなく、すぐに死ねるよう、恩寵をお与えください。」
これを聞いて、マハープラブはショックを受けました。
彼は眼から涙を溢れさせ、感情で喉を詰まらせながら、こう仰いました。
「ハリダース! 何を言っている!
お前が逝ってしまったら、わたしはどうやって生きればよいのだ?
なぜお前は、わたしからお前との交際の喜びを奪うほど、残酷なのだ?
お前のようなバクタ以外、わたしが我がものと呼べるバクタが他にいるだろうか?」
ハリダースは言いました。
「主よ! そんなことを言って、わたしを惑わさないでください。
あなたのリーラーの中で、あなたを手助けするマハープルシャは何千万人もいるでしょう。
わたしのような虫けらが死んだとて、あなたは何を失うというのでしょうか?」
こう言って、彼はマハープラブの足元に倒れこみ、泣き始めました。
そして頭を主の御足に置いたまま、声を震わせてこう言いました。
「主よ! この虫けらには、不当にももう一つお願いがあります。どうかお聞きください。
これ(ハリダース)は、この胸の上にあなたの蓮華の御足を置き、あなたの月のような御顔を見て、あなたの甘美な御名を唱えながら死にたいのです。
この恩寵をお与えくださいますか?
どうか、お教えください。」
月が突然雲に覆われたように、マハープラブの顔は突然、暗くなりました。
彼は何も言えず、長い間、顔をうつむかせて考えていました。
そしてため息をついて、小さい声でこう言いました。
「ハリダース、お前の望みは何でも、それがたとえ不可能なことでも、クリシュナは叶えてくださる。
しかし、わたしはお前なしでどうやって生きたら良いのだろうか。」
マハープラブはそう言って、黙ってしまいました。
しばらくして、彼は金切り声で、「ハリダース! ハリダース!」と叫ぶと、ハリダースに抱き付いて泣き始めました。
ハリダースの体全体が、彼の涙でびしょ濡れになりました。
マハープラブに触れられたことで、ハリダースの背中に戦慄が走り、鳥肌、振動などのサートウィカ・バーヴァが、彼の体に現われました。
マハープラブが、ハリダースの望みを叶えてあげるということを身振りで示すと、ハリダースの気持ちは安らぎました。
彼はこう言いました。
「主よ! 今はもう真昼ですから、あなたはお帰りください。
どうか明日、ジャガンナートのダルシャンの後に、またお越しください。」
マハープラブは、ハリダースは明日、その望みを叶えたいのだと理解しました。
翌朝、ジャガンナートのダルシャンの後に、マハープラブは、スワルーパ・ダモーダラ、ラーヤ・ラーマーナンダ、サルヴァバウマ・バッターチャーリヤ、ヴァクレーシュワラ・パンディトたちと共に、ハリダースの庵にやって来ました。
彼らは、マハープラブに連れて来られた理由を知りませんでした。
彼らは、きっと何か特別なリーラーが行なわれるに違いないと思っていました。
庵に着くや否や、マハープラブはハリダースにこう言いました。
「ハリダースよ! 調子はどうだ?」
ハリダースは答えました。
「主よ、このしもべは準備ができております。」
マハープラブとハリダース以外、誰もこの言葉が暗示する意味を理解できませんでした。
ハリダースは、「このしもべは準備ができております」と言いながら庭に出てきて、マハープラブとその信者たちに敬礼しました。
ハリダースは衰弱していたために、立っていることができませんでした。ゆえにマハープラブは彼を楽に座らせると、信者たちと共に彼の周りを回りながら、キールタンを歌い、踊り始めました。
マハープラブたちが歌い、スワルーパとヴァクレーシュワラが踊りました。
ハリダースは彼らの御足の塵を取ると、それを体中に塗り付けました。
彼が、マハープラブに近くに来てくださるように懇願すると、マハープラブは彼の近くに座りました。
ハリダースは彼の御足を両手でつかみ、しっかりと胸に抱きしめました。
マハープラブは、それを拒むことはしませんでした。
マハープラブの御足を掴んで、眼に涙を浮かべてその御顔を拝みながら、「ガウランガ!」と叫ぶと、ハリダースは肉体を捨てたのでした。
信者たちは皆、ビーシュマのような彼の最期を見て、あっけにとられました。
最初彼らは、彼が本当に逝ったとは信じなかったのですが、それが本当だとわかると、「ハリボロ!」と叫んで泣きました。
そのときのマハープラブの心境は奇妙で、悲しみと喜びの間を漂っていたのでした。
彼は信者が死を征服したことを非常に喜ばれますが、彼が非常に誇りに思い、毎日会いに行き、沐浴よりもさらに大きな満足を得ていた信者を突然失ってしまったことを悲しみました。
彼は、ハリダースの亡骸を膝の上に抱き、踊り始めました。
彼が踊り始めると、彼の眼から絶え間なく、愛の涙というガンガー・ヤムナーが流れ、ハリダースの亡骸を沐浴させたのでした。
心の中にマハープラブがハリダースの亡骸と共に踊る姿を見る人は、誰一人として、バガヴァーンは無形で、無属性で、何の助けも必要とせず、完全に満たされている存在であり、彼は父にも母にも兄弟にも友にも、何ものにも執着を持たない存在であるとは言えないでしょう。
「彼」はそのリーラーのために、そしてさまざまなラサを楽しむために、完全にバクタに頼り切っているのです。
「彼」はバクタなしでは不完全であり、それぞれのバクタが彼にとっての心の拠り所なのです。
バクタを見つけると、「彼」は三界の富をすべて見つけたように感じ、バクタを失うと、「彼」はすべてを失ったように感じます。
「彼」のバクタへの愛は、限りがありません。
「彼」の愛は「彼」の無数のバクタに分割して割り振られているというわけではありません。
「彼」の愛は、それぞれのバクタに無限に降り注がれているのです。
ハリダースは、「彼」にはそのリーラーにおいて何千万の手助けをしてくれるバクタがいて、もし自分のような虫けらが死んでも、「彼」は何も失わないであろうと「彼」に言いました。
マハープラブだけが、ハリダースを失うことで失われるものを知っていたのでした。
踊りが終わると、マハープラブはハリダースを賛美し始めました。
このようにして彼は、彼の心の苦しみを幾分か和らげようとしました。
それから信者たちは、踊ったり、キールタンを歌いながら、ハリダースの遺体を海に運びました。
彼の遺体を海で沐浴させると、マハープラブはこう言いました。
「今日から、海は偉大なる巡礼地となった。」
そして信者たちは海岸にハリダースのサマーディ(墓)を掘り、ハリダースの体をサンダルの粉や花輪で飾り、彼のチャラナームリタ(御足の甘露)をとると、彼をサマーディ(墓)の中に入れました。
マハープラブは自らの手で、そのサマーディに土をかぶせました。
それから信者たちと一緒に彼のサマーディの周りを、キールタンを歌い踊りながら周りました。
その後、皆で海で沐浴し、またサマーディの回りを周り、そしてキールタンを歌い踊りながら、ジャガンナートの寺院へと向かいました。
寺院のシンハドワーラ(門)のところには、食料品店がありました。
マハープラブはそこへ行き、店の前で、身にまとっていた衣を広げ、ハリダースの死の征服と、ハリダースがラーダー・クリシュナの永遠のリーラーの永遠の楽土に速やかに逝ったことを祝う祭典のために、施し物を乞いました。
店主たちは、気前よく無料で施し物を捧げました。
信者たちは、マハープラブご自身が施し物を乞うているのを見て、悲鳴をあげました。
スワルーパは、マハープラブに施し物をあげないようにと店主に身振りで合図をし、合唱してマハープラブにこう言いました。
「主よ! あなたはお帰りください。わたしたちが施し物を集め、それをあなたにお届けいたします。」
マハープラブはスワルーパを見ると、「お前はわたしの愛しきハリダースの祭典のための施し物を集めてはならぬと言って、わたしを激しく傷つけているのだぞ」と言わんばかりに、無力な子供のように泣き出しました。
しかし信者たちが、自分たちがいる前で、彼が店から店へと施し物を乞うのを見ていられるでしょうか?
マハープラブは、惨めな気持ちでに家に帰らなければならなくなりました。
すぐさま、祭典のための山のような食糧が、マハープラブのもとに届けられました。
バニナート、そしてラージャグル・カーシー・ミスラは、マハーラージャ・プラタプルドラの代理として、大量の食糧を送ってきました。
そして盛大な祝宴が準備され、マハープラブご自身が、大量のプラサードをそれぞれの人々に給仕し始めました。
しかしマハープラブが座るまで誰も食べ始めようとしなかったので、スワルーパは無理やり彼を座らせました。
マハープラブはヴィシュヌ派信者の人々と共に食べ、ときどき彼らが「ハリボロ!」と叫ぶ中、ハリダースを賛美するキールタンを歌いました。
祝祭が終わると、マハープラブはチャンダンと花輪をそれぞれの信者たちに捧げ、皆に恩寵を与えるつもりでこう言いました。
「ハリダースが肉体を捨てたのを目撃した者たち、その場でキールタンと踊りに加わった者たち、そしてこの祭典でプラサードを食べた者たちは皆、すぐにクリシュナの蓮華の御足に到達するであろう。」
こう言うと、彼は両手を上げ、眼に涙をうかべながら信者たちを見て、このようなキールタンを歌い始めたのでした。
ジェイ ジェイ ジェイ ハリダース
ナーメーラ マヒマ ジェー カリラ プラカーシュ
――ハリダースに栄光あれ、栄光あれ、栄光あれ!
主の御名の栄光を称えたハリダースに栄光あれ!