クリシュナ物語の要約(35)「ナンダとヤショーダーの悲しみを慰める」
(35)ナンダとヤショーダーの悲しみを慰める
クリシュナの親しき友であるウッダヴァは、ヴリシュニ族の中でも最も傑出した者でした。彼はクリシュナの父のヴァスデーヴァの弟に当たるデーヴァーバーガの息子で、クリシュナのいとこにあたり、クリシュナより少しだけ年上でした。また、彼は聖仙ブリハスパティの直弟子であり、優れた知性の持ち主でした。
あるときクリシュナは、最愛の友であり最高の献身者であるウッダヴァの手を取ると、次のように言いました。
「ああ、やさしきウッダヴァよ、今から私の父が暮らすヴラジャに出かけていって、私の両親を喜ばせてくれないだろうか? そして私との別離に悲しむゴーピーたちに、私からの伝言を伝えて、彼女たちを慰めてあげてほしいのだ。
彼女たちは自分の心を、いや、すべてを私にゆだねて、すべてのものを私に放棄したのだ。そして私に対して、自分たちの命をも捧げているのだ。
最愛の者である私が遠くで暮らすため、ゴークラの女性たちは、私だけを思い続けて、別離の苦しみにやつれて、すべてを失念してしまっているのだ。
彼女たちは私だけに心を没頭させて、私が帰ってくるという約束だけを頼りに、何とか命を保っている状態なのだ。」
こうしてウッダヴァはクリシュナからゴーピーたちへの伝言を受け取ると、ゴークラへと出発しました。
そして太陽が沈み始める頃、ウッダヴァはゴークラに到着しました。
家の玄関にクリシュナのしもべのウッダヴァが立つのを見て、ナンダは大いに喜び、彼をクリシュナそのもののように見て心からの礼拝を捧げると、愛を込めて彼を抱きしめました。
そしてナンダはウッダヴァを心地よい長椅子に座らせ、最高の食事を施した後、こう話しかけたのでした。
「ああ、ウッダヴァよ。私たちの親しき友であるクリシュナは、今でも元気にしているだろうか? 彼は友人や親しい者たちに囲まれながら、家族とともに楽しく暮らしているんだろうね。
ダルマを守るヤドゥ族を憎み続けたあの邪悪なカンサは、自分の罪故に、家来とともに死んでしまったのだった。
ああ、今でもクリシュナは、私や母ヤショーダー、遊び友達や牛飼いなど、彼を守護者と見たヴラジャの人々を、そして牛飼いやヴリンダーヴァナの森、ゴーヴァルダナの丘を覚えているだろうか?
クリシュナは再びここに戻ってきて、友人や親族に元気な顔を見せてくれるだろうか? そうすれば私たちはもう一度、高い鼻に笑みを浮かべた、あの子の顔を見ることができるのに!
私たちはクリシュナに助けられて、森の火事や嵐、豪雨、悪魔アリシュタや大蛇など、それら超えがたき災難を克服できたのだった。
ああ、愛するウッダヴァよ、私たちはクリシュナが行なったことや、あの子の陽気な眼やほほえみ、あの子との会話を思い出すと、もうとても仕事などできなくなるのだ。
クリシュナの足跡で飾られた丘や河、森や遊び場を見ただけで、私たちの心はあの子の事でいっぱいになってしまうんだ。
聖仙ガルガ様がそう言われたように、クリシュナとバララーマの二人は、神々の何か重大な目的を果たすためにこの地上に降りてきた、神々の中の最高者じゃないかと、私にはそう思えるんだ。
一万頭の象の力を持つあのカンサや、強大な格闘家たち、そして象のクヴァラヤーピーダを、あの二人はライオンが獣を殺すように、戯れるようにして殺してしまったのだ。
そしてクリシュナは、ゴーヴァルダナの丘を、片手で一週間も支え続けたのだった。
また、悪魔プラランバやデーヌカ、アリシュタ、トリナーヴァルタ、バカなど、神々やアスラまでも打ち負かした者たちを、あの子は戯れるようにして殺してしまったのだ!」
クリシュナが行なったことを思い出すうちに、ナンダはクリシュナへの愛に心を満たされていき、こみ上げる愛の思いに圧倒されて、ついに沈黙してしまいました。
そしてヤショーダーも、ナンダがクリシュナの事を話すのを聞くと、眼からあふれるように涙を流して、クリシュナへの深い愛ゆえに、胸からは自然と乳が流れ出たのでした。
ナンダとヤショーダーがクリシュナに対して抱く、このように素晴らしい愛の姿を見ると、ウッダヴァは大いに喜んで、次のように話し始めました。
「万物の創造主であるナーラーヤナに、そのように深い愛を抱かれたあなた方お二人は、ああ、この世で最も称えられるべき者と言えるでしょう!
クリシュナとバララーマの二人は、この宇宙の原因であり、真我と根本原質でもあられるのです。あのお二人は、自分自身は永遠なるものであるものの、すべての被造物の中に入られて、それらを支配されているのです。
自分が死ぬまさにその瞬間に、ただ一瞬でもクリシュナに心を向けたなら、蓄積された彼のカルマは燃やし尽くされ、ブラフマンと一つになり、太陽のような輝きを手に入れて、最高の帰るべき場所に至ることができるのです。
ヤドゥ族の守護者であるクリシュナは、必ずや近いうちにヴラジャに来られて、あなた方ご両親に喜びをもたらされるでしょう。
カンサを倒した後には必ずここに戻ってくるという約束を、クリシュナは必ず果たされるでしょう。
それ故、ああ、祝福されしお方よ、どうかもう悲しまないでください。あの方は、すべての被造物の中に住んでおられるのです。
あのお方は、何にも執着を持たずに、誰一人として憎くもなく、誰にも平等であり、父も母もなく、妻も子供も、親族もありません。
あのお方自身はカルマに縛られぬものの、徳ある人々を守護するために、神々や人間や他の生き物として、幾度もこの世に降誕されるのです。
不生の主は三グナを超越されており、決してそれらに影響されません。しかしそれでも主は、サットヴァとラジャスとタマスを身に帯びて、それらを用いて、戯れにこの宇宙を、創造、維持、そして吸収されるのです。
バガヴァーンであるクリシュナは、ただあなただけの息子ではありません。あのお方はすべての人の息子であり、すべての人の父であり、母であり、すべてのものにとっての全能の主であられるのです。」