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ジャータカ・マーラー(19)「スタ・ソーマ」(4)

 スダーサの息子は言いました。

「愛しい命と、涙にくれる親類たちと、もろもろの快楽を捨てて、誓いを守るためにお前は戻ってきたが、誓いを果たすことによっていかなる利益があるのか?」

 スタ・ソーマ王子は言いました。

「誓いを守ることによる優れた功徳は多いが、簡略に申し上げよう。
 誓いは心地よく、どんな味よりも味わい深く、また、苦労無しに功徳を成就する。
 誓いは、天に入るための門であり、悪趣を超えるための橋である。」

 これを聞いたスダーサの息子は、「立派である」と言ってお辞儀をした。そしてさらにスタ・ソーマ王子にこう尋ねた。

「他の王子たちは私につかまり、落胆し、恐怖によって勇猛さは奪い去られた。しかしあなたは勇猛さの輝きを失っていない。王子よ、あなたには死の恐怖がないのであろう。」

 スタ・ソーマ王子は答えて言いました。

「どんなに努力しても、誰も死を避けることはできない。そのようなものを恐怖して何になろう。
 またある人々は、善を積まず、悪におぼれて苦しんでいるが、来世の苦しみのことを考えないので、死を恐怖しない無智な者もいる。
 しかし私は、善業が習性となっており、心に後悔が生じるような悪業を犯したことがない。このように法に住している者の誰が死を恐れようか。
 私は多くの布施をなし、喜びを得、満足を得た。このように法に住している者の誰が死を恐れようか。
 永く考えてみても、悪についての心の痕跡さえ私は思い出さない。このようにして、私には天への道が浄められている。どうして死の恐れを私が抱こうか。
 それゆえに、お前は私を食べなさい。」

 この言葉を聞いて、スダーサの息子は、目は敬信の涙にあふれ、身の毛がよだち、鳥肌が立って、悪い怒りの習性を忘れ、スタ・ソーマ王子を大いに尊敬し、こう言った。

「悪は消滅しました。
 王の中の英傑よ、あなたのようなお方に悪をなさんと欲する者は、毒を食べるべきである。毒蛇を、燃える鉄丸を食べるべきである。彼の頭も心臓も百に砕けんことを。
 私の所行の醜さを法の鏡で見たので、私の心はおそらく慌てて法を切望している。
 どうか私に真理の法の言葉を語ってください。」

 スタ・ソーマ王子は、こう言いました。

「法を求める人は、それにふさわしい礼儀正しさで聞くべきである。
 より低い座に座って、美しい礼儀正しさを示して、喜びに満ちた両目によって蜂蜜のような甘露の言葉を味わっているかのようにして、
 尊敬の念に占められ、一意専心なる、安らかでけがれなき心をもって、また病人が医者の言葉を聞くように、尊重して法を聞くべきである。」

 するとスダーサの息子は、自分の上衣を高い石の板の上に広げて、そこにスタ・ソーマ王子を座らせて、自らは何も敷いていない地面に座り、スタ・ソーマ王子のお顔をじっと仰ぎ見て、こう言いました。

「尊者よ、さあ、お話ししてください。」

 そこでスタ・ソーマ王子は、第一の真理の詩をこう語りました。

「善き人との出会いは、ただ一度偶然もたらされたものであっても、永久に不動のものとなる。」

 スダーサの息子はそれを聞いて、「なるほど、なるほど」とうなずき、さらに「それから、それから?」と言って続きを促しました。

 そこでスタ・ソーマ王子は、第二の真理の詩をこう語りました。

「決して善き人から遠ざかってはならない。徳ある人と交わるべきである。徳ある人に近づくならば、その徳の花粉は広がって自然に付着する。」

 スダーサの息子はこう言いました。

「善き人よ、もろもろの真理の法の言葉を全身全霊で崇敬しているあなたは、真に正しく財を使ったし、正しく労苦を顧みませんでした。
 それから、それから?」

 スタ・ソーマ王子は、第三の真理の詩をこう語りました。

「たとえ王であっても、年老い、醜くなる。しかし善き人たちの法に老いはない。善き人たちのもろもろの徳に対する愛着は不動であるから。」

 スダーサの息子は言いました。

「まさにこれは甘露の雨です。本当に私は満足しました。
 それから、それから?」

「天空は大地から遠く、大海の此岸と彼岸は遠い。また、陽が昇る山と陽が沈む山は遠い。しかし、善き人々の法と悪しき人々の法は、それらよりもさらに遠い。」

 そのとき、スダーサの息子は、敬信と驚きのゆえに、心は敬愛と尊敬の念に変わり、スタ・ソーマ王子に言いました。

「聞いてみると、あなたのこれらの詩は、甘美にして、言葉は多彩で、とりわけその優れた意味が輝かしい。私は喜びに満ちています。この四つの詩への返礼として、私は四つの贈り物を捧げましょう。あなたが望むものがあれば、何でも要求しなさい。」

 そこでスタ・ソーマ王子は、驚きと尊敬をもって、こう言いました。

「あなたが贈り物を差し出すというのか。
 悪行の激情に支配されたあなた自身に力はないのに、善行を嫌っているあなたが、どんな贈り物を与えるのだろうか。
 仮に私が『これをください』と言っても、あなたの心は『与えよう』という心に欠けているだろう。だから私は、こんなことはもう十分である。」

 そこでスダーサの息子は、恥ずかしさのために少し顔を伏せつつ、スタ・ソーマ王子に言いました。

「あなたは私をそのように疑わないでください。
 王子よ、あなたはためらわずに何でも欲しいものを言ってください。私は命を捨てても、それらをあなたに与えましょう。」

 スタ・ソーマ王子は答えて言いました。

「真実を誓うものであれよ。
 人間を殺すことをやめよ。
 今捕らえられている人々をすべて解放せよ。
 そして今後、人間の肉を決して食べるな。
 人の中の勇者よ、これなの四つの優れた贈り物を差し出しなさい。」

 スダーサの息子は言いました。

「私はあなたに初めの三つの贈り物を与えよう。しかし四つ目に関しては、別の贈り物を選びなさい。あなたは私が人肉を差し控えることができないことを知っているではないか。」

 スタ・ソーマ王子は言いました。

「王よ、人肉を貪り食うことをやめきれないあなたに、どうして非暴力・不殺生という真実の誓いを守ることができようか。
 『命を捨てても、それらをあなたに与えましょう』と、あなたは先ほど言ったではないか。いかし今は全く異なってしまった。
 人肉をあきらめられないあなたが、どうして人間を殺すことをやめられるだろか。
 人肉をあきらめずに、どうやって初めの三つの贈り物を与えるというのか。」

 スダーサの息子は言いました。

「私はそのために王国を捨て、森の中での苦しい生活を選んだのだし、法を捨て、名声も捨ててまで選んだこの行為を、私が今さらどうして放棄するであろうか。」

 スタ・ソーマ王子は言いました。

「それだからこそ、お前はそれを捨てるべきです。
 お前はそれのために法も財も幸福も名声も失ってしまった。そのような悪事のよりどころを、どうして捨てることができないのか。
 お前はもう、悪の道をさまようことをやめよ。目覚めなさい。お前は真にスダーサの息子なのだから。 
 お前が殺すのでもなく、お前のために殺されたのでもない、動物や魚の肉がある。それらを食べて満足しなさい。人間を殺して食うことをやめなさい。
 王よ、あなたの心に支配されてはなりません。法に抵触することのない道を進みなさい。あなたはただ一人で多くの王や軍隊を打ち負かしてきたのだから、自分の心との戦いにおいて臆病となるなかれ。
 法に反する者は、死後、悪趣に落ちる。それゆえに、法に反することは、たとえ好きなことであってもおこなってはならない。
 法に抵触しない立派な道は、それが嫌いなことであっても、薬のようにそれを用いるべきである。」

 そのとき、スダーサの息子は、目は敬信の涙にあふれ、むせび泣きながら、スタ・ソーマ王子のもとに近づいて、両足にすがってこう言いました。

「この世界はあまねく功徳の花粉によって、幸福の香りをもって、正しくあなたの名声で満ち満ちている。悪者で、死の使者のような恐ろしい行為をする私に対し、真にあなたのように慈愛をもってふるまってくださるお方が、他にどこにいるであろうか。
 あなたは私の教師、尊師、真に神様です。あなたの言葉を私は最も尊いものとして崇敬します。スタ・ソーマよ、私は今後、決して人肉を食べません、また、あなたがおっしゃるその通りに私はいたします。」

 そうして二人は、捕らえられている王子たちを解放するために、牢獄に近づきました。輝きを失い、憂いに沈んでいた王子たちは、スタ・ソーマ王子の姿を見ただけで、心は明るくなり、笑い、「おお、我々は救われた!」と、最高の歓喜に達しました。
 スタ・ソーマ王子は、王子たちのもとに近づくと、優しい言葉をかけて元気づけながら、自分たちをとらえたスダーサの息子に対して害意を抱かない誓いを立てさせてから、束縛を解き、それぞれの王国に帰しました。そしてスダーサの息子も、王位に復帰させました。

 このように、とにかく善き人との出会いが得られれば、救済は成就されます。よって、救済を求める人は、善き人に帰依すべきです。
 そして世尊は、もろもろの過去世においても、このように人々を助けることに専心していたのです。
 また、素晴らしい法を学ぶことは罪過を減少し、功徳を生むものであると知るべきです。
 また、誓いを守ることは功徳の宝庫であり、善き人々は自分の命・幸福・権力を顧みずに誓いを守ることを知るべきです。
 そしてまた、慈悲の心を称える際にも、この物語は引用されるべきものです。

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