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クリシュナ物語の要約(34)「師の息子を死の世界から連れ戻す」

(34)師の息子を死の世界から連れ戻す

 
 カンサを殺害したクリシュナは、未亡人となって悲しむカンサの妃たちを慰めると、殺された者たちの死後の幸福を願って、死者のための葬儀を執り行なったのでした。

 そしてクリシュナとバララーマは、その後、カンサにとらわれの身となっていた実の両親であるヴァスデーヴァとデーヴァキーを解放すると、彼らの頭に足をつけてお辞儀をしました。

 しかしヴァスデーヴァとデーヴァキーは、自分たちに頭を下げる二人の息子が、実は至高者の化身であることを知ってしまったがために、非礼を働くことを恐れて、彼らを抱きしめようとはしなかったのでした。

 クリシュナは、自分とバララーマが至高者の化身であるという真実を、両親が早まって知ってしまった事を知ると、マーヤーの力によって両親を覆って、再び、自分たちが至高者の化身であるということをわからなくさせました。

 そうしてクリシュナは改めて両親に優しい言葉を述べ、両親はクリシュナとバララーマを膝の上に置いて抱きしめて、最高の幸福を味わうことができたのでした。
 滝のように涙を流して、深い愛で結ばれた彼らは、感極まって涙で喉を詰まらせ、一言も発することができないまま、抱き合い続けたのでした。

 こうして両親を慰めた後、クリシュナは、母方の大叔父にあたるウグラセーナを、ヤドゥ族の王に任命しました。

 またクリシュナは、カンサを恐れて国外に脱出し、不遇の日々を送っていた、ヤドゥ、ヴリシュニ、アンダカ、マドゥ、ダーシャーラ、ククラなどの部族の人々を呼び戻すと、十分な財産を与えて満足させ、手厚く礼遇した後で、それぞれの家で住めるように手配したのでした。

 その後、クリシュナとバララーマは、養父のナンダのもとに向かうと、暖かく彼を抱きしめて、このように言いました。

「ああ、お父さん。お父さんたちは、僕たち二人を深く愛して、気遣って育ててくださいました。お父さんとお母さんが僕たちに抱く愛情は、自分に抱くものよりも深いものでした。
 ああ、愛するお父さん。どうかヴラジャへお帰りください。僕たちはこの都に住む親類や縁者に喜びを与えてから、僕たちへの愛で悲しむお父さんたちに会うため、必ずまたヴラジャを訪れるでしょう!」

 このような言葉でナンダと牛飼いたちを慰めると、クリシュナは彼らに衣服や装飾品、日用品などを提供して、十分な栄誉を授けたのでした。

 クリシュナからこのような優しい言葉をかけられたナンダは、愛の思いに圧倒されて、二人の御子を愛おしく抱きしめ、あふれるように眼に涙を浮かべて、その後、ヴラジャへと帰って行ったのでした。

 その後、クリシュナとバララーマは、聖典の定めに従い、聖なる紐を受け取る儀式を行いました。そしてその後、自分たちの智慧を隠し、まるで普通の人間のように、サンディーパニというブラーフマナのもとに弟子入りしました。二人はしばらくの間、師の家に一緒に住みながら、師を神のようにあがめて、柔順に、恭しく、深い信仰心をもって奉仕をしました。クリシュナとバララーマは、自分たちがそのようにすることによって、人は師に対していかに接すべきかを、身をもって示したのでした。
 最高のブラーフマナであるその師は、二人が純粋な信仰心で示したその奉仕に心から満足して、すべてのヴェーダとその補助学、ウパニシャッド、ダヌルヴェーダ(武術)とその秘儀、ダルマシャーストラ、様々な哲学体系、論理学、政治学などのすべてを伝授したのでした。
 そして二人の御子は、それらの多くの学問を、たった一度学んだだけで、すべて習得したのです!
 二人の御子は、64の昼と夜の間に、64の学問と技芸を、心を専念して完全に習得しました。そして、教授への報酬を求めるよう、師に懇願したのです。
 二人の御子の驚異的な能力と超人的な智性を眼にしたサンディーパニは、妻と相談した結果、かつて海で死んでしまった自分たちの息子をよみがえらせてほしいと、二人の息子に答えたのでした。

 無限の力を持つ二人の御子は、師の命令に「わかりました!」と答えると、直ちに師の息子が亡くなった海辺に行き、しばらくそこに座りました。すると、彼らが主であることを知った海の神が、贈り物を持って姿を現したのです。
 そこでクリシュナは、海の神に言いました。
「かつてあなたが連れ去った私の師の息子を、今すぐ私たちのもとに返すのだ!」

 すると海の神は答えました。
「ああ、クリシュナよ、私はその子供をさらってはおりません。この海の底には悪魔パンチャジャナが住んでおり、彼がその子をさらっていったのです!」

 それを聞いたクリシュナは、直ちに海の中に入っていき、ほら貝の姿をしたその悪魔を殺したのでした。しかし悪魔の腹の中には、師の子供は見つかりませんでした。
 そこでクリシュナは、悪魔の身体であったそのほら貝を手に持つと、バララーマとともに、死神ヤマが支配するサムヤマニーの都に行き、そのほら貝を大きく吹き鳴らしました。すさまじいその響きを耳にすると、ヤマは直ちに姿を現して、二人の御子への深い信仰心を示し、礼拝を捧げて言いました。
「ああ、戯れに人となられた主ヴィシュヌよ、私たちはあなた方お二人に何をすればよろしいでしょうか?」

 クリシュナはこう言いました。
「偉大なる王よ、カルマ故にここに連れてこられた私の師の息子を、私の許可のもと、直ちに返してほしいのだ。」

 するとヤマは「わかりました!」と言って、サンディーパニの息子を連れてきました。二人の御子はその子を連れて師のもとに帰ると、
「先生、どうかさらに別の望みをおっしゃってください!」
と言いました。

 するとサンディーパニは答えました。
「ああ、愛する息子たちよ。あなたたちはもはや師への恩義を十分に返されたのだ。あなたたちのような弟子を持てた師にとって、叶わぬ望みなどが存在するだろうか?
 ああ、雄々しき者たちよ。あなたたちはもう家に帰りなさい。あなたたち二人の栄光が、世界のすべての人々を浄化して、この世ばかりかあの世でも、聖なる明智が鮮明に生き続けるように!」

 こうして、師の許しを得た二人の御子は、風のように走る馬車に乗って、マトゥラーに帰って行ったのでした。
 そしてマトゥラーの人々は、しばらくの間見ることができなかったクリシュナとバララーマの姿を眼にすると、大いなる喜びに満たされたのでした。

つづく

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