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シュリーラーマチャリタマーナサ(2)「聖者の功徳」

第一章

「聖者の功徳」

 まず、無智が原因のあらゆる迷妄を解消させる地上の精霊ブラーフマナ僧の足を崇めたてまつる。そして、もろもろの徳性を内蔵する聖者たちに対して、あらん限りの愛をこめて敬意を捧げる。

 聖者の徳性は綿の一生に似ている。綿は純白でやわらかく、乾いていて比類なく有用である。聖者の人格はとらわれがないために、一見乾いて見える。心に無智と罪悪の闇が入り込む余地がないので、徳性は粗綿のように純白で浄らかである。粗綿からは糸という貴重な製品が紡ぎ出される。聖者の善行は、高邁な精神という名の粗綿から紡ぎ出される糸に見立てられる。聖者が貴重な存在として、広く尊敬を集めるのはこのためである。

 綿花は種をもがれ、紡がれ、糸になり、針穴をふさぎ、織られて布となって染められ裁断され、あらゆる苦難を忍んだ末に、衣装となって人の身を被い護る。聖者もまたさまざまな苦難に耐えながら、生類の諸悪の穴をふさぎ、痛みを和らげる。だからこそ、聖者は賛美に値するのである。

 聖者社会は歓喜と法楽に満ちている。聖者の薫陶は、聖地のなかの聖地プラヤーグが、生きた人間となって、灯明をかざして世間の闇を照らすことと考えてよい。聖者社会という名の聖地には、ラーマ信仰という名の聖河ガンガーが流れる。そこには、ヴェーダ思想の復及者、サラスワティー様が住まわれる。

 「あれをしろ、これをするな」などという勧奨と禁止の戒めは、末世の罪障を消す太陽の娘ヤムナー川に見立てられる。ヴィシュヌ神とシヴァ神の物語は、聖なる三河合流トゥリーベニの荘厳美に相当する。その物語を聞く者には、無上の歓喜と法楽が即座にもたらされる。

 聖者社会という名の聖地に定住しながら、不動の信仰心を貫く者は、カルパの終末時にも枯れない神樹アクシャイワトに相当する。苦行者たちの清らかな日常生活は、聖地で世過ぎをする庶民に当たる。

 聖者社会という名の聖地へは、誰もがどこからでも自由に出入りできる。尊敬の念をこめ恭謙な態度で聖地に奉仕するとき、苦悩はすぐに解消する。そこに住みつき、日夜歓喜して称名賛嘆し、真理を究め、祈りとともに聖河の水で心身を浄める篤信者は、現世において、真理、財福、功業、解脱の四種の果実を存分に享受できる。そこで行う精進潔斎には、カラスが郭公に、五位鷺が白鳥に変わるほどの功徳がある。これを聞いて誰も驚いてはならない。聖者社会という名の聖地は、常に清朗、高雅、霊妙の雰囲気に包まれており、もろもろの効験が速やかに現れる。良き導師とのめぐりあいは、決して不稔に終わることはないのである。

 ヴァールミーキー、ナーラダ、アガスティヤなどの各導師が、それぞれの信仰体験を口づてに語り伝えている。水中に潜む者、地を駆ける者、大空を翔ぶ者、その他この世にあらんかぎりの生命体・非生命体、各種各様の生類、そのなかで、いつであれ、どこであれ、なんらかの努力の結果、誰かが知識、名声、財宝、賞賛を得たとすれば、それは良き師とのめぐりあいの成果だと、例外なく考えなければならない。経典にも世俗の教えにも、それ以外の言葉はどこにも説かれていない。

 良き師とのめぐりあいがなければ、悟道は叶えられない。またそれには、ラーマ様のご慈愛が不可欠である。樹に例えれば、良き師とのめぐりあいは歓びと幸せの根、めぐりあうための努力は花、めぐりあいの功徳はまさに果実である。

 悪人も良き師にめぐりあえば善導される。触れる物すべて黄金にかえてしまうパラス摩尼が鉄を黄金に変えるようなものである。反対に運悪く聖者が悪人のなかにあっても、ちょうど毒蛇が頭頂に持つといわれる摩尼宝珠のように、独自の光輝を放ちつづける。摩尼宝珠はけっして蛇毒をうけつけず、独り孤高の輝きを保つ。聖者もまた悪人の毒気にいささかもわざわいされることなく、常に善行をもって惜しみなく周辺を照らしてやまない。創造神ブラフマー様、守護神ヴィシュヌ様、破壊神シヴァ様をはじめ、詩人、碩学がいくら頌詞をつらねてみても、聖者の恩徳を説きつくすことはできない。例えば、野菜行商人が摩尼宝珠の真価を説明できないのと同じである。もとよりわたしにも、聖者の功徳を説く力はない。

 不動の平等観の上に立ち、親友と仇敵を差別しない聖者に、わたしは尊敬を捧げる。片方の手に摘みとられ、もう一方の手で大切にいたわれる花が、その両方の手に馥郁たる芳香を平等にとどけるのに似る。聖者は敵味方の区別なく誰にでも等しく幸せの香りを与える。聖者は素直な心を持ち、誰に対しても平等の慈愛を示す。そうした聖者の特質と愛を知ったうえで、わたしは聖者たちに「願わくば慈愛をもって、ラーマ様の御足に対する熱烈な愛をお授けください」と懇願する。

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