ナーグ・マハーシャヤ(4)
親友のスレーシュは、しばしばナーグのもとを訪れ、二人は宗教について熱心に語り合いました。しかし次第にそれだけでは満足できなくなってきたナーグは、あるときスレーシュにこう語りました。
「無駄話に時が過ぎていく。何かをじかに悟るのでなければ、意義ある人生とはならない。」
ちょうどそのころ、スレーシュは、カルカッタ郊外のドッキネッショルに、ラーマクリシュナというすばらしい聖者が住んでいるという話を耳にしていました。しかしもろもろの事情により、その話がナーグとの会話の話題に上ったのは、二ヵ月後でした。ラーマクリシュナの話を聞くと、ナーグは、彼に会いたくてたまらなくなりました。そこで二人は、朝食を終えるとすぐに、ドッキネッショルへと歩いて向かいました。
それはインドの夏季である四月のことであり、日差しは容赦なく照りつけていました。しかし二人はその暑さをものともせず、不思議な力に導かれるようにして歩き続けました。
長いこと歩き続けたとき、もうドッキネッショルのカーリー寺院を通り過ぎてしまったことに気づきました。道を引き返し、カーリー寺院についたのは、午後二時になっていました。
ナーグとスレーシュは、ラーマクリシュナの部屋へと入っていきました。ラーマクリシュナは、小さな簡易ベッドの上に、微笑みながら、足を伸ばして座っていました。
スレーシュは合掌してお辞儀をし、床に敷かれたマットの上に座りました。ナーグは、インドの習慣どおり、師の前にひれ伏して師の足に触れ、御足の塵をとろうとしましたが、ラーマクリシュナは足を引っ込め、ナーグが自分の足に触れることをお許しになりませんでした。ナーグは、「自分は聖者の足に触れるのにふさわしい人間ではないのだ」と悲しい気持ちになりました。
ラーマクリシュナは、二人にさまざまな質問をした後、こう言いました。
「あなた方はこの世界にパンカル魚のようにとどまる。在家であろうとも何も悪いことはない。パンカル魚は泥の中で生きる。しかしそれによって汚されない。同様にあなた方は家庭にとどまっても、輪廻のごみがあなた方を汚さないように注意深くありなさい。」
このラーマクリシュナの言葉は、まさにナーグが長年悩まされてきたことに対する回答に他ならなかったので、ナーグはひどく驚き、ラーマクリシュナをじっと見つめました。
「なぜそのように見つめるのか?」とラーマクリシュナが尋ねると、ナーグは、
「私はあなたにとてもお目にかかりたかったのですが、今は満たされました。」と答えました。
その後ラーマクリシュナは、二人を連れて、カーリー寺院の境内を案内しました。ラーマクリシュナは、カーリーの聖堂の中に入るやいなや、別人のようになりました。カーリー女神への強い感情で満たされ、自制心を失ったかのように、震えていました。カーリー女神に着せられた服を手でつかみ、子供のように、女神の像の周りを何度も回りました。
ナーグは、ラーマクリシュナのすばらしい純粋さ、神聖さ、そして献身の姿に、完全に魅了されました。
帰りの道すがら、ナーグは、ラーマクリシュナについて考え続けていました。彼は賢者であろうか、聖者であろうか、あるいはそれ以上の存在なのであろうか。
この忘れがたい一日の経験は、ナーグの心に強い印象を残し、神を認識したいという強い願望が彼に訪れました。そのために彼は、まさに気が狂わんばかりでした。ナーグは睡眠や食事にも無頓着になり、人と話をすることもやめました。スレーシュを相手に、ただラーマクリシュナについてだけ話をしました。
翌週、ナーグは、再びラーマクリシュナのもとを訪ねました。ナーグを見るなり、ラーマクリシュナはバーヴァ・サマーディの状態に入り、そしてナーグにこう言いました。
「喜ばしいことだ、わが子よ! あなたの霊的な進歩については、何一つ恐れることはない。あなたはすでに、非常に高い状態に到達している。」
さらに後日、ナーグがラーマクリシュナのもとを訪ねると、ラーマクリシュナは言いました。
「さて、あなたは医者だ。私の足を診察してもらえないか?」
ナーグはラーマクリシュナの足に触れてよく調べましたが、特に問題がないのでそう告げると、ラーマクリシュナは、もっとよく調べてみるように言いました。そこでナーグはさらによくラーマクリシュナの足に触れて、よく調べました。
こうしてラーマクリシュナの足をさすっているうちに、ナーグはラーマクリシュナの愛に気づきました。。ナーグが初めてラーマクリシュナを訪ねたとき、ラーマクリシュナはナーグが自分の足に触れることを許さず、ナーグは「自分は聖者の足に触れるのにふさわしい人間ではないのだ」と、大変悲しい気持ちになっていたのです。しかしこの日、ラーマクリシュナは、足の治療という理由にかこつけて、ナーグが願っていた、師の御足に触れるという恩恵を、さりげなく授けられたのでした。師の恩寵を知り、ナーグの頬を涙が伝わりました。ナーグは長い間待ち望んでいた師の御足を、自分の頭と心臓の上に置いたのでした。グルと弟子の関係を知る魂に幸いあれ! ナーグはその瞬間、ラーマクリシュナが、人間の姿をした至高者そのものであることを確信しました。
この件について、後にナーグは、こう言いました。
「シュリー・ラーマクリシュナを初めて訪問してから数日後、シュリー・ラーマクリシュナが、至高者の化身であることを知りました。師が、ドッキネッショルにおいて内緒でリーラー(神の遊戯)を行なっていたということを、師の恩寵を通して知ることができたのです。
誰も、師の祝福なしで、師を理解することはできません。たとえ一千年にわたる厳格な苦行を行なっても、師が慈悲をお示しにならなければ、師を悟ることは不可能でしょう。」
また他の日、ナーグがラーマクリシュナを訪ねると、ラーマクリシュナは食後の休息をとっているところでした。夏の非常に蒸し暑い日だったので、ラーマクリシュナは、ナーグに団扇であおいでくれるようにと言いました。ナーグがあおぐと、ラーマクリシュナはそのまま眠ってしまいました。
ナーグは長時間あおぎ続け、すっかり手が疲れてしまいましたが、師の許可なしにやめることはできないと考え、さらにあおぎ続けました。手が非常に重くなり、もはや団扇を持ち続けることができなくなったそのとき、寝ていたと思ったラーマクリシュナがパッとナーグの手をつかみ、団扇を取りました。
この件について、後にナーグはこう言いました。
「師の睡眠は普通の人々と違っていました。師は常に目覚めたままでいらっしゃることができました。神を除けば、いかなる求道者や成就者であっても、この状態に達することは不可能です。」
あるときラーマクリシュナはナーグに、自分のことをどう思うかと尋ねました。ナーグはこう答えました。
「あなたの恩寵によって、私はあなたが神であることを知りました。」
ナーグがこう言うと、ラーマクリシュナは深いサマーディに入り、自分の右足をナーグの胸の上に乗せました。
するとその瞬間、ナーグは驚くべき光景を目にしました。彼は、生物であれ無生物であれ、そのすべてに浸透し、天地に溢れ出る神の光を見たのでした。
つづく
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